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・ゲーム語りRing(http://gametalk.ring.hatena.ne.jp/)に加わってみました。
だからといって何が変わるわけでもございませんが。
育成シミュレーションRPG『雪道』
・朝晩すっかり寒い冬。そんな時、あえて暖房を入れず遊ぶに良いゲーム。
パラメータ・サンクチュアリRPG030『雪道』http://f8.aaa.livedoor.jp/~sanctuar/
(「ステッパーズ・ストップ」http://www.geocities.jp/steppersstop/)
「失踪外人ルー&シー」(http://d.hatena.ne.jp/lu-and-cy/20051104#p1)より
・同人フリーゲーム。
恐ろしい。山とあるフリーゲームにまだまだこんなに良いゲームが埋もれているとなると
お金を払ってゲームをする意味を問いたくなってしまいます。
・曰く「数字のやり取りをするのが楽しいゲーム」。
(パラメータ・サンクチュアリ「思想」http://f8.aaa.livedoor.jp/~sanctuar/text/thought.html)
とても実験的。けれど丁寧に考えられて作られていて
分りやすく遊びやすく面白い。
『洞窟物語』や『東方』のように市販品を越える完成された作品ではないけれど
個人製作、小規模作品だからこそ成立するRPG。
・ゲームブックを辿るよう。解く過程は『ローグ』を思わせます。
必要なのは、運と経験から来る知識。
ステージマップは周回型の一本道。ぐるぐるまわって、いかに速くゴールにたどり着けるか。
・何よりの特徴は敵を倒して得られる成長能力値の配分方法。
こここそが実に面白い。
・「娘」を育成するシミュレーションゲーム『プリンセスメーカー』は
面白いけれど物足りない作品でした。
・娘の持つパラメーター、体力、知力、感性、容姿や気品などの変数能力値を
育て向上させていくゲーム。
お稽古ごとやアルバイトなどで能力は上がったり下がったりする。
目標は万能数値のプリンセス。
けれど失敗して中途半端な数値に終わっても、それなりのエンディングが見られる仕組み。
・数値を上げ下げしていくだけなのに面白い。
戦争SLGのように勝つか負けるかという、結果に対する明確な判定がないゲーム。
『リトルコンピュータピープル』、最近でいえば『千年家族』のように
見ているだけであった対象に
『シムシティ』のように手を出せるようになったゲーム。それだけで面白い。
・面白いけれど物足りないのは
基本的に、能力値が最期のエンディング判定にしか使われないことです。
途中はどうでも良く、最終的に良ければ良い。
RPGでボス敵がエンディング前に一体しかいないようなもので、育成過程に起伏がない。
・『ときめきメモリアル』は、より数値の上げ下げに意味を持たせた作品でした。
目標は学生生活3年間内に女の子誰かと仲良くなること。
好感度合いを上げて仲良くなるための判定は
『プリンセスメーカー』と同様の能力値がその際、一定値以上あること。
また、デートを重ねて好感度を積み上げていく必要もある。
・育成が過程の全体で意味を持つこと。
目標が数値高低そのものでなく、どのキャラクターを狙うかという等価のものであること。
これらの点で『ときメモ』は『プリメ』に比べて
より数値上げ下げに意味があり面白くなっています。
・いわゆる一般の見方とは違うかもしれませんが。
・そしてこの育成SLGの能力上げ下げをRPGに持ち込んでいるのが本作『雪道』。
もちろんキャラクターの能力向上を恣意選択できるRPGはいままでにも多数あります。
・例えば『女神転生』。「力」「知力」「魔力」「耐力」「素早さ」「運」のどれかに
レベルアップ時、好きにポイントを割り振って強くなる仕組み。
魔法が使えない主人公の「魔力」にポイントを注ぎ込めば理不尽に難しいゲームとなります。
・普通、RPGではレベルアップとともに一定値あるいはランダムに能力値が上昇し強くなります。
RPGの目標は強くなって戦いに勝つこと。「成長」と「戦闘」。
・遊ぶ時間の殆どを占める「戦闘」をいかに面白いものにするか、に
多くのゲームが工夫を凝らしています。
アクション要素入れる、緻密に考えなければ勝てないようにする。
掛かる時間を短く。いっそのことイベント戦闘のみで。いやむしろいらない。
まあ面白ければ結構です。
・それに対し「成長」はどうか。「戦闘」に勝つための条件と勝利のご褒美。
そのふたつのバランスを取るために多くのゲームが工夫しているかというと、疑問です。
レベルアップする。能力が上がる。レベルいくつならこの敵は倒せる。
レベルは実に便利な目安。現実になくゲームにしかない見事な独自概念の発明です。
・しかし多くはそれに寄りかかり過ぎ。
レベルいくつでこれくらいの強さになっている、というバランスを取る事それ以上に
考えようとしていないように見えます。
・もちろんレベルはあって良いのです。わかりやすいことは大切で
スキルや呪文、特殊能力の付加でレベルを意味のないものにするゲームは
得てして解くための方法の幅が狭くなりすぎる。そういうゲームもあって良いけれど
多くがそうでもこまります。
・シュミレーションゲームにはレベルが普通ありません。RPGだけ。
なぜないのか。
・それは強さが判りやす過ぎるからで、戦う前から結果が判り
「戦闘」の面白さが削がれるから。
シミュレーションは数字の上げ下げ、コントロールの過程に面白さがあるのであって
最期の評価判定だけで全体の価値が決められてしまっては面白くないから。
「成長」と「戦闘」は不可分であり、結果判定は常に流動的であるべきなのです。
・逆にロールプレイングゲームにレベルがあるのは、バランスを取りやすくするためでなく
強さを判りやすくし、戦う前から結果が判ることで
個々の「戦闘」の意味を薄めるためです。
確実に勝てる「戦闘」しかしない。
「戦闘」のための「成長」、「成長」のための「戦闘」。
この繰返す過程に、意味を持たせるのが目的。
強くなることに面白さがあり、その成果が勝利であって、結果強くなる好循環の楽しさ。
・なぜ多くのRPGは『女神転生』のように、SLGのように自由に成長させることができないのか。
それはそのことに意味がないから。
・『メガテン』能力成長のポイント割り振りは、ゲームの攻略にあまり重きをなしません。
常識的に割り振れば、もちろん影響はあるけれども、クリアできなくなるようなことはない。
戦闘に勝利するのに必要なのは仲魔の選定。これが『メガテン』第一義の仕組みで
そのために戦闘システムも成長システムも組み上げられています。
・自由に成長できることに特別な利点がない。武器やスキルで如何様にも補える。
それはつまり仲魔の魅力を高め、戦闘のバランスを取るためでしょう。
そしてそれは独自の魅力を引き立てるという意味では正解です。
ただ、パーティメンバーの内のひとりが物理攻撃を繰り返すことに固定されていることに
何も疑問を感じないなら問題でしょう。
・例えば成長しないキャラクターによる戦闘。
カードバトル、テーブルゲーム。『セブン』などもそうです。
(参考;『セブン』と『ヴィーナス&ブレイブス』http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20051002)
「戦闘」だけで「成長」がない、ということは
遊び手自身の実力のみを判定するという仕組みです。
・戦いの結果は自身の打ち手、戦術が全て。
それはもちろんそれだけでも十分に面白いです。
自身が成長し、また相手も同じように成長していけば
完結して限りなく深くいつまでも遊び楽しめます。
・しかしRPGの対戦相手は成長しない。
難易度の幅を広く取って長く遊べるようにはできる。
それを『カードヒーロー』などは実現しているし
多くのアクションやSTGも自身の成長の枠内でも充分に楽しめる。
・対し、自身が成長し、つまり上手く強くなっても相手は弱いままであるのが
成長しないRPGの戦闘。
戦闘システムを複雑化し、『サガ』のように様々な要素をつめこむことで
自身の成長を薄めることもできるが、取っ付きが良くなく、これは例外であって
多くは結果が見えている戦闘に早晩飽きるでしょう。
・戦闘を面白くするには、双方が同じくらいの強さであるほうが良い。
結果が事前に明確でありすぎてはいけない。
遊び手の能力が介在しないなら
その必要性はお話のイベント以上のものではなくなってしまう。
・自由に成長できることに、敵が対応できなければ意味がない。
そしてそれは自由の程度にもよるけれど、ひとでなく決められた数値演算プログラム相手には
現状難しい課題であるようです。
・では成長に自由はないのか。
・この例として挙げられるのが『ローグ』『不思議のダンジョン』の「蓄積しない成長」。
レベルが上がり、強力アイテムを拾っても
一度やられたら全て元の木阿弥、始めからやりなおし。
成長は全てリセットされます。
・敵は成長していない。こちらもその度ごとに成長し直さなければならない。
同じことの繰返し。なのに飽きない、むしろ長く遊べるのはなぜか。
それは遊び手自身の成長が全てで、敵がそれに合わせて設定されているから。
自身の成長はRPGのようにレベルアップごと、「戦闘」「成長」の繰返しでなく
SLGのように区切りなく過程ごとの全てにある。
・ゲームの中で自身の分身はレベルアップし
RPGのようにその成長に合わせて配置された敵と戦うことを繰り返す。
つまり常に双方同じくらいの強さになるようにバランスをとってある。
ここに遊び手の成長する能力が関わるから、結果は明確でなく「戦闘」は面白く
そしてゲーム中での成長の楽しさと共に
自身の上手くなる楽しさ、自由に成長する楽しさもまた味わえる。
・そう、そしてその逆。
自由に成長させることに意味を持たせるとしたらどうなるのか。
・それを見せてくれるのが『雪道』なのです。
育成SLGの数値上げ下げ調整が持つ単純な面白さ。
敵の能力に合わせて自身の能力を組み替える戦術の面白さ。
面白い。
・『雪道』はいろいろな面を見せてくれます。
・ゲームブックであるような受ける感覚はRPGのアドベンチャーゲームとしての側面。
・いかに切れがよくともボスとヤスのボケツッコミを操るのは私ですから
演出がよろしくないのがコマンド総当りアドベンチャーの限界。
(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040605#p2)
如何に速くクリアするか、である非探索『ローグ』型RPGであるところの本作は
実はそのテンポの良さ、製作者の制御し易さという点で
物語を演出するに良い仕組みであるといえます。
・特長はシンプル手軽で簡潔明瞭短時間に楽しめること。
・短いことはここでは必ずしも欠点ではありません。
『雪道』の刻むリズムはとても良い。
それはSTGやリズムゲームにもあるもの。
決まりきったステージと譜面の上を何度も繰り返して飽きることがないことは
その上に自ら描く軌跡に限りがないから。
必勝最適の答えはひとつでも、それを求める過程こそが楽しい。
・そして明瞭であること。
戦闘の勝利資源分配や魔法習得法則。独特独自。数字のやり取りは
意味を持たせられて明確です。
(パラメータ・サンクチュアリ「思索プロセス」http://f8.aaa.livedoor.jp/~sanctuar/log/rpg010.html)
ランダム不確定がどこにあるか明確で
自身の裁量によって対処可能であることは
決定的に『ローグ』『不思議のダンジョン』と違う本作独自の魅力です。
・そしてそれは共に欠点でもあります。
簡潔簡明であるゆえに多様ではない。
最適の答えが明らかなほどに、求める道の幅も定まり狭いのです。
・商業メーカーの力技と経験の蓄積による洗練で磨き上げて
その道を思いつく限り多様にしたのが
『不思議のダンジョン』の何度でも遊べる面白さ。
・それに対し『雪道』は
同人ゲームだからこその、短くても良いゲーム、大きくしようがないゲーム。
規模を大きくする毎に、例えばパーティメンバーを増やすだけで
その変数処理は膨大になり
バランスは崩れます。
・数値のやり取りをするのが楽しいゲーム。
それは現状、手作りの作者の神の手の平の上でののみ成立する手工芸作品ですが
いつかこの美しい数値のやり取りを、果てしなく楽しめるゲームが現れるでしょうか。