TRPGリプレイをライトノベルとして読む 第2回

kodamatsukimi2010-06-01


・今回は、この半年で70冊くらい読んだTRPGリプレイ、
 テーブルトークロールプレイングゲームリプレイ、という種類の本について
 まとまった感想を書くの回。
 でも右上の画像は過去の例通りこの2ヵ月に買った本。
 

・ちなみに前回はこちら。の下半分。
  TRPGリプレイをライトノベルのひとつとして読む http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20100131

・前回をひとことでまとめると
 TRPGリプレイは、小説と違う変わった形式で書かれた読み物で
 マンガほどではないけれどライトノベルのように読みやすく
 全体の質もなかなかで
 ゲームが好きでしかもライトノベルを読むなら、リプレイを読まないのは損。

・以上を踏まえて以下。

リプレイとゲームノベライズはどう違うか

・ゲームを元にした読み物というと、「ノベライズ」と呼ばれるものが
 本屋さんのライトノベルコーナーにもおいてあります。
 さすがというか当然というかファミ通文庫で多め。
 『ガンパレードマーチ』とか『モンスターハンター』とか『ペルソナ』シリーズ。
 ノベライズされるものには何か法則があるらしい。『マリオ』とかされないし。
 それはともかく、このゲームノベライズと
 TRPGリプレイとはどう違うのか。


ライトノベルコーナーに置いてあるTRPGリプレイは
 「グループSNE」の『ソードワールド』シリーズとか
 「FEAR」という会社の『ダブルクロス』とか『アリアンロッド』とかです。
 こんな表紙のるいるい。
 ソード・ワールド2.0リプレイ  新米女神の勇者たち(8) (富士見ドラゴン・ブック) ダブルクロスThe 3rd Edition リプレイ・クロニクル  彷徨のグングニル (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッド・リプレイ・レジェンド(3)  貧乏姉妹の驚愕 (富士見ドラゴン・ブック)
 表紙には、作品名と合わせて題材のゲーム名、
 作者名に並んで、ゲームを出している会社名も並んでいます。


・「グループSNE」は、何かきいたことある名前である。
 代表のかたである「安田均」という名前も、何しているひとだかよくわからないが
 どこかでみたことあるような名前。
 この会社は昔『ロードス島戦記』シリーズを出したところであり
 今はこれといってないですが、ライトノベル的には
 『サクラダリセット』を書いているひとが所属しているところ。

・『ロードス島戦記』は、『涼宮ハルヒ』シリーズを出しているスニーカー文庫
 いまだにトミノ御大のガンダムノベライズと並んで本屋の棚に置いてありますが
 実はそのもとTRPG。けれど置いてあるのはリプレイでなく小説。
 TRPGで『ロードス島戦記』という題名のリプレイを行い、
 それをもとにノベライズ、すなわり小説にしたものが
 今置いてある『ロードス島戦記』。
 めったに置いてありませんが、リプレイ版『ロードス島戦記』もあるのです。
 要は、リプレイと小説は、違うものである。


・ゲームのノベライズというのは、元となった原作ゲームとあまり関係ない。
 マンガや小説を原作にアニメ化ドラマ化された時、
 原作まったくそのままにならないことが多い以上に
 ノベライズ、小説化というのは原作と違う内容になることが多い。
 また、例えばゲームの方で続編が出た時にも
 ノベライズで展開された設定が反映されることは少ない傾向がある。

・これがなぜかは、言葉にしなくとも
 なんとなくふいんきでノベライズ読者は察しているところであるのですが
 ひとつには、関連商品であって
 公式認定商品ではあっても、原作とは別ものだからである。
 作っているひとも別である。
 大概原作の責任者名か会社名が「監修」として座っているが
 原作者が直接制作するということはほとんどない。
 ゲームに限らず小説でもマンガがもとでも、関連商品とはそういうものなんである。


・リプレイはそこが、ゲームノベライズと違うところなのであります。
 作っているひとが原作と同じなのです。

・ところで、TRPGの「原作」とはどういうものか、おわかりになるでしょうか。
 なんとなくスゴロク使うらしいしタカラ社製『人生ゲーム』とかああいう感じの
 ボードゲームみたいな感じなのでは、
 というご意見が、完全に間違っているわけではなくそういうものもあるのですが
 ごく簡単には、TRPGに必要なのはサイコロと参加者と記録メモだけ。
 あとはみんなが同意したゲームのルールを
 文章にしたもの、ルールブックがあれば良し。

・サイコロと参加者とメモ書きは汎用なので
 TRPGを遊ぶのに買ってくる必要があるのはルールブックのみ。
 『人生ゲーム』のようなボードゲームのように、机の上にシート拡げて駒置いて
 専用のメモシートや疑似お金として使うコインやお札など小道具なんかあったり、
 というような、ボードゲームのようなTRPG
 戦争シミュレーションゲーム系などで、ないではないのですが
 上であげた『ソードワールド』とか『ダブルクロス』とか『アリアンロッド』は
 リプレイと同じく、文庫本サイズのルールブックを1冊で遊べる仕様。
 リプレイのすぐ隣に並べられています。
 表紙はこんな感じです。
 ソード・ワールド2.0 ルールブック I (富士見ドラゴン・ブック) ダブルクロス The 3rd Edition  ルールブック1 (富士見ドラゴン・ブック) アリアンロッドRPGルールブック (富士見ドラゴン・ブック)


・これらルールブックには、ゲーム中の判定方法とかが書いてあるだけでなく
 例えば職業やスキルの能力値はもちろん
 簡単な舞台設定、武器防具などのデータ、有名無名なその世界の登場キャラクタ、
 短時間で遊べるシナリオなども掲載されているので
 本当にその1冊あれば遊べるのである。
 もちろんサイコロとメモはともかく、
 1人ではできず少なくとも2人は絶対に必要なので
 参加者を集めるのが、TRPGを遊ぶとき一番の難題ではありますが。


・ところでところで。
 「原作」が文庫本1冊だとしたら
 TRPGの製作元、ゲームメーカーは、いったいどうやって利益を得ているのだろうか。

・テレビゲームはわかる。確かに開発費はすごくかかるらしいが
 一度出来上がれば、
 ゲームソフト1本あたりの製作原価が何千円もするわけないので
 売れれば売れるだけものすごくもうかりそうである。
 小説やマンガの「原作」も上に同じく。
 けれどTRPGはどうなのだろう。
 小説と同じ手間でゲームがひとつ作れるなら
 出来あがった「原作」が文庫本1冊でも良いのかもしれないが
 もちろんテレビゲームほどではないにせよ、
 小説よりは手間がかかるのではなかろうか、いやそうでもないのかどうなのか。
 TRPGという商品の仕組みはどうなっているのだろうか。


・これは、オンラインゲームの例に照らすとわかりやすいのであります。
 オンラインゲームの商品構成は

  その1 ゲーム本体:『FF』『モンハン』のようにゲーム屋さん店頭で買い、
      オンラインモードで遊び続けるなら、さらに月いくらとかで課金を払う。
      一方でPCでは「本体」がなくネットにつなげば無料で遊べるものもある。
  その2 追加データ:ダウンロードコンテンツとして追加シナリオ、アイテムを
      ゲーム内通貨でなく、リアルマネーを使って購入する。
      その一方、不具合修正バランス調整の場合を除いても
      無料で追加データがダウンロードできる場合もある。
  その3 関連商品:ゲームを「原作」としたマンガやアニメや小説や副読本、
      サントラCDや登場キャラクタを使った商品群など。

 と、このようになっております。
 1人用と違うのは、オンラインモードで遊ぶのに追加でお金かかるものもあること。
 そして追加データをかなりのひとが購入すること。
 また『FF11』のようなオンラインRPGでは
 拡張ディスクという形で大幅バージョンアップが行われる場合もある。


TRPGも、オンラインゲームではないですが、同じような商品構成なのです。
 その1にあたる「ゲーム本体」は、先に書いたように文庫本1冊、
 安価入手しやすく、PCの無料オンラインゲームのように入りやすいかわりに
 その2にあたる「追加データ」、上級職業スキルデータ、アイテムデータ、
 敵データ、舞台設定、そしてシナリオ集などが
 文庫本より大きい、ゲームの設定資料集のようなサイズで
 普通の本よりお高めの値段で販売されております。

・不具合修正は、オンラインゲームの場合、バージョンアップというより
 「パッチをあてる」という形で整備が行われますが
 TRPGの場合は「エラッタ」という名称で、意味同じですが、
 ルールブックや追加データの修正箇所を、公式サイトなどで公示して行います。
 またTRPGでも「拡張ディスク」規模の大幅バージョンアップが
 追加データ本サイズで行われる場合もあります。
 この場合、オンラインゲームと違うのは、
 拡張が必須であるわけではなく、導入が任意であること。

・そして、リプレイはその3であり、その2でもあります。


TRPGはオンラインゲームと近いものなのです。
 1人用でなく複数人が同時に遊ぶことが前提のゲーム。

・1人用ゲームは、追加データを用意したとしても、あまり買ってもらえません。
 なぜなら、自身に照らしてみればおわかりと思いますが
 追加データを買わなければ遊んだことにならないゲームが売っているとしたら
 それは未完成品である。詐欺である。
 けれどオンラインゲームは、PC無料ゲームが商品として成り立っているように
 本体が未完成でも許される。
 正しくは、1人用ゲームのように、ここまで遊べばクリアというところがなく
 そこまで作られることが決してない、完成することのないゲームである。

TRPGもそうなのです。
 1人用ゲームのように、それを見たらそのゲームをクリアしたことになる、
 エンディングというものはない。
 ゲームは、ボードゲームの『人生ゲーム』の箱に入っている「あれ」のように、
 将棋で言えば将棋盤と駒、トランプのカードとゲームルール説明書きでしかない。
 そのかわり、参加者とサイコロとメモ書きとさえあれば
 ひとつのゲームで終わりなく遊べる。
 少し高めの「追加データ」を買ってきても、参加者さえいればもとはとれるし
 さらには自分でマップコンストラクションならぬシナリオを自作するも可。


・そこで、ゲームを遊んでいるようすを描いたリプレイというものが
 単に、クリアした1人用ゲームを思い出すためのものとして働くのでなく、
 そしてまた、そのゲームが面白そうと広告の役に立つだけでなく、
 そのゲームをこのように遊べば楽しく遊べるという例の提示であり、
 また、リプレイ物語で描かれた舞台、設定、登場人物、世界そのものが
 さらに遊ぶための「追加データ」ともなり得るわけなのです。

・リプレイは「原作」、「ゲーム本体」とはべつものの関連商品ではなく
 そのゲームの一部である。
 そこが原作を小説化したものと違うところで
 だからリプレイはゲーム製作者が製作するのです。


・リプレイがTRPGにとって重要なもうひとつの理由として
 ゲームを遊んだ結果が、1人用RPGのように、オンラインゲームと違って、
 ゲーム本体に、そのゲームを遊んでいる他のひとたちに
 なんら影響をおよぼさないところ。 
 TRPGは複数人で遊ぶ点、オンラインゲームに似ているところもあるけれど
 やはりオンラインゲームではないのです。

・ゲーム機を使ってネットにつなぐことで
 「そこ」に在る「ゲーム世界」に関われる、これがオンラインゲーム魅力のひとつ、
 ではありますが
 ゲーム機を使わないネットゲームでも、オンラインゲームのように
 参加者全員でひとつの世界、そこに物語を作っていく形式のゲームもあります。
 ゲーム雑誌の連載記事としてある、読者参加型ゲームや
 TRPGよりさらにマイナーなPBM。プレイバイメイルゲーム。
 『蓬莱学園』シリーズなんぞが有名、かどうかは微妙ですが、ひそかな有名。

TRPGではそのかわり、そのゲームを遊んでいるひとから
 ゲームアイデア、アイテムや敵や登場人物設定を募集していたりしてはいますが
 やはり、個々のプレイヤー集団が切り離されていることはいなめない。
 同じゲームを遊んでいても、登場人物もお話もそれぞれ別々バラバラなのだから
 ゲームルール解釈運用といった設定まわりを掘り下げるような共通話題しかない。
 だからそこに、リプレイという共通のお話、
 1人用RPGにおける、1週目クリアにあたいする本筋的な、
 そのゲーム、その舞台、その世界を象徴代表するような物語が
 また必要という面もある、のではないかと思うのです。



リプレイのどこが面白いのか

・マンガは、話を作れてしかも絵を描けなければならないので大変だ、
 という意見があります。
 しかし小説も、話を作れてしかもそれを文章で表現できなければならないので大変、
 なのではなかろうか。

・創作行為を外から勝手に分類分割定義付けしたところで、机上のりくつなのですが
 あえてTRPGリプレイの場合を、同じようにりくつ付けてみると
  その1 TRPGのゲーム自体、主題の展開、仕掛け、バランス調整などの出来ばえ。
  その2 そのゲームで、遊び手のキャラクターが、どのような物語を描くか。
  その3 そして、そのゲームを遊んだ楽しさを、どのように文章で表現するか。
 こんなぐあい、3段階にわけられます。

・ゲーム自体の出来が良いほど楽しめるだろうし、
 ゲームが優れていても、ゲームマスターと参加者、プレイヤーの遊び方次第だし、
 誰もが楽しく遊んだと思っても、それを文章で表現するのが下手ならば、
 リプレイを読むひとからみて、それは面白くなさそうにしか見えないのです。


・という点を念頭に置いて
 個々のリプレイについて面白かったところを挙げてみたいと思います。

アリアンロッドRPG トラベルガイド』

 アリアンロッドRPGトラベルガイド (富士見ドラゴンブック)

TRPGで扱っているゲームは、どのようなものなのか。
 もっともわかりやすい例が
 昔スニーカー文庫、今電撃文庫で出ている
 『フォーチュンクエスト』シリーズみたいなもの。
 20年ちかく前に、スニーカー文庫版を発売と同時に読んでおりました。懐かしい。
 新装版フォーチュン・クエスト〈1〉世にも幸せな冒険者たち (電撃文庫) 新フォーチュン・クエスト (1) 白い竜の飛来した街 (電撃文庫 (0039))


・テレビゲームのRPGにおいて、RPGとはどういうようなものか、というと
 『ドラクエ』みたいなの。
 『ドラゴンボール』を描いているひとの絵で表現された世界を冒険して
 様々な街を巡り、洞窟を探検し、敵を倒して、最後には世界を救う勇者になる。

・『フォーチュンクエスト』は、世界を救うような立派な勇者のおはなしでなく
 駆けだし冒険者達が、いつも天気の良さそうなファンタジー世界で
 びんぼうと戦いながら、旅を楽しみ、わいわい食事して、
 知恵と勇気と仲間の力で、ひとつひとつ目の前の事件を乗り越えていく。
 そういう明るく楽しく前向きな感じの物語です。

・敵と戦うことを繰り返し、勝つたびどんどん強くなって
 最後には世界で一番強くなる。
 それもRPGというゲームで遊ぶ楽しみであはあるのですが、それだけではない。
 そこにある冒険の舞台、広がる世界を旅してまわり、
 さまざまな出来事を受けて、成長し、前に進んでいく。
 魔王を倒すという達成でなく、そこで冒険すること自体が物語になるのです。


・『ソードワールド』や『アリアンロッド』は、そういう典型的な
 中世ヨーロッパ風、剣と魔法のファンタジーワールドが舞台。
 この『トラベルガイド』は舞台設定資料集、ワールドガイドのようなもので
 大陸の地図、そこにある国々の解説、代表的な街の様子が地図付きで紹介され
 王様や有名人、重要人物だけでなく
 駆けだし冒険者でもお世話になるような、歴史に名を残さない人達の設定、
 そしてお話の題材となる、伝承伝説まめ知識的な情報などが載せられています。


・設定好きにはたまらない一冊ですが、ふつうの世界設定資料集と違い
 TRPG用ならではの特徴があります。

 本書に記述されている内容は、そのまま使用しなくてもよい。
 この本の内容があなたたちがこれまで繰り広げてきたゲームの展開と食い違ったなら、
 あなた方自身が作り上げた設定を優先して構わない。
 本書の目的は『アリアンロッドRPG』というゲームをより楽しむことにある。
 それなのに、今までの楽しかった思い出を反故にしてしまうのは本末転倒というものだ。
                  P259「トラベルガイドの使い方」より引用

 設定ではなく、ゲームを遊ぶための種本。
 ゲーム舞台設定を脚色補完することで
 その舞台とそこにある物語へ思い入れ強くするためだけのものでなく、
 その前に、シナリオ作成のためにある資料集である。

・私自身はTRPGを遊んだことがないのですが
 この本や、リプレイを読み、『フォーチュンクエスト』を思いかえして
 『ドラクエ』のようなRPGとはまた違う、RPGというものがあることを
 思い出させてもらい、楽しんでいます。

『Quick Start!!』

 くいっくすたーと Quick Start!! 1

TRPGを題材にした4コママンガ。
 実際TRPGを遊んでいるひとたちの様子はどのようなものなのか、の
 雰囲気がわかる気がする一冊。

・マンガとしての出来は、『あずまんが大王』って偉大だよね、とか
 P45の先生は滅茶苦茶背が高いぞ、とかくらいしかないですが
 TRPGを遊ぶようすを描いた作品というのが
 これと『私立RPGハイスクール』(ISBN:9784798600178)というのくらいしか
 おそらくないのでは。そういう意味で貴重。
 また、このページ数でこのお値段、というところなどからも
 TRPGのマイナー度合いが漂ってきてげふんげふんな感じです。

クトゥルフ神話TRPGリプレイ るるいえあんてぃーく』

 クトゥルフ神話TRPGリプレイ るるいえあんてぃーく (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

・表紙が某這い寄る混沌な感じの名状しがたい絵のひとで掴みばっちり、
 けれどお値段みてそっと棚に戻す、ということが各地で行われたと推測する一冊。
 『クトゥルフRPG』というゲームは
 名前の通りラブクラフト先生の『クトゥルフ』神話を題材にしたTRPG
 某『ニャル子さん』でもネタにしていましたが
 SAN値、Sanity Point、正気度という数値が特徴。みるみる下がる。

・剣と魔法で大冒険だけでなく、こういうのもあり。
 中身は、テレビゲームで言うところの少し昔のホラー風AVG、というおもむきで
 奇怪な事件についつい首突っ込んで調べていくうちに
 宇宙的恐怖に直面、さあ果たして君はねるねる下がる正気を保って
 現実世界へ帰ってこれるのか、という風な感じで進行するRPG
 HPが残っていてもSAN値がゼロになるとあちらにいってしまい、
 別の意味で帰ってこれません。

・舞台設定が限定されていて扱いずらそうな設定のゲームですが
 テレビゲームのホラー風味AVGは、ようはこれと同じことをしている。
 AVGRPGする。ホラー系AVGの見方がまた変わる作品。
 でも戦闘はするのである。ミステリ風味なのに。
 やはりRPGというものは、戦闘のようなデータの激しいやりとりを
 最後に行わないと盛り上がらないものらしい。

ダブルクロス リプレイ オリジン』と『デザイア』

 ダブルクロス・リプレイ・オリジン―未来の絆 (富士見ドラゴンブック) ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・デザイア(1)  星影の魔都 (富士見ドラゴン・ブック)

・『ダブルクロス』というゲームは
 基本的に、現代を舞台とする超能力バトルもの。
 未知のウイルスに感染した能力者たるプレイヤーたちは
 頭が良くなったり獣化したり吸血鬼っぽくなったり
 重力を操ったり、周囲の世界設定を書き代えたりとかできる。
 ウイルスすごい。
 さまざまなそういう超能力が、修得スキル解釈で
 破綻せずにバトルゲームとしてまとめられています。

・力を使う代価としてウイルス浸食度、という数値があります。
 これは『クトゥルフRPG』のSAN値同様のもので、さがるのでなく
 浸食度が上がり過ぎると、日常へ帰ってこれない。
 SAN値のようなものを戦闘に絡めて表現しているところ、
 また浸食度を抑えるための方法として
 仲間や友人知人との関係を結んでおく、
 戦い以外の調査パートに意味合い持たせる、
 といったゲームの仕組みも、比較して面白い。


・といって『クトゥルフ』より『ダブルクロス』の方が優れた仕組みだ、
 と簡単に言えないところも、また面白いところでしょう。
 SAN値は戦闘に絡まない、日常との結びつきごときでどうこうならない
 不条理な神話級宇宙的恐怖を表現していて
 ゲームの表現する舞台世界の主題設定にきちんと結びついている。
 『ダブルクロス』の浸食度は、単にゲーム上の活用資源配分。
 TRPGには終わりがない、
 この場合ならウイルスの全容が明らかになり超能力が世界から消滅する、
 のような展開はおこりえない。
 いつまでも続く日常を守る。これが『ダブルクロス』の主題なのですが、
 戦闘のたびに自らあっちに行って自ら用意しておいた方法で帰ってくる能力者は
 ウイルスを道具として使っているだけ。それをどうこうすることはいつまでもない。


・もうひとつ『ダブルクロス』の特徴は、現代バトルものである、ということ自体。
 戦う敵を何に設定するのか。そういう異世界ファンタジーにない面白味があります。
 基本となる舞台設定では
 悪の組織と正義の組織が対立している、としています。
 悪と正義の違いは、自信個人の望みを周囲に対する影響より優先するか否か。
 ちなみに時代や立場が変わる舞台設定も容易されていて
 戦国時代だったりナチスと戦ったり未来の宇宙で戦ったりもできます。

・まずリプレイ『オリジン』。
 こちらの話は、周囲の世界設定を自分の思うままに書きかえる、という力があるなら
 これをどのように使えば世界を変革できるか、という
 じんるいほかんけいかくな感じのSF的大仕掛けが振られます。
 正義はどこにあるのか。守るべき日常とはなんなのか。
 振られたプレイヤーがそれに答えてどのような行動をとるのか。
 TRPGとしてというより、話の仕掛けが面白い。

・リプレイ『デザイア』では、この基本舞台における、
 正義からみた悪側の組織、
 自らの願いのため自身も周囲も犠牲にする立場にプレイヤーが立って
 それを阻まんとする組織との戦うことになる。
 程度問題で、誰でも生きている限り、誰かに迷惑をかけている。
 力を得たものはそれは何のためにつかうのか。
 自らの願い、例えば、力なきものを守るため、力ある同類を討つ。
 誰かの願いをかなえるために、誰かの願いを打ち砕く。
 現代ファンタジー設定として、そこにプレイヤーがどう立ち向かうのかを
 見るのが面白い。

『現代忍術バトルRPG シノビガミ

 現代忍術バトルRPG シノビガミ -忍神- (Role&Roll Books) (Role & RollBooks)

TRPGというのは、テレビゲームのRPGのように
 クリア、お話のいちおうの終わりまで何十時間もかかるものを遊ぶのでなく
 1回数時間、仲間でチームを組んで、街を回って情報集め、
 ダンジョンもぐって戦闘をこなし、クリアする、という1回を
 何度かに分けてつなげて行います。
 もちろんその1回ごとキャラクタを変え設定を変える場合もあるでしょう。

AVG風、ミステリ仕立てのお話にせよ、ダンジョンもぐる話にせよ
 テレビゲームのRPGでできるのと同じようにして
 TRPGでも、ひとつのゲームでさまざまな展開のお話ができるように工夫されている。
 そのため素人目には
 舞台設定や職業能力値解釈が違うだけで
 他のところは同じゲームとみても良いのではないか、
 というようなものもあります。
 『バーチャ』と『鉄拳』、『怒首領蜂』と『ケツイ』の区別が付かない。
 3Dで主観視点で暗めの建物の中で銃撃つゲームの区別がつかない、というような。


・『シノビガミ』は、素人目にも他のTRPGとは一線を画す違いが見える独自路線。
 このゲームの特徴は、参加プレイヤーが敵同士であること。
 日常の闇に潜むシノビとなって、それぞれの己が目的を達成するため
 時に敵対して情報を奪い合い、あるいは協力し別の対抗者を蹴落としたりする。

・良くある普通のTRPGでは、参加者がチームを組んで協力し合い、
 互いに職業やスキルで補い合い、謎に対しては相談し合って
 冒険を進行させるような形で作られています。
 プレイヤー対プレイヤーという形もできないことはないけれど
 『マリオブラザーズ』で邪魔し合うより『スト2』の方が良い。
 対人対戦前提で作られたゲームの方が、もちろん対戦して面白いのです。


・『シノビガミ』は、戦争SLGでなく、アクションゲームでもなく
 他の協力型TRPGの仕組みを土台にして
 複数人程度が情報の奪い合いと戦闘で対戦する
 対戦ゲームルールを作っているところが面白い。
 特に戦闘ではなく、シノビならではの、一般人の眼に触れない場で
 互いの懐を探り合い駆け引きする在り様。
 この仕組みでさまざまな種のリプレイを読んでみたいと思わせる仕掛けです。

トーキョーN◎VA The Detonation リプレイ  ヴァニティ・エンジェル』

 トーキョーN◎VA The Detonation リプレイ ヴァニティ・エンジェル (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

・長くなってきたのでそろそろまとめに入っていきたい次第。
 最初に書いたように、TRPGリプレイは
 ゲーム自体の仕組み、それをどのように遊んだか、遊んだ結果をどのように表すか、
 この3段階、それぞれどれもが良い出来でなければならない、と思うわけです。
 特に、TRPG素人にとっては重要なのが3つめ。
 TRPGで遊んだ様子を、どのように表現するか。

TRPGのゲーム自体の仕掛けに独特の工夫がある、
 実際遊んでみると思いもよらぬ効果がある、としても
 リプレイで表現されていなければ気づけない。
 参加者全員が大盛り上がりで大感動で素晴らしいお話ができた、としても
 例えば私の文章でそれを表現されたら台無しです。
 万分の一もその素晴らしさが伝わらない。
 TRPGを実際遊んでいる経験があれば想像で補えても
 ライトノベルと同じものと、並べて読んでいるひとには
 中身はともかく文章が受け付けなければそこまでである。


・リプレイはTRPGのプレイログをもとに
 読み物として読みやすく楽しめるよう手を加えたもの。
 参加者にはわかっていることでも
 その場にいない読者には説明が必要なことも多いし
 進行が停滞してしまったときはログからばっさり削り
 山場で大いに盛り上がっている場面では、
 実際遊んでいた時には話されなかったことでも必要なら大いに書きくわえ
 そして全体調整書き換えて
 出来あげるべきである。

・しかしそれが充分でないと見えるリプレイも
 何冊か読んでいくと見受けられるのです。
 お話の内容はすごくおもしろそうで盛り上がっているような感じなのに
 文章は平坦なままで上手くそれが伝わってこないようなものが目につくのです。


・この『ヴァニティエンジェル』は、ふつうのリプレイと違い
 小説的装飾が多めにほどこされています。
 そこでどういう内容の話があったかより、
 それをどのような文章で表現しているかの方が注目される。

・この方法が良いか悪いかはわかりませんが
 TRPGを遊ぶひとは、ゲーム自体をどうするか、
 その回ごとの仕組み仕掛けお話をどうするかは頭に合っても
 リプレイを表現する文章については工夫がたりないのではないか、
 読み物として小説のような他と比較されうる場での研鑽が足りないのではないか、
 ゲームが面白ければ良いのではないかと、思っているのではないかと、
 リプレイを読んでいるひとに思われてはいけないのではないか。

TRPGはさほど大きな売り上げが期待できる状況ではないようだけれど
 ライトノベルとして読むひとには、ライトノベルと同じように
 中身の話にも、それをどう表現するかにも面白さが必要です。


アリアンロッドRPGリプレイ ルージュ』と『新ソード・ワールドRPGリプレイ集 Waltz』

 ノエルと薔薇の小箱―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ (富士見ドラゴンブック) ノエルと翡翠の刻印―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈2〉 (富士見ドラゴン・ブック) ノエルと白亜の悪夢―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈3〉 (富士見ドラゴンブック) ノエルと蒼穹の未来―アリアンロッド・リプレイ・ルージュ〈4〉 (富士見ドラゴンブック)

新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈1〉旅立ち・お祭り・子供たち (富士見ドラゴンブック) 新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈2〉競争・怪盗・大湿原 (富士見ドラゴン・ブック) 新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈3〉駆け込み・災厄・学者サマ (富士見ドラゴンブック) 新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈4〉誘拐・ヤキモチ・すれ違い (富士見ドラゴンブック) 新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈5〉誓い・陰謀・巣立ちの日 (富士見ドラゴンブック)

・最後に、今のところ読んだものの中で一番面白かった2つ、矛盾していますが
 同じくらい最も面白かったこの2つについて。また矛盾している。



・同じような典型的中世ヨーロッパ風剣と魔法の世界を舞台にし、
 冒険者をプレイヤーキャラクターの基本立場としている
 『ソードワールド』と『アリアンロッド』ですが
 TRPGとしてはわからないけれど
 素人目にリプレイを読んでは、『アリアンロッド』のほうがわかりやすい。
 読みやすい、入りやすい。

・その理由には細かいところでいろいろあると思いますが
 小説のように読んだとき
 『アリアンロッド』では主人公に何をしたい、という目的があるのに対し
 『ソードワールド』の冒険者たちには
 特に目的やしたいことがないように、見える、のがマイナスだと思うのです。


・どんな小説の主人公にも、必ずわかりやすい目的が
 はじめから、でなくとも話の半ばまでには明らかにされます。
 それがそのお話の達成条件そのものでなくとも、
 それが主人公というキャラクターを能弁に説明し、話の方向を示すから。
 ライトノベルでも、異性と仲良くなること、ライバルに勝つこと、
 周囲に本当の自分を認めて知って理解してもらうこと、
 これらが必ずある。

TRPGでは、話をはじめるにあたって、そのゲームであることだけを手掛かりに
 演じるキャラクターを作成します。
 『ソードワールド』ではすくなくともそう。職業は冒険者
 冒険者ギルドで仕事を受けて、あとは個々人の思惑を仲間とすり合わせて行動する。
 そこまでは決定してしまっている。
 そこまでは決まっているから、シナリオを作りやすいというのはあるだろう、
 けれどシナリオに合わせてキャラクターを作れない。
 キャラクターはシナリオが進行してから目的を設定する。するなら良いが
 最後までしないままの事もある。しなくても許される。

TRPGのありかたとして『ソードワールド』が駄目ではないのだろうけれど
 リプレイにしたとき、小説のように読むとき、
 演じてのプレイヤーにとっては自明であるかもしれない各キャラクターの個性、
 その話が始まるまでの背景を読みとれるものがあまりに少ない。


・『アリアンロッド』では「今回予告」「シナリオハンドアウト」により
 前者から、今回はどのようなお話が行われるかをあらかじめ示され
 後者から、仲間の中でどのような役割が期待されるキャラクターなのかを知って
 それからその回のお話に合わせたキャラクターを作成するようになっています。

TRPGでは、シナリオ、その回のお話の筋書きはすでに作られている。
 参加者、プレイヤーはその筋書きの登場人物となって役割を演じる。
 筋書きができているから役割を演じるのに、楽なのか楽しみが減るのか。
 どちらでも取りようはあるだろうけれど
 そして実際TRPGを遊ぶそれぞれのひとに好みはあるだろうけれど
 リプレイを、お話として読むなら『アリアンロッド』の方が
 みていてわかりやすい。


・そういう程度の違いが、この2つのゲームにはあるのですが
 やはりそれでリプレイの面白さが決まってしまうわけではない。
 『ソードワールド』を使って読みにくく面白がれないものがあると同じく
 『アリアンロッド』でも読みづらく面白いところの少ないものがある。
 GM、シナリオを書きゲームを進行させるひとの手腕と
 参加したプレイヤーのロールプレイングと
 そしてリプレイを書いたひとの力で
 面白い楽しめる読み物になるかが、決まるのだと思うのです。



・読み物として『Waltz』は面白い。素晴らしい。読んでよかった。読めて良かった。
 リプレイの劇中劇的な構造、
 登場人物は出演者によって演じられている存在である、ということを
 出演者が読者に対して隠していない、という約束の上で
 この作品の感動があります。

・自分たちと家族の住む家である、孤児院の借金返済のため
 冒険者となってお金を稼がんとする一行。
 孤児院のため、家族のためにお金を稼ぐという明確な目的がある。
 さらにお金のためだけでなく人助けをする善人集団である、というキャラクタがあり
 何より冒険者仲間である以上に家族である、という初期配置設定。

・これが、お金のためでなければ何をするのか、何をしたいのか、と
 GMに物語の方向性を与えている。筋書きを誘導させている。
 疑似的家族が冒険するならどうなるのか、
 家族ものにして冒険ものであることが
 個々人の成長という結末へ綺麗に結びついてくる。

GMもプレイヤーもそういう方向を初めから意図していたわけではないけれど
 各人の役割役柄上必然たる行動のひとつひとつが、次の状況を作りだし
 それを踏まえて、また各人が自身と家族のために行動することで
 自然と行きつくところへと物語が流れ始める。

・作家ひとりが掌中で生み出す筋書きでなく、
 また演じるそれぞれが意図するところでもない。
 終わりのない舞台を終わらせる、TRPGのという枠でこそ生み出される物語。
 まったく例をみない面白さを感じました。



・『ルージュ』は現在もっともTRPGリプレイらしい一品。
 『ワルツ』は意図して出てくる物語ではないでしょうが
 『ルージュ』は、『アリアンロッド』というゲームと、
 GMの仕掛けやお話の筋書きと、プレイヤーのロールプレイと、
 リプレイの読み物としての楽しさに充分配慮し洗練された書き様との、
 どれもが計算されて、実力通りの、TRPGかくあるべきという最上例のひとつ。

・今のところ読んだリプレイで、もっとも昔のものが
 20年ほど前の『ソード・ワールドRPGリプレイ第1部 スチャラカ編』。
 そして最新型であろう『シノビガミ』までみて
 TRPG自体はよくわからないけれど、リプレイの方はあまり進歩がない、と思います。
 20年程度では目に見えて変わらないものかもしれませんが。
 それとも『スチャラカ編』が、当時として優れていたのだろうか。
 『ソードワールド』ではなくリプレイ作者個人が優れていたのか。

・けれど『アリアンロッドリプレイ ルージュ』作者には、技術の進歩を感じます。
 同じく20年前の『アルセイルの氷砦』は、当時優れていなかったのか。
 そんなことはなく、人気を博したのですが
 今読むといろいろ粗い。ゲーム自体でなくリプレイの表現方法として。
 そして『ルージュ』と比べると、明らかにより読みやすくなっている。
 冒険をGMとして楽しく演出し、楽しい読み物としてリプレイをまとめるという
 表現する方向は変わっていない。変わっていないだけに
 より読みやすく、読み手にとっても遊ぶひとが楽しそうに見え
 作りだされた物語も格段に整然と仕上がっている。



TRPGリプレイを、ゲームを遊ばず、リプレイを読み物として読んだとき
 どこが面白いのか。
 ゲームを題材としているので、
 その材料であるゲームの仕組みがゲーム好きとして興味深い。
 TRPGというゲームを使って、
 テレビゲームのRPGなどと違い、またオンラインゲームとも違った形で
 そして小説ともまた違って、
 キャラクターの役割を演じる遊びであるということ自体が興味深い。
 そして出来あがったものを、小説のような本で読み
 そこに小説でなく、ゲームノベライズともまったく違う
 TRPGリプレイだからこその物語を発見する、した驚き。


・ゲームを遊ばず本だけ読んで机上でりくつをつけるとそんな感じになるのですが
 私がここに何を書こうが
 『ワルツ』と『ルージュ』というTRPGリプレイが面白いのは間違いない。