和風3Dアクション『大神』

kodamatsukimi2006-06-07


 公式(音注意) http://www.o-kami.jp/  ASIN:B000A85PIY


・『大神』は一面、良く出来ているけれどよくある普通のアクションゲームです。
 『鬼武者』に比べ広く受け入れられる方でないけれど、高く評価されるだろうデザインや
 全編に渡り手抜かりない作り込みは、任天堂ゼルダ』を思わせるそれ。


・アクションゲームとしては、極力間口を広く取る作り。
 クリアできないということはないだろうまで、
 上手くなくともお金やアイテム使った力押しで何とかならないところ無いところは
 手ごたえ無いようにも感じられますが
 両手両足を表現して操作する人間ではなく
 姿勢低く前進と跳躍しかない狼を、操作キャラクターとしたことによる分りやすさ、
 それをアクションゲーム老舗カプコンの実力が支える堅実な作り。
 クリアするだけならば簡単なアクション。これが最近の風潮か。
 3Dアクションとしての出来は、和風世界観あってセガの『どろろ』などを思わせます。


・というところ具体的に不満点挙げるならば、これ3Dアクション共通に見られることですが
 空を飛べないこと。広く高い巨大な相手との戦いがない。
 戦闘時に動ける範囲がせまく、特に雑魚相手は戦い方の幅が狭い。
 そのあたりがRPGのような印象を受けて、また『ゼルダ』のようだ、
 と言いたくなるところですが、『God of War』を引くまでもなく
 アクションゲームとして『ゼルダ』は雑魚戦闘も相手と距離位置取りに駆引きがあり
 むしろ、成長させれば何とかなって、
 戦闘舞台が普段の移動舞台から切り離される本作の方がより
 RPGと言われるものに近いのかも。

・3Dアクションゲームが現在表現できているのは
 多数の弱い敵を殲滅するSTG方面、
 対等の大きさ強さと競う対戦格闘方面、
 こちらの攻撃は当たるのに向こうの攻撃は当たらない主人公特典に守護されたFPS戦場。
 自分より強くて大きい敵との戦いを表現するアクションゲームはなかなかない。
 『ワンダと巨像』は、大きい敵ではなく可動地形戦場。舞台衣装でなく舞台装置。
 せっかく3Dだから立体なのだから縦方向にも動き回り飛び回れば、と思うのですが
 3DSTGも含めてそういうのは難しいよう。
 その点『God of War』のQTE、でなくて止め決めアクション表現方法はありです。



・『大神』の特徴、3Dアクションとしての新しさは
 『ボンバーマン』のような見下ろし型、『マリオ』のような横から見た型、
 それに続いてここ10年試行錯誤続けられている3Dアクションにおいて
 今までにない表現をする、というところにこそあります。

・公式サイト(音注意 http://www.o-kami.jp/)のプロモーション映像にあるように
 本作では3Dで奥行き持って表現された画の上へ、平面状に筆をおいて図を描くことで
 様々なアクションが行える点がそれ。
 アクション戦闘画面を一時停止して、敵に横線引けばずばっと斬れます。
 この面に関してはこちらがまとめておられます。

Critique of games-メモと寸評「二次元と三次元の往復『大神』(体験版)」http://d.hatena.ne.jp/hiyokoya/20060106#p1

  ――それは、たとえば、三次元の存在であるはずの風景をパシャっと写真にとって、
  写真に傷をつけたら、現実の世界にも傷がつけられてもいいのではないか? 
  ――というような欲望です。


・この手段は戦闘時だけでなく、進行上邪魔な障害物を壊したり
 離れた地点への移動手段として用いたりといった
 アドベンチャーゲームのフラグ進行アイテムとしても働きます。
 『ゼルダ』みたい。いやいや『ビューティフルジョー』みたい。
 「ゼルダみたい」を連呼するとボキャブラリー貧困(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20060426#p1)と
 自ら認めるようなものなのだ。

・いや、でも認めましょう。「ゼルダみたい」です『大神』。
 他にそういう『ゼルダ』ほどの完成度を持った3DアクションRPGがなかなかないゆえか。
 『プリンスオブペルシャ』や『ICO』、「アクションアドベンチャー」の範疇ならば
 『トゥームレイダー』とか『メトロイド』などいくつも上がるのですが。
 『どろろ』みたいだ(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20041009)、
 といっても例の方が知られていないし。

・そこにももうひとつ不満点あって、全体の構成緩急盛り上げ曲線調整があまり上手くない。
 盛り上がるところは大変よろしいのですが、だれるところ随分だれる。
 アクションなのかRPGなのか中途半端の悪さが出ていて
 ここは1日1ダンジョン団子串構成の『ゼルダ』に比べて欠点です。



・和風に合わせて閑話休題

・それで、その三次元を二次元で切り取る表現は結果どうだったのか、というと
 期待されたほど斬新には働いていないです。
 上プロモーション映像の戦闘画面における、狼だからこその軽快な動きの表現、
 敵を空中に突き上げての飯綱落としなどに期待されるあたりも前述の通り、
 立体的でない、例えば岩場を飛び回っての位置取り、竹薮でしなりを使って飛び回る、
 といったものがまったくない狭く平たい戦場ゆえ、有効に働いていないように
 敵を神の視点で翻弄出来るのでなく、アドベンチャー部分のフラグのように
 用意された舞台で脚本通り指示通りの機に、という感。 
 その気持ち良さ最大値は『God of War』止めアクション表現そのままそのもの。


STGを遊んでいるときスタートボタンを押してポーズを掛けるのは邪道。
 RPGのラストボスは体力全回復呪文を絶対に使えない。

・コンピューターという計算機神の掌中で遊ぶゲームであるから他に仕方がない。
 3D空間に神の手で直接介在することは
 それこそ『ラクガキ王国』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20041123#p2)のように
 これもやはり制限の上で、不自由の中の自由を楽しむしかない。
 それが「ゲーム性」というゲームの原理的面白さを成立させるための要件なのだと。
 必勝法はあってはいけないけれど、必ず勝つ方法がなければいけないのだから。



・『大神』は、何といってもそのデザインが素晴らしい。見た目が良い。
 アクションゲームとしても良く出来ている。さすがカプコンの実力だ。
 昨今風潮に合わせた作り込みもほど良くて
 クリアするだけなら重すぎず、やりこみ要素も充分。
 総じて『ゼルダ』に並ぶ「神ゲーム」。主人公が天照大神、でなく大神天照であるし。 
 今年一番のお勧め作品であります。 




・前々回『マザー3』について書いたものに以下のような感想を頂きました。
 「褒めているのかけなしているのか微妙」。
 以前の『God of War』の感想(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20051123)にしても
 褒めているのか否定しているのか「微妙」。
 その通り。

・つまり、一言で言うならば、良く出来ているけれど不満なく面白いとは言えないのです。
 『大神』も、良く出来ている。と見えます思います感じます。
 上の段落で書いたこと、ひとに薦めるに嘘はないけれども
 自分がそれを良いと思うだけ、面白いとは思っていない。
 良く出来ているだけでは面白さを感じられない。


・しかしこれは公明正大公平中立たる批評品評論評論文ではなく
 単に感想文であるので、思ったことをそのままに書くのであります。
 けれどしかし自分ひとりが読むでなく、公開の場に挙げるからこそ生じる「微妙」さ。
 またもちろん、ここを批評としてもバイヤーズガイドと取ろうと、
 価値無しと見ようとも読んで頂いたかたの自由。でありますからし
 そういう味の好みもまた味とし、お楽しみのほどをお願いする次第。


・和風アクションRPG調3Dアクション『大神』は
 良く出来ているけれども、新しさに感じる面白さは、感じられない。
 『どろろ』の方が話の結構良くて好きです。 



・次回作も、まさか海外で売れないということがなければ、あると思われますが
 『オカリナ』に対して『タクト』の出来だとまずい。
 そのあたりは年末「たそがれゼルダ」がどうなっているかにもよるか。
 本家の実力や如何に。

・いえ決して『無双』と『BASARA』のような関係ではございませんとも。
 一作にして『ゼルダ』を越える独自和風世界観を打ち立てた、
 紙上ではなく動きある画面上でこそ映える『大神』のデザインは
 文句なしに素晴らしいです。