『ドラゴンクエスト9』

kodamatsukimi2009-08-11


 公式サイト http://www.dqix.jp/ ASIN:B000LXD7HO

・ご存じ『ドラクエ』シリーズ最新作。
 PS2で発売の前作『8』から、いつのまにやら約5年。
 さらに驚き、ファミコンでの初代は1986年発売、なんと23年前。
 23年。当時生まれた方がもう会社員として普通に働くおとしごろ。
 これはすこしばかり言葉のでてこないすごさ。
 オープニングデモの序曲を聴くだけでいろいろ泣けます。
 四半世紀に迫る勢いで名を売るのだから、それはもう有名なわけでございます。
 すごいぞ『ドラクエ』。凄すぎてなんだか良くわからない凄さですことよ。



・リメイクとかではないナンバー付きで、シリーズ9本めとなる本作『ドラクエ9』は
 携帯ゲーム機であるDSでの発売。
 そしてオンライン対応で協力して遊ぶことも可能であるのが新機軸。

・オンライン対応である部分は
 発売から1年に渡り順次ダウンロード可能になる予定の、追加ゲーム内イベントだとか
 専用あるいは希少なアイテムをゲーム内通貨で販売、
 といったおまけ的なものだけではなく
 一緒に同じ画面上でパーティを組み冒険して、協力して敵との戦闘に挑めるという
 なかなかの本格派オンラインRPG仕様でございます。


・基本的にはこれまで通り、ひとりで遊ぶ用に作られています。
 ネットにつながなければクリアできないことはまったくなく
 オンラインショッピングで買えるアイテムも、実用性高いものはありません。
 ゲームの仕組みもこれまで通り、誰でも楽しめるつくりで
 例えば、『モンスターハンター』のようなアクション要素、
 素早く正確に入力操作すると敵に大ダメージ、とかはなく
 レベルを上げて、装備を揃え、スキルを育てることで出来あがる
 キャラクターのつよさが戦闘の勝敗を決めます。
 時間をかければ誰でもクリアできるゲームです。

・従来通りの「たたかう」「じゅもん」とかを選択して進める戦闘は
 オンラインで協力していても、あまり面白くはないし
 ひとり用RPGとして楽しめるように整えられた進行の調子をあるいは邪魔しますが
 それでも仕組みをそのままに、協力して遊べるようにしたのは
 『ドラクエ』のような、アクション要素がなく、つよさで戦闘の勝敗が決まるRPGでも
 顔つきあわせながらみんなで遊ぶ楽しさは、あるからです。

・『モンスターハンター』のようにアクション要素があると
 なお助け合っている感じが楽しめる。
 けれども『ドラクエ』ならば、アクション操作が苦手な誰でも楽しめる。
 23年ですから、それこそ親子で共に遊べる域。
 『ドラクエ』にも、あって良いのです。



・ぱっとみ、今度の『ドラクエ』がいままでと違うのは
 パッケージに書かれているキャラクターが、今度の話に登場する仲間たちなのではなく
 主人公やパーティを組んで共に戦う仲間のみため、
 髪や目や肌の色や、髪型や目や顔の形を、自由に自分で決められることがあります。
 また、鎧やかぶとなどの装備を変えると、それに合わせて画面上の表示も変わります。
 あぶない水着だけでなく、どんな装備でもその通りに変わります。
 装備画面で確認するのではなく、街中でも迷宮でもイベント中でもみため変わります。

・装備の種類は、色違いでごまかすことも少なくかなり豊富。
 そのみためも従来の『ドラクエ』にあったイメージを崩さず良くできております。
 着替えるときは装備品の性能だけでなく、
 全身防具ひと揃いでのつりあいが気になる仕様。
 おめしかえ時にかっこよさ数値を表示しないところなどはさすがです。

・けれどいっぽうで、体型や顔や表情の選べる幅せまさにはわりとがっかり。
 装備に合わせなければならない苦労はあるのでしょうが、次に期待したいところです。
 それでもイベントシーンなどで
 自分で決めた容姿のキャラクター、自分で選んだ格好の主人公が
 事件をつくっていくのをみるのは
 あらかじめ決められたみためと設定と性格というキャラクターを持った登場人物が
 演じる劇に比べ
 なかなか面白味のあるものです。


・主人公以外の仲間は、『ドラクエ3』みたいに、といってもかなり昔の話ですが
 名前や性別や、どこに住んでいて何をしているという設定があるわけでなく
 名前も性別も、顔かたちのみためも職業も、
 指定した通りの仲間が加わってくれるしくみ。
 だからイベントでいろいろ自分の意見をしゃべったりはしてくれませんが
 これも、またみためが変えられるのも
 オンラインで協力して遊ぶことに対応したものでありましょう。

・名前やつよさだけでなく、装備も含めたみためが違うキャラクターを使って
 みんなで遊ぶことができる。
 ひとり用に作られている『ドラクエ』では、主人公と仲間で冒険するけれど
 みんなで遊ぶ『ドラクエ』では、共に冒険する仲間は、これまでの仲間とは違います。
 それぞれが様々なみためと設定と性格というキャラクターを持っていて
 自由に会話しながら冒険を楽しむことができる。
 画面の中ではしゃべってくれなくとも、画面の外で、その時ごとに違う会話ができる。
 今度の『ドラクエ』は、オンラインに対応した『ドラクエ』です。



・わかりやすいみため以外の変更点としては
 ボス敵でなくとも、あたりうろつく敵の姿が確認できるようになったことがあります。
 ゲーム的用語でいうと
 ランダムエンカウント、街中以外を歩いていると突然戦闘に切り替わる方式でなく
 シンボルエンカウント、迷宮などで敵の種類やいる位置があらかじめ見えていて
 接触したり見つかって追いかけられ追い付かれると戦闘となるよう変わったわけです。

・ちなみに「エンカウント(encount)」という英単語は辞書にないそうでありまして
 「遭遇(する)」という意味の「エンカウンター(encounter)」から作られた
 ゲーム周辺でのみもっぱら用いられる言葉となっているので、試験に出ません。
 語尾が「er」でも名詞とは限らないのでございます。英語むずかしい。


・敵の種類やいる位置が見えるようになったことで
 どういう変化があるのかといいますと
 メタル狩りがすごく効率良くできる、というのもむろんのことなのですが
 つまり、戦いたい時と敵を選べるようになったということです。

・迷宮最奥にいるボス敵のところまで、追ってくる雑魚敵から上手く逃げれば
 まったく戦闘をしなくともたどり着ける。
 お金や経験値が欲しくて戦いたい時も、適度に合ったつよさの敵を選べるし
 イベントで敵が落とすアイテムが欲しい時も、集中してその敵だけを狙える。

・そしてそうなると、冒険の中身もこれまでの『ドラクエ』のそれとは変わってきます。
 敵とは戦いたいときだけ戦えば良いのだから
 次の街への移動や未踏の迷宮奥地を探索することに、危険性がとても少ない。
 魔法の使用回数であるMPも、温存する必要がなくてどんどん使える。
 本作の「ルーラ」、
 一度行ったことがある大概の街へ迷宮の中とかからでなければ即座に移動できる手段は
 消費MPが0。
 戦闘とイベント中以外は、いつでも瀕死でもMP0でも使えます。


・敵と戦う必要は、お話をすすめる上で障害となるボス敵を倒せるよう、強くなるため。
 ゲームとしてつきつめるとこういう仕組みです。
 けれど、RPGという種類のゲームで冒険するということは
 クリアするために、するものではなくて
 冒険することが楽しいからするものです。
 敵と戦闘して勝つことも、その冒険する楽しさの重要な部分。
 戦闘に買って、アイテムやお金や経験値を得て強くなることも重要な部分。
 その結果として、ゲームを最後まで遊んでクリアすることも大切な目標ですが
 クリアまでの過程が楽しい結果として、クリアという目標へ自然、たどり着くのです。

・それでも、戦う時と敵を選べるようにしても
 冒険の楽しさが損なわれないように、今度の『ドラクエ』はなっているのだろうか。
 RPGというゲームの形式として、どちらがより良いのだろうか。


・少しみかたを変えてみますと
 主人公ご一行様が、ひとさまの家に上がり込んでタンスやツボに狼藉を働くことが
 未だに『ドラクエ』で認められていることが、遊んでいて気になります。
 それは良いのだろうか。世界中の錠を開けられる鍵を得たからといって
 鍵を開けてまわって、中身を持ち主の許可なく盗ってまわって良いのだろうか。

・タンスやツボがあったら、のぞきこんで中を確かめてみたくなる。
 では、それが出来るようにすることが
 RPGというゲーム形式で必要なのかどうかは
 その重さの程度が問題です。
 そうしなければならないのは、良くない。
 そうできるということ自体は、良くも悪くもない。
 そうできる上で、それをすることで、良くも悪くもない程度の何かが起こるのが良い。

・ゲームの進行を楽しむ邪魔をしない程度に
 舞台は広く開け、構成する諸要素は多様である方が
 より幅広く楽しめるから良い。
 けれど、ゲームというものは眺めるだけではなく
 それに触れて何かしらの変化を起こさせることができるので
 それを意に沿うよう操作出来なくては楽しくない。
 そして、自由に多くの操作ができるほど、より良いのではなく
 したいと思うことが出来て、思わないことが出来ては良くなく
 しなければならないことは、より簡明であるほど望ましい。

・ゲームというものは、こういうことを積み重ねて成っているものです。
 そして、遊ぶときにより良く楽しめるよう出来ているのが
 より良く出来ているゲームです。

・タンスを漁ってネカと剣を盗ってくることが、『ドラクエ』ではできる。
 しかしそれはゲームを進める上で、しなければならないことではなく
 したからとって、とても良いことが起こるわけではない。
 そしてそれは、ゲームの外では、してはいけないことである。
 なぜなのか。
 どちらが「なぜ」より良いのかは、ここにあるべきです。





・『ドラクエ』が
 はじめてのひとも、遊びなれたひとにも、20年に渡り遊ばれているのは
 ひとり用で、アクション要素がなく、1回1時間くらいで長くて50時間くらいで終えられ
 敵との戦いがほどよく簡単で、成長する割合いが適度に良い調子であることだけでなく
 行わなければならないことがわかりやすく
 できることとできないことの取捨選択が常に的確であったからである。

・簡単にいうと
 常に同じころの他と比べて、良くできていたからでありましょう。
 今作『ドラクエ9』も良くできています。
 遊んでいて単調です。いつもと変わらない。
 でも楽しい。それが楽しい。


・前作『8』は、当時の感想(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20041211)を
 読み返さないで書きますが
 というか5年も前に書いた自分の文章など怖くて読めませんが
 当時の記憶では、あまり感心しませんでした。
 立体で描かれた風景で作られた舞台は、想像を裏切らないものではあったけれど
 そこで行われる冒険は、これまでと変わらず良くできているだけだった。

・20年前は、主人公の職業は伝説の勇者で
 任務は囚われのお姫様を助けて魔王を倒すこと、で良かった。
 けれどお話に工夫を重ねていこうとすると、それだけでは足りなくなる。
 勇者という家伝の職業が理由なのでは、世間の多様さに対応できないし
 魔王にも目標や手段を明確にしてくれないと、挫くにくじけぬ。

・またいっぽうで
 『ドラクエ』のようなRPGは、世界中をすみずみまで旅してまわることが
 最後の敵を倒して世界を終わらせるより、楽しいことであるように出来ている。
 けれど世界は有限である。
 どのような速さでそれを展開し、想像の余地を充分に残して切り終え、
 間断なく満足させるかの調子も重要である。

・これらは、ゲームの出来とはあまり関係のないことです。
 『ドラクエ』のようなRPGとして遊んで楽しいかとは違うことだけれど
 そこをどうするか自体が私にとって、RPGの面白さなのです。
 前者は作を重ねるごとに煮詰まっている。
 後者は、常に完璧であったことはもちろんないけれど
 やはり近作に至るほど、単純な容量の増加に負けるところを感じる。


・『9』では、この両者とも変化がみられて面白かった。

・今回のお話は、上手く単純な形に畳みこめている。
 愚かな人間は滅ぼすべきだという、怒りでなく苛立ちに同調できる。
 知らないことや、判断を間違えることは悪であっても愚かではない。
 知っていて判断できるのに、間違えられる人間の愚かさが罪なのだ。
 心からの善意と同じ心で、正しい行いを選ばない愚かさは悪である。
 こういった事柄を、それほど複雑ではない事件のなかで
 良く表現していて感心したのですが
 わるものがはっきりしていること、そしてそれが出しゃばらないところが
 もっとも良い工夫であると言えましょう。 

・敵が見えているのでぐにぐによけて歩き回る。
 よけてあるき、追いかけてくる敵は回り込んで避ける程度の広さがあり
 敵とは戦わないので、遠くてもすぐに目的地に着ける。
 よけてあるく操作が、舞台となる景色をひろびろしているように感じさせる。
 職業とスキルと装備のふりわけとお金のやりくりと敵のつよさの塩梅は
 20年同じ調子でも、やはりより後に至るほど適当さに玄妙を感じます。
 戦いたい敵と戦えることで、これまでの方法に、より効率を上げられるのが良い。


・そういうわけで、『ドラクエ9』は面白かったのですが
 しかし総じて良くできているゲームの場合に
 その面白さが、特にどこであるかは難しい問題であります。 
 今回の場合、現在のDSでできる範囲と
 RPGをオンライン対応にしたとき、現在求められる要素の噛み合わせが
 従来変わらぬ『ドラクエ』の出来良さの上で、上手い形に整った、
 というのが私の総論的な感想です。
 レベルファイブは『ローグギャラクシー』以来まったく信用しないので
 今回も堀井雄二さん以下の手腕が見事だったともちろん思います。

・『ドラクエ』の良さはゲームバランスである。
 ゲームバランスとはなにか。それはあいまいなものである。
 あいまいなそれを、てきとうな位置におく。
 ゲームのあらゆる要素をてきとうな場所におく技術。能力。
 それが生きている限り、これからも『ドラクエ』は良くできていることでしょう。

・その良さが、技術的な進捗、周囲みなの進歩を受けて
 今後どのような面白さをさらに積み上げていくのか、楽しみです。