『グリムグリモア』

kodamatsukimi2007-06-16


 公式(音注意)http://grimgrimoire.jp/index.html ASIN:B000LA7FIE

・ジャンルはRTSである。パッケージにそう書いてある。
 おおうなるほど「リアルタイムストラテジー」か。
 だから同じ様な見た目の『オーディンスフィア』と混同されて
 あ、間違えたこれじゃないや、ということでしか話題になっていないのか。


・と思っていたのですが、これは「リアルタイムストラテジー」ではないのである。
 PCの『エイジオブエンパイア』みたいな、
 韓国とかアメリカで世界大会とか行われて盛り上げっているけれども
 こちらでこの手は、PCゲームすなわち18禁、もしくは昔のセガハード愛好家、
 つまり今のXBOX360のように、マイナーであることにこそ価値を見出す種のひとにのみ
 これこそスクウェアあたりのRPGなぞに踊らされている連中には
 理解できない上質のゲームなのである。という認識で受け止められている、
 マウスとキーボードで何か難しそうなことをしゃかしゃかしているゲーム、
 とは違うのである。
 まあ見た目は重要であります。
 それでこそ『オーディンスフィア』の価値もあるというものですからして。
 モノリスソフトとかに騙されすぎな気がする。


・箱には、「RTS(リアルタイムシミュレーション)」と書いてある。
 な、る、ほ、ど。そういう読み方があったか。
 端的に言うと『ファミコンウォーズ』が
 ターン制ではなく『FF』でいうところのウェイトアクティブターン制になった、
 対戦でなく1人用の戦争シミュレーションゲームである。
 コマンドを選んでいる間は止まっているので
 「リアルタイムストラテジー」のように「リアルタイム」ではなく
 そして『ファミコンウォーズ』と同様に、対人対戦向きの作りではない。

・けれども1人用リアルタイムストラテジー風、戦争シミュレーションゲームとして
 これ以上良くできているものはない出来。
 ヴァニラウェアhttp://vanillaware.co.jp/index.htm)と日本一ソフトウェア
 どちらがどの程度寄与しているのかわからないけれども
 大きく見直さなければなるまい感じ。これは良いゲームです。




・いわゆる「リアルタイムストラテジー」というものが
 『エムブレム』や『タクティクスオウガ』がむやみやたら評価されている、
 のに比べて本邦まったくあれであり、『ハンドレッドソード』が売れなくて
 『ドラゴンフォース』がそれなり、ということからしてもセガのせいではないですが
 つまり単純に言って、負けるゲームが好かれないからである。
 特にシミュレーションゲームは時間がかかる。
 そして『桃鉄』などのように運のせいにもできない。
 明らかに自分が下手だから、愚かだから、間違えたから負けたのであって
 まだ勝てる相手ではなかったから負けた、と、誰かのせいにはできないから
 大いに嫌われているのだと思われます。


・このジャンルは、とかく難しそうな仕組み、に何か見えますけれどもそうでもない。
 戦争ゲームは、部隊を駒に見立てて敵軍に攻め込み、
 敵大将を討ち取ったり殲滅させたり本陣司令部を落とすと勝ちである。
 勝敗を決めるのは戦力差と、その活用方法、
 そして地形とか天候とか突発的なアクシデントなどの運である。
 そのどれを重視するかの違いや、現実にある戦争というものをシミュレートし
 勝ち負けを楽しむゲームに落としこむ過程で、どの要素をとるかという違い。


・これらのゲームは、どうすれば遊んでいて楽しめるか。
 もちろん勝つこと。さらにいうと、自分の力で勝つことであります。
 明らかに敵が弱く、しかも自滅するような手段ばかり取ってくる相手ならば
 勝利しても自分がえらいと思うことが難しくなる。
 ほぼ必ず勝てること。しかし勝てた要因は遊び手の腕のように思えること。
 それが楽しい1人用戦争シミュレーションゲームの条件。RPGの戦闘も同じです。


・具体的にはどうするか。その一例、RPGで明確に示されているように
 敵は強くならないけれど、こちらは強くなるようにすれば良いのである。
 敵戦力は固定一定なのに、こちらの戦力は常に増強していく様にする。
 そして勝つことで強くなるようにすれば良いのだ。
 なぜ勝てたのか。それは自分が強かったから、ではなく強くなったから、なのである。

・『エムブレム』も『タクティクスオウガ』も
 シミュレーションRPGと呼ばれるジャンルはこれであります。
 RPGをシミュレーションしているわけではない。
 数字で状況を表している仕組み、がシミュレーション、
 その数字を変化させて発生する状況や仮定を楽しむのがシミュレーションゲーム
 その対象が戦争の勝ち負けなら戦争シミュレーションゲーム
 戦争シミュレーションのような見た目をしているRPGが、シミュレーションRPG
 その程度の意味でしかない。RPGという言葉と同じ程度に。


・では逆に、自分が強くならないけれど、自分の力で勝てた気になれて
 常に勝てるゲームはどのようなものか。
 自分は強くなるけれど、同じ様に相手も強くなるようなゲームではどうか。
 こちらとあちらに戦力の差がないのなら、勝ち負けは手段と運で決まる。
 RPGとは逆のこれらでも、広く認められているシミュレーションゲームがあります。
 『桃鉄』『いたスト』『カルドセプト』などのボードゲーム
 『カルドセプト』はそうでもないですか。複雑さと一般性は半比例。

・これらで重要なのは運。戦力、強さに差がないのだから
 勝ち負けは常に一方的にはならず、常には勝てないゲームになる。
 けれどそれを許せるのは、馬鹿だから負けたのでなく相手が優れていたからでなく
 単に運が悪かったから、と言うことが出来るから。
 「不思議のダンジョン」もこれです。
 運が悪かった。自分のせいではない。たまたまだ。
 勝ったら必然負けたら偶然。
 そうでなければ楽しむための娯楽であるゲームはゲームではない。


・そのどちらでもないもの、戦力差があるわけでもなく、運の要素もないもの。
 そういうゲームでは、勝敗は常に自身の実力であり負けたら言い訳がきかない。
 常に勝てるわけではない。
 けれど、逆に言えば、上手ければ割と常に勝てるわけであり
 運でなく始めの強さに差があったわけでもなく、明らかに自分が上手いからで
 勝てれば明らかに前二者より楽しい。嬉しい。
 しかし割と常に勝てる分、割と常に負けてしまう分も有ってしまう。
 そういう図式がコンピュータゲームではっきりしたのは
 運が排除された対人対戦が、まともに機能した対戦格闘からであります。

・なぜ対戦格闘が、長く続けば勝てるひとと勝てないひととに分かれてしまい、
 勝てないひとは当然続けなくなってしまうだろう構造なのに長く続いているのは
 戦力、つまり操作キャラクター性能に差ではなく個性を持たせて
 勝ち負けは操作の上手さだけではない、ような気にさせるその仕組みと
 上手い方が必ずしも一方的に勝てることはないようにするための
 ガードの仕組みや対戦時間の調整や各種ゲージの採用といった仕組みなどの
 目先の変化付けのほかに、他に上手さの差が明らかになるゲームがないこと、
 つまり勝てるひとが他に移らないこと、
 それで保たれる人数がそのジャンルを維持するに足りたから、
 というように言えますけれども
 何よりキャラクターを操作して戦う仕組み自体が楽しいから、
 ある程度決まった動きしかしてこないコンピューター相手でも楽しめる、
 最低限度あるゲームジャンル自体の楽しさが、大多数のRPGと違ってあるからです。
 キャラクターが成長しなくたって、自分がある程度以上は上手くならなくとも
 動かしているだけでもそれなりに楽しいからである。


・そして、動かしているだけでは楽しくない、
 アクションゲームではないシミュレーションゲーム
 戦力差がなく運の要素も強くない、そうあるのが「リアルタイムストラテジー」。
 これはようするに対人を主とした対戦型シミュレーションゲームであります。
 ターン制ではなくリアルタイムに、同時に互いが操作できるようにすることで
 頭が悪かったからではなく、操作が下手だから勝てなかった、と思えるようにした
 戦争シミュレーションゲーム

・『三国志大戦』はこれです。
 なぜ『三国志大戦』が「リアルタイムストラテジー」でありながら
 RPGSRPGには及ばずとも対戦格闘並みには受け入れられたのかと言うと
 いわゆるリアルタイムストラテジーといわれるものよりも
 頭が悪くて負けた、と思える要素を省いて
 対戦格闘のように、操作がしくじったからこそたまたま負けてしまった、
 と思えるようにしたことと
 そしてシミュレーションでありながら、アクションゲームとしても楽しめる程度
 操作していて、動かしているだけでそれなりに楽しいから、であるのです。



・その、頭が悪かったから負けた、と「リアルタイムストラテジー」から
 省かれた要素を含んだままのゲームもあります。『ファミコンウォーズ』。
 その要素とは、ユニットの生産です。

・戦争シミュレーションゲームというと
 普通浮かべるのは『大戦略』のようなゲーム画面であり
 SRPGでもRPGのそれでもない。けれど、どちらも戦争シミュレーションであり
 そして『信長の野望』のような国取りシミュレーションゲーム
 というようなジャンルもまたそうです。
 違いはシミュレーションゲームとして注目している範囲の違い。

・国取りシミュレーション型は、戦場で戦闘を開始する前の戦力差を付け合う行為も
 また戦争の一部である、という意味合いといえます。
 戦場に持っていく戦力を多く強くする生産要素も戦争シミュレーション。
 その要素を単純化して、その一段下のスケールである、
 いわゆる『大戦略』規模のシミュレーションゲームも、持ち込んでいます。
 戦場にある都市を占領することで、ターンごと資金が増えて
 それで戦力を増強できる、という仕組み。
 国取りのそれのように大掛かりではなく現実味も薄いけれど
 戦場の戦術味、部隊がただぶつかりあうだけよりは複雑味が増すし
 部隊能力差も付けやすく、能力成長しない分を補うことも出来る。
 ただ、時間がかかり過ぎてしまうのが欠点ではあります。

・『ファミコンウォーズ』は、現実味がないのに現実風にしなければならない方向性の
 『大戦略』が陥らざるを得なかった複雑冗長な仕組みを
 極端に簡潔に、ステージクリア型コンピューター対戦主の
 1人用戦争シミュレーションとして作り変えたゲームであると言えましょう。
 『大戦略』あってこその『ファミコンウォーズ』。
 それはファンタジー、空想物語世界があってこそのRPG、というのに同じ程度に。



・『ファミコンウォーズ』シリーズがどの程度売れたのか存じませんけれども
 SRPGほどではなく「リアルタイムストラテジー」よりはましであろう、と思わます。
 「リアルタイムストラテジー」は、1人用で、ゆえにターン制で制限時間がなく
 負けたのは操作が下手だったからでもリアルタイムで慌ててしまったからでもない、
 と自分に言い訳できない『ファミコンウォーズ』よりもましであるはず。
 しかし売れないのは、複雑すぎるから。
 『ファミコンウォーズ』のように単純化されていない上に
 じっくりとどうしたら良いか検討する余裕も与えられないから。

・そこでようやく本題の、『グリムグリモア』。
 『グリムグリモア』は1人用。
 『ファミコンウォーズ』にも『エムブレム』にも一部あり『信長の野望』にもある
 対戦モードがないRTS
 生産要素がある。都市ではなくクリスタルを占領することで部隊生産資金を稼ぐ。
 部隊同士のぶつかり合いは、固定能力ゆえに性能差でなく個性による相性や
 生産効率差による部隊数の多寡で勝敗が決まる。

・だから全体戦力の優劣が重要なRPG
 個々の部隊性能を活かした各個撃破という戦術が重要なSRPGとくらべて
 戦略的に、ストラテジーに、生産能力、効率、生産位置と戦場位置間の導線配置、
 といったことが重要となるゲーム。
 コマンド選択中だけは敵の動きが止まる。
 だから対人対戦リアルタイムストラテジーのようにリアルタイムではないけれど
 『ファミコンウォーズ』程度にはストラテジーである。

・つまり「リアルタイムストラテジー」ではなく
 リアルタイムストラテジーの様な見た目の『ファミコンウォーズ』なのである。
 対戦モードがないのは、純粋に画面構成が対戦向きではないから。
 DSやXBOX360だと対戦可能だと思われる。
 ターン制ではないから、ほぼ同時に操作しなけらばならないが
 そのためには画面が二台必要だからである。
 なぜこの見た目なのか、つまりリアルタイムストラテジー風なのか、というと
 恐らくリアルタイムストラテジーだったのでありましょう。
 ただ、PS2だから対戦できないし、1人用しかできないなら完全リアルタイムにして
 ただでさえ複雑すぎるから売れないゲームを難しくすることはない、
 ということで、現在の形になったのだろうか。


・結果としてリアルタイムではなくなり『ファミコンウォーズ』と違いがなくなり
 そして洗練度、画面構成や部隊性能、操作方式、戦場配置などの要素において
 劣ってしまっている。 
 しかしこれは仕方のないことだ。
 そして『グリムグリモア』は、そういう面、つまり戦略性というのが重要な
 戦争シミュレーションゲームとしてでは
 『ファミコンウォーズDS』に劣ってこそいるものの
 充分に良く出来ては、いるのです。
 『突撃!!ファミコンウォーズ』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20060710)とは
 目指す方向が違うものの
 同じ「リアルタイムストラテジー」の様なゲーム、として並ぶ出来。

・戦争シミュレーションとしての基本的な部分、
 『ファミコンウォーズ』にもある部分は新規でありながらしっかりしているし
 操作方法も、PCマウス操作である土台を良く落とし込んでいる。
 『ハンドレッドソード』より上だ。
 ロード時間やステージ構成の質、量とも満足できる。
 複雑な部隊個性を順次使用解禁していく手はず
 それをお話に乗せて無理なく進める展開は一流の出来ばえ。

・そしてお話自体も実に良くできている。これも、過去あるお話の良さを売りにした
 RPGやアドベンチャーのどれにも劣らぬ第一級の品格。言葉の端々まで見事。
 中世ヨーロッパ風魔法ありファンタジー世界をリアルタイムストラテジー風、
 戦争シミュレーションゲームに、という大枠に対しては完璧な作品。
 素晴らしい。歴史に残る名作と言えるレベルです。
 


・『ファミコンウォーズ』や『グリムグリモア』のようなゲームは
 どんなに良く出来ていても売れないかもしれない。
 間違えたら負けるからである。強くなっていずれ勝てるようにならないからである。
 運の要素も弱めなので対戦用ゲームとしても歓迎されない。
 しかし、優れた対戦格闘ゲームが、自分で遊んで楽しめるかどうかに関わらず
 良くできているだろうことは遊ばないひとでも認めるように
 これらの優れた戦争シミュレーションゲーム
 良く出来ているゲームに間違いないのだ。

・負けた理由を誰かのせいに出来ないゲームだからとって劣ってはいない。
 勝利は自分の実力であると。より強く思い込めるゲームである。
 ゲームの楽しさは、一通りではないのだから。