読書のまとめ 2009年から2013年くらい5年間

5回を区切りに
5年分を見返して好きなものを挙げてみよう、と
一通り目を通してみたものの
最初は良かったのに段々微妙になったり
部分的にはすごく良くとも全体としては首傾げたり
大きく見るとなかなか万全には難しい。


その結果はなにやら随分偏った有様。
自分はこういうあれだったのか、と新たに再度今更気づく。
このしょぼい結果も偽らざる現在の自分には違いないので
仕方なく記録して置くのだった。


なお、基本的に完結済みのもの、
そうでなくとも既刊で充分にその作品全体の魅力を発揮できるものから
選んでいます。
きちんと完結することで大きく心象良くなるのですが
未完作品を認めないとなると
十二国記』も『ガラスの仮面』も、となるわけで。



『龍盤七朝 DRAGONBUSTER
龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫) 
中華風舞台のバトルもの、いわゆる武侠小説。既刊2巻。
あらゆる面で文句なく傑作と胸を張れる作品。
どこをとってもよだれが出るほど素晴らしい。
唯一の欠点は刊行間隔。続巻ひたすら待っています。


円環少女
円環少女 (角川スニーカー文庫)
SF(サイエンスファンタジー)な魔法バトルもの。全13巻。
上の『龍盤七朝』と違って誰にでも、とはすすめられないけれど
重厚に構築された登場人物の背景と舞台設定が
堅実かつ劇的に展開していく様は、はまると抜け出せない魅力。
文章も癖があるけれど、欠点ではなく揺らぐことない個性。
この作品がSF関係の賞を受けていないというだけで
その界隈の無見識を冷笑したくなるほど冷静でなく好きな作品。
一般向けには『あなたのための物語』(ISBN:9784150310363)が
読みやすくおすすめ。
もちろんテッド・チャンあなたの人生の物語』の題名をふまえた上の
きちんとしたSFです。


『レディ・ガンナーの冒険』
レディ・ガンナーの冒険 (角川スニーカー文庫) レディ・ガンナーの冒険 (角川文庫)
開拓時代のアメリカ風。真っ直ぐなお嬢様が突き進むお話。既刊8冊。
文章の良し悪しは知らないけれど
作者のここぞという場面の筆運びには何度読み返しても唸らされる。
題材、味付け、それほど変わったものでなくとも
料理の仕方でこれだけ面白くなるかと感嘆させられる。
同作者の代表作である『ディルフィニア戦記』の方が
さすがに平均点も最高出力も高いけれど
読み出したら止まらない危険さを思えば
冊数少ない分だけこちらをおすすめ。
最初の3冊(『冒険』と『大追跡』の上下巻)をどうぞ。


サクラダリセット
サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
全7巻。内容をまっとうに分類するならば
少年マンガにありそうな頭を使ったバトルもの、なのだけれど
見せかたが型破り。
登場人物の多くが常人としてありつつ透明に冷徹。
同じ世界の物語とは思えないほど変わっていながら
同時に現実の手触りを感じさせる稀有な作品。



ここまで4作は、読者は選ぶものの、実力は諸手を挙げて承認できる
どこに出しても恥ずかしくない作品ばかり。いわば名作。
向き不向きこそあれ、これらをライトノベルだからと読まずにいるのは
大いなる損失。
読むのだ。最初の一巻でいいから試すのだ。


名作の次は、入り口としておすすめの作品。
もちろん上の4作から入っていただいてもかまいませんが
分野のまんなかあたりと、頂とが重なるわけではないゆえ。



『クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門』
クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門 (ファミ通文庫)
優秀なドラえもんがクズな、つまり「ごく普通の」高校生を
見事それなりに改造する話。全1巻。
出来ばえという点では安心できないけれど
多くのひとに読んでもらいたいという意味では一番の作品。
ビブリア古書堂の事件手帖』あるいは『涼宮ハルヒの憂鬱』などで
ライトノベルわかった気になられては困るんである。
こういうのが、青春小説にも教養小説にもジュブナイルにも
恋愛小説にも携帯小説にもネット小説にもない、ライトノベルなのだ。
ライトノベルのなかでもっともおすすめの一冊。


BLACK BLOOD BROTHERS
BLACK BLOOD BROTHERS〈1〉―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 兄弟上陸― (富士見ファンタジア文庫)
吸血鬼たちが現代舞台に戦うバトルもの。本編11巻、短編集6巻。
男子向けライトノベルにおいて
とある魔術の禁書目録』とか『ソードアートオンライン』で
なるほどこんなのか、と止まってしまわないようおすすめしたい作品。
最初の一冊がやや薄味、役者が揃う3巻からが本番のスロースタート、
また短編に不出来なもの多いなど
おすすめするには欠点も大きいのですが、それでも読んで欲しい作品。
作者の前作『Dクラッカーズ』も、最初1冊でなく2冊を読んで欲しい。


『エフィ姫と婚約者』
エフィ姫と婚約者 (ウィングス文庫)
お姫様が政略結婚で異国へお嫁に行くお話。全1巻。
男子向け真ん中の次は、少女向けライトノベル典型中の良作。
どこから手をつけたら良いか、と問われるならば
癖が少なく、分野のありようを1冊に感じられる作品。
なぜ少女向けライトノベルは現代ものが僅少で
花嫁だのお姫様だのばかりなのか。その一端を察する。



名作、入り口の次は、癖の強い作品群。
円環少女』も『サクラダリセット』も充分十二分に癖が強いけれど
世の中上には上がある。名作に対して傑作に値する作品。



『ルナ・ゲートの彼方』
ルナ・ゲートの彼方 (創元推理文庫)
やっぱりハインライン作品は最高だぜ、と
読後とてもよい笑顔になれる作品。にっこり。
アメリカが世界一の軍事国家たる理由を
とてもわかった気にさせられる一冊。
『宇宙の戦士』と映画版『スターシップ・トゥルーパーズ』や
月は無慈悲な夜の女王』でも
ハートマン軍曹に抱きしめられたくなる感慨を懐かせてくれますが
ハインライン作品の体現する最良のアメリカ、
その文化の巨大さ、正義の力強さに、改めて感嘆。


『未踏の時代』
未踏の時代 (日本SFを築いた男の回想録) (ハヤカワ文庫JA)
1976年に書かれたSFマガジン初代編集長による回想や評論。
著者はSFの熱心な読者でなくとも多くの訳書を通じて
その仕事が為した功績の大きさが伝わる方。
若くして亡くなられ、この一冊も途上にある未完の書ですが
批判を恐れて自身を曲げることのない日本SFに対する熱意、その存在は
分野を越えて敬意を懐きます。


『以下略』
以下略
既刊1巻。上の2冊に並べてこれかよ。なのだ。
ヒラコーこと平野耕太作品を好むというだけで
自分を相当まで申告しているようなもの。
完結した『ヘルシング』も現在の『ドリフターズ』も
嗜好の波長には、広く共振する範囲があることを知らしめる。
『以下略』を読んでウェスカーさん愛でることを教えられるのだ。
いろいろ台無しだ。



さていろいろ終わったところで
さらに続くは、誰にも薦められないけれど
自分は大好きな作品。出来の良さだけが価値ではない。
『以下略』もこの下なんじゃないか、という意見もありましょうが
平野耕太作品はマンガとして優れているので。読者は選ぶけど。
読者を選んで、出来も良いといえないものもたくさんあるのだ。
あたりまえか。



『レキオス』
レキオス 1 (ヤングガンガンコミックス)
絵が上手いこととマンガの面白さはまったく別のものであることが
改めてよくよくわかる作品。全2巻。
ロードス島戦記 ファリスの聖女』と同じく
お話はともかく、絵が良いだけで充分に満たされる。
マンガとしては面白くなくとも同じ対象を様々に描いた絵が見られれば
楽しめるというありかたもマンガはありなのではないか。


変態王子と笑わない猫
変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)
既刊7巻。『サクラダリセット』は出来上がった結果が芸術でも
筋書きはしっかりバトルもの娯楽小説としてきちんとしているのに対し
こちらはいかに描写が巧みでも
お話はもはや何がどうだった迷走中。
けれどその文章表現に乗ってどこかへ漂うだけでも快感。


『青葉くんとウチュウ・ジン』
青葉くんとウチュウ・ジン (MF文庫J)
全3巻。今回挙げた全ての作品中もっとも拙い出来ばえの小説。
小説というのもはばかられるかもしれないライトノベル
でも作品に対して作者が
できる限り誠実に向き合おうとしている姿勢だけで好ましい。


『スーパーロボッ娘 鉄刃23号』
スーパーロボッ娘 鉄刃23号 (ガガガ文庫)
全1巻。さっくり描かれたロボ娘との出会いと友情。
上と違い、こちらはある程度の技術はあるのに関わらず
しいて飾り立てようとしない、素材剥き身そのままな一品。
キュウリはハチミツを掛けるものではなく
味噌でも塩でもおいしいが
たまにはそのままたべて、味と栄養のなさをかみ締めるものである。



最後。TRPGリプレイ。
上で2013年度に関係なく3作を挙げましたが
その次に読んで欲しい作品らを。


ソード・ワールドRPGリプレイ集 バブリーズ』
2万ガメルを取り返せ!―ソード・ワールドRPGリプレイ集 バブリーズ編〈1〉 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)
1988年作の最初期リプレイ『スチャラカ』編(ISBN:9784829144763)も
リプレイがライトノベルのような読み物として
今読んでも魅力持つことを証明する名作に違いないのですが
第3シリーズである本作が
リプレイは即興劇でなく、TRPG、ゲームと不可分のものであると
1作目と同等にその後を決定付けた傑作。全4巻。
「見ている範囲ならどこまでも行ける」程度を有り難がる段階の
コンピュータRPGではたどり着いていないTRPGだからこその面白さ。
これを読まないでRPGを語るとかちゃんちゃらおかしいぜ(挑発)。


トーキョーN◎VA The Detonation リプレイ ビューティフルデイ あるいはヒュー・スペンサー最後の事件』
トーキョーN◎VA The Detonation リプレイ ビューティフルデイ あるいはヒュー・スペンサー最後の事件 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
美しい日、或は小遁走曲、でなくシャーロック・ホームズ
こういう題名が示す通りに、あえて格好付けにこだわった作品。
リプレイでこんなのがありなのかと魂消る一冊。全1巻。
ムービーばかりでお話を語ろうとするゲーム、
文章で全てを語る小説、即興でその場だけのお話が作られるTRPG
この作品はそのどこにもないかのように見える。


『新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz』
ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・デザイア』
新ソード・ワールドRPGリプレイ集Waltz〈1〉旅立ち・お祭り・子供たち (富士見ドラゴンブック) ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・デザイア(1)  星影の魔都 (富士見ドラゴン・ブック)
どちらも全5巻。
上でリプレイは即興劇ではない、とか言っておきながら
早くも前言踏み倒す怪作『Waltz』。
『ビューティフルデイ』とは違ったところで
こんなのもありなのかと、何でもありさ度合いに再び驚く。
けれど『デザイア』を読むと
ゲームを基盤とする『バブリーズ』のありかたも
『ビューティフルデイ』の表現の仕方も
『Waltz』の筋書きを外れた働きも
どれもを含めてTRPGリプレイなのではないかと思い直され
改めてTRPGリプレイの
とても上手くいった際の他でみられない魅力のありようが興味深い。
これらを読まずに娯楽小説を語るとかとんでもない。
かどうかはわかりませんが
TRPGリプレイは読んで、存在を知れて良かった作品たち。


娯楽重視だからといってSFでハインラインを読まず
専門でないからと『不連続殺人事件』『十三角関係』『虚無への供物』を
読まないミステリ読者がいるだろうか。
RPGで『ドラクエ』と『FF』と
ウィザードリィ』と『グランドセフトオート』の
区別がつかないゲーム好きがいるだろうか。
三国志大戦』もケイブSTGも遊ばずに
ゲームセンターがこの先生きのこれるか憂うとか、まるで的外れ。
TRPGリプレイも読まず、ライトノベルだから、子供向けだからで
面白いものを見ようとせずによかった。