プロゲーマーとリアルマネートレード


・数万人程度の小さなムラ社会のことですが
 アーケードゲーム三国志大戦』廃人ゲーマーのなかで
 「プロゲーマー」の是非について話題になりました。

・このゲームでは、たまにオンライン大会が行われます。
 期間中は1人用、全国対戦、店内対戦に加えて
 大会専用対戦モードが選べるようになり
 期間を通して良い成績を上げると、「五虎将」とかの特別称号が得られます。
 この称号、肩書きはゲーム中、プレイヤー名と共に表示され
 お金で買えないレアリティ。周囲から羨望の眼差しで優越感。

・しかし最近、この称号を「代打ち」、上手いひとが代わりに大会モードを遊んで
 そのレアリティを獲得しようとしているひとが
 実は結構いるのでは、とムラの中で話題になったわけでございます。
 実際行っているという確証はなく、それこそ本人同士しかわかりようない。
 誰かが目撃したらしいという情報を聞いた気がする、という伝聞憶測飛び交い。 
 例えばYahoo!オークションで代打ちを募集していたりします。
 Yahoo!オークション - 三国志大戦3★代打ち★http://page2.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/b87079480

・代打ちを依頼するひとも受けるひともルール違反だ、という声の一方で
 改造とかの不正で対戦に勝利しているわけではないのだから
 代打ちより上手く操作して勝てば良いだけのことなのでは、という声もあり。
 そもそも複数の名義を使い分けるサブカードの存在自体が卑怯なのでないか、
 メイン名義で勝てなくなったからといって、サブを作ってランキングの下から
 初心者狩りをしながら遊びなおすのは擁護できるのか、とかとか。

・可動開始から3年、いまだに遊んでいるひとというのは
 つまり累積何十万円もひとつこのゲームにつぎ込んでいるひとたちであり
 このゲームで、一般にいう攻略法、攻略本に書いてあることは
 誰もが知り尽くしている。徹底的にやりこんでいるでいるわけです。
 それでも優劣の差は歴然としてある。
 対戦ゲームとしては正しいのですが
 同じ条件下で対戦しても、上手いひとが勝ち、下手なひとが負ける。

・何十万と費やしても、負けるものは負ける。
 そして、何十万も費やせる財力はあっても、倫理は必ずしも伴わず。
 「たかがゲーム」にも妬み嫉みは塵積もって山となり。
 それがこの騒ぎ、というわけなのであります。


・開発のセガは公式サイトで以下のように警告を出しております。

 君主カード(ICカード)裏面にも記載がございますように、
 ICカードを他人へ譲渡することはできません。
 今後、君主カードの譲渡や貸与、またプレイ結果に基づく結果に対して
 金銭や物品の授受があったと運営事務局が判断した場合は
 該当ICの削除等の対応をとらせていただく可能性がございますので、
 予めご了承下さい。  http://www.sangokushi-taisen.com/mail_all.htmlより

 お金を払い、上手いひとに代打ちしてもらってまで
 一過性の、ゲーム内データに過ぎない称号や全国ランキングの順位という価値を
 欲しがるひとがいる。
 これもゲームの一側面。面白いです。




・この問題に類似するのが、オンラインRPGで見られるリアルマネートレード。 
 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/リアルマネートレーディング
 【4Gamer.net】 メーカー vs. 業者。RMTがはらむ問題と可能性をめぐる座談会http://www.4gamer.net/specials/060426_rmt/060426_rmt_001.shtml
 ゲーム内の数値が、ゲームの外でも価値を持つ。というと特殊なようですが
 ゲーム自体がゲームの外と呼んでいるところで遊ばれるのだから
 これは当然といえましょう。
 その価値が具体的に金銭価値として関わることが少ないから気が付かないだけで
 どんなゲームのデータも、市場価値を持ち得ます。
 パチンコのようにわかりやすいものでなくとも。

・また、時間単価の国内外差によるオンラインゲーム上の労働でなくとも
 アーケードのカードゲームでは、排出カードという形で
 わかりやすくゲームをすることで利益が得られます。
 カードはトレードするだけではなく、カードショップに売ることもできる。
 稼動開始直後であれば、遊ぶのに掛かる料金より
 カード売却額の方が高いということも起こり得る。
 そもそも、ゲームを前提としたカードショップが成り立っていること自体、
 驚くべきことであるといえましょう。
 マルヒゲヤは仮想現実だけのものではない。いつのまにやら。



・ところで少し話しをそらしますが
 ではリアルマネー、現金と引き換えにされるほどの価値があり得る、
 このゲームデータというものは、誰のものなのでしょうか。


・普通一般には、遊んでいるひとのものと捉えられております。
 家電量販店でも当たり前に売っている『プロアクションリプレイ』のような
 ゲームデータ改造ツールがその例。
 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/プロアクションリプレイ
 ゲームソフトの中身を改造するのではなく
 遊ぶことで作成されるゲーム内データは、改変しても許される。
 なぜなら「プロアクションリプレイ」が大手を振って売られているからだ。
 すなわちゲーム内データは遊ぶひとのものなのだ。

・この、ゲームメーカーがいかにも嫌いそうな改造行為が文句言われないのは
 一応、過去に問題になり裁判で争われた結果、合法という判断がおりたから。
 あくまでいちおう。
 条件がつきまして、本来意図されたゲーム表現を改変しないもの、
 そして、遊ぶひとが私的に楽しむ範囲においては、ということ。
 つまり商売の邪魔をしない限り。あいまいわかりがたい。教えて著作権

・また、オンラインゲームでは、単に改造がし難いように、もありますが
 遊んだデータは大概、ゲーム機ではなく
 メーカー側の通信モードを管理している機器の方に記録されております。
 そこに、普通の1人用ゲームのようにデータ改造しようとして
 進入すればもちろん違法。不正アクセス禁止法
 つまりゲームデータはメーカーのもの。
 ますますなんだかわからない。


・ゲームは、中古販売が違法か、で争われたとき、大々的に問題になりましたが
 例外はありますが一般に
 「映画の著作物」に含まれる著作権で保護されております。
 というと固いはなしなので、例によって例を提示しますれば
 ネット大好きなみなさんが大好きな、YouTubeとかニコニコ動画
 ゲームを遊ぶとき、テレビやディスプレイに表示される画像や音声データを
 公開することは
 特別に権利者が許可した場合を除き違法ですよ、ということです。
 これが映画の著作物に対する著作権による保護。

・ゲームは操作しなくとも、その映像だけでも著作物になりうる。
 例え囲碁将棋ゲームを遊んでいる映像であろうとも。たぶん。
 動画を許諾なく公開することが禁止なのは
 映画で同じことをされたら商売にならないことから明らかであります裁判長。

著作権は、権利者が著作物で正当に商売して利益を上げる権利を保護するもの。
 ゲーム自体を改造することは、著作物の同一性保持権違反。
 同一性保持権は広く著作権に含まれる権利で
 つまり改造品を類似別物として商売することは
 著作者の権利侵害は明らか、であることから導かれる原理。
 オマージュは良くても盗作は駄目。
 リスペクトは良くてもコピーは駄目。
 インスパイアは良くてもパクリは駄目。
 ちなみにパロディや引用は著作権上認められているのでありますが
 何事にも例外はあることご存知の通り。正しさは常にひとつではありません。


・なぜ『プロアクションリプレイ』が訴えられないのか。
 まとめると
 1.ゲームソフト自体を改変しないこと
 本来意図しないような結果をゲーム内表現にもたらすものは
 上の同一性保持権、つまりまがい物作成に当たるので駄目。
 細かくいうと、著作物は「ぶつ、もの」とつくように
 何かのものに固定されていて始めて物、著作物となるので
 ゲームソフト内の物を改造し、新しい物を作りだしたとき、
 例えばRPGでレベルを最高に書き換えた際、
 それが元の物に含まれる範囲であれば
 つまりゲーム内でレベル99までしか上がらなくとも
 256まで書き換えられ、それでも99以下の時と計算結果の正しさが保たれるなら
 違うものとは言えないわけです。よって同一性を侵害しないのです。たぶん。
 2.公開せず私的に楽しむ範囲であること
 つまりニコニコ動画にアップした結果により
 アフィリエイト等でなんらの利益を得なかったとしても
 著作権者が映像自体から本来得るべき利益、
 例えばSTGのスーパープレイ動画の販売とか、を侵害しているので公開は駄目。
 3.改造する行為に違法性がないこと。
 例えばオンライン越しに、ゲームサーバー上へデータを変えようと進入すれば
 これは不正アクセス禁止法内の、電子計算機損壊等業務妨害罪、
 つまり正常なオンラインゲームの運営という本来の業務を妨害するので違法。
 また、「プロアクションリプレイ」のように
 ゲームで実行されているプログラムに対して改変するように
 ディスアセンブリ、逆解析してゲームソフト内データにアクセスすることが
 それを行う唯一の方法であり
 それが著作物の保護されるべき権利、
 創造されたアイデアや思想、表現に対する公正な利用であるならば
 それは違法ではないのであります。
 リバースエンジニアリング。PC上でPSソフトをエミューレートするのは合法。
 でもソフト内にある著作物は、もちろん保護されなければなりませんが。

・以上3つを満たせばゲームデータは改造しても良いのです。
 しては駄目という理由がないのです。

・ということがいろいろな法律とか裁判の結果、
 いちおうこういう判断が正しいらしいのではなかろうか、
 とされている内容です。
 いちおう、というのはそれでもメーカーが訴えてくることはあるし
 裁判で負けることもあるから。
 特に1.の、著作物本来の同一性が及ぼす範囲は、操作できるゲームであるゆえに
 曖昧で、判例もわかれております。
 詳しくは『それは『ポン』から始まった』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20060207で紹介)
 とかをお読みになることをお勧めいたします。

・ひとことで言うと、商売の邪魔をしては駄目。
 ディズニーとかコナミとか任天堂がうるさくてセガはぬるいということでなく
 理由があって駄目なのです。正義は勝利なのです。




・さて話を戻しますが
 オンラインゲームでは、もちろんデータの改造は駄目です。
 これは法律がどうこう、ゲームのルールがどうこうより前に
 誰かがずるをするだけで、他のひとたちの面白さがとても損なわれるので。
 対戦ゲームでも、協力するゲームでも
 通信回線のむこうに同じ条件下で遊んでいるひとがいるゲームで
 自分だけ規則を破り、優位な結果を求めて遊ぼうとする行為が
 認められることはない。
 もちろんそれが判っていても解らないひとの、なくなることもありませんが。


リアルマネートレードや代打ち行為は
 ゲームのルールでは違法でも、権利妨害商売妨害で訴えられることはない。
 「ICカードを他人へ譲渡することはできません」という規約を設けても
 両者が同意していて受け渡しがされることを、止めることはできない。
 そこに金銭のやり取りがあったとしても
 明らかにゲームは賭博でないのでノミ行為とは言えず
 ゲームを製作、運営することで、メーカーが本来得られるべきであった利益を
 侵害しているとは言えない。ダフ屋行為同様に違法性は曖昧である。
 
・サブカード作成という
 全国ランキングというデータを放棄して、1から遊びなおすという行為は
 結果として初心者がゲームに入りにくくなり遊び手の減少を招く、
 とする調査結果をもし出せるとしても、それで業務妨害を訴えるのは難しい。
 またゲームの規約として、自身に不利益を及ぼす行為であり、禁止ではない。

・オンラインゲームにおける、
 ゲームを正しく進行させるためにゲーム管理運営者が保持している部分にある、
 遊び手が遊ぶことで作成されたデータは
 正常な運営を妨害すると判断される規約違反を理由にそれを削除改変する、
 という規約に則りゲームが運営されている場合、
 これは違法ではなく遊び手の財産権利侵害にはならない。と思われます。


・これらの現状に対し、ゲームを遊ぶことで利益を上げるという「プロ行為」は
 そうしていない遊び手の意欲をそぐ面で、
 メーカーからは著作権利や商売妨害のようにみえるので、
 否定されるわけですが
 場合によってはそうでない面もありうるわけです。

・ゲームを遊んだ感想をネットに書く。
 その内容が認められてメーカー公認で商業出版される。
 得られる利益は、ゲームを遊ぶことかつその行為を文章化することによる。 
 ゲーム大会がメーカー主導で開かれるのは、それがゲームの広報になるから。
 観戦することに対しお金を取ることまでいかずとものでなく
 競技スポーツとして成り立つ条件を満たしている。
 
アメリカとかで成り立っているらしいプロゲーマーは
 ゲーム大会で入賞することで金銭利益を得ているらしい。
 これは日本国内において、アフィリエイトを嫌うように
 アマチュアリズムを尊ぶ風潮、とかに関係なく
 風営法風俗営業適正化法の範囲において規制があるため、
 つまり警察との関係をパチンコとか違い
 初期においてきちんと確立しようとする動きが
 ゲームセンター運営者及びゲームメーカーになかったため、
 つまりはゲームが子供の遊びでしかなかったため、難しいですが
 公にゲームの上手さを認められることは
 ゲーム情報誌などからライター仕事が来るかどうかにかかわらず、
 代打ちの依頼があるかにかかわらず、
 金銭にはならない利益はあるといえましょう。 


・麻雀のプロ雀士という例に倣い、ゲームにおいてもプロ行為は成り立ちます。
 家庭用で、1人用で遊んでいたころと違い
 オンラインで、容易に全国の誰とでも対戦でき
 全国ランキングが遊び手の多くに認知されることで
 ゲーム操作の上手いひとが得られるであろう価値は向上している。
 それが金銭利益に結びつく機会は、競技としても賭博としても行われないため
 少ないですが、皆無ではない。

・現在のリアルマネートレードやアーケードカードゲームのカード売買は
 限られた規模であっても、現実既に市場価値を有している。
 将来、そのような規模が広がって
 賭博でなく、競技でもないところで、プロ行為が成り立ち得る、
 ということが絶対ないとはいえません。
 ゲームのデータ価値が、ゲームのオンライン化で増大する。
 ゲームが必然行く先もうある現実です。


・オンライン化は、ゲームソフトの寿命を延ばしています。
 ひとつのゲームを、多くのひとが何年も遊び続ける。
 それによって従来生まれなかった価値が生まれる。
 それでゲームを遊ぶということがどう変わるのか。
 そしてゲームがどのように新しくなっていくのか。
 そかがゲームを遊ぶひととして、興味を持って、面白く見るところであります。