「白土三平論」

kodamatsukimi2004-03-07


 著者;四方田犬彦 作品社 2月27日発行 ¥2,400  ISBN:4878936339

・マンガ評論家 四方田犬彦(よもだ いぬひこ)さんによる
 白土三平作品の書き下ろし評論。

 作品社紹介ページ http://www.tssplaza.co.jp/sakuhinsha/book/geijyutsu-etc/tanpin/6339.htm



・マンガの神様 手塚治虫と並ぶ大家、白土三平
 代表作は「忍者武芸帳」「サスケ」「カムイ伝」など。

・’00年からビックコミック連載の「カムイ伝 第二部」が休載になり
 現在ほとんど言及されないマンガ家となっています。
 また、’60年代の思想的評価の高さが難解なイメージを作ってしまい
 手を出しにくい印象。
 はてなの解説もマンガ家とは思えないほど難解です。

・過去の有名マンガ家、というのが現在の評価でしょうか。


・これまで手塚氏と違ってまともな評論がなされていない、
 これは初の白土三平論である、
 と著者は巻頭で述べていますが
 そもそも、手塚、つげ義春の2名くらいしか
 そのような評論はされてないのでは。

・他にはコミックマーケット代表で有名な米沢嘉博さんによる
 「藤子不二雄論」もありますね。

 ISBN:4309265499


・「磯野家の謎」に代表される「謎本」というジャンルが
 10年ほど前流行しました。
 堅い視点ではなく、対象のおかしな点を笑い飛ばす、という
 今までにない見方をしたもので
 底は浅いものの、ネタ本としては面白いものでした。
 しかし、柳の下を狙って原作に対する敬意のない本が大量に出版され
 有名マンガの評論という分野は
 ずいぶん荒らされてしまいました。

・本書のように
 マンガの門外漢でもなく、マンガだけしか読まない人でもない、
 きちんとした評者による評論はぜひ出してほしいものです。

・マンガ評論は端緒についたばかり。
 さいとうたかお論、水木しげる論、杉浦茂論(これはありそう)
 等々、今後出てくるのを期待。


・ところで、こういった評論は
 対象となる人物が新たな作品を執筆しなくなってからでないと
 完全な内容のものが作れなさそうではありますが、どうなのでしょう。
 


・さて本書の内容の方は、
 白土先生の生い立ちから各時代の代表作をつぶさに紹介。検討していく形。

唯物史観などの思想性の面にはあまり触れておらず
 作品性主体の解説で
 どの作品もかなり丁寧に紹介されていて
 読みたい欲がそそられます。

・また、マンガ以外にも’98年の食物に関するエッセイにも触れられています。

・各作品の時代背景、作品の書かれた状況、白土先生自身に著者が取材し
 凡百の著者が自己満足の解説者となって自分の感想を書きなぐっただけのものとは違い
 しっかりとした本格的な評論です。


・ただ、作品リストなどの資料がないのが欠点でしょうか。
 そこでお勧めなのが以下のサイト。

 白土三平ファンページ http://homepage1.nifty.com/kumori-hibi/sirato01/sirato01.html

 豊富で詳細なデータ。お勧めです。
 

・白土マンガ初心者への、私なりのお勧めとしては
 まずは「忍法秘話」「真田剣流」などの一連の短編集から。
 山田風太郎や柴田練三郎などの「忍者の秘術合戦」調で気軽に楽しめます。

  
・その他読んでおきたいのは

・「カムイ外伝」 
 本編第1部では主人公でありながらあまり活躍しないカムイが
 全編渋く活躍するスーパーヒーロー調。
 忍者合戦、時代劇好きにお勧め。
 「風下に立ったが、うぬが不覚よ」とか「先に動いたほうが負けだ」など
 名フレーズもたくさん。
 カムイの必殺技「変位抜刀霞切り」「イヅナ落し」などの解説もあり。
 後半ややだれるのが残念。
 絵が小島剛夕さんと思われる筆から
 岡本鉄二さんに代わり、ずいぶん雰囲気が変わりますが
 どちらのカムイもカッコいいです。

・「サスケ」
 少年誌連載だからか、かわいい少年忍者サスケが主人公。
 アニメ化されて有名なのですが、話はわりと散漫。評価は低め。

・「忍者武芸帳
 「一部」より先に読んだ方が良いかも。
 話的にも、絵的にも、カムイ伝の下敷きになるところなので。
 主人公 影丸
 「われらは遠くからきた。そして遠くまで行くのだ。」
 というセリフは有名。意味はよくわかりませんが。

・「カムイ伝第一部」
 読み終わるとかなり疲れる超大作。
 白土マンガの代表作にして集大成なので、時間を取って押さえたいところ。
 ちなみに前半は小島剛夕さん、
 後半は白土先生(本名 岡本登)の実弟 岡本鉄二さんによる作画。
 外伝、二部も鉄二さんです。

・最後に「カムイ伝第二部」
 カムイがわりと活躍してくれて嬉しい。
 しかし長い。そして未完。
 面白いのに。面白いがゆえにたまりません。
 早く続きを書いてください白土先生。


・もう御年72歳なんですよね。
 うう、がんばって下さい。

私的マンガ論


・’90年代以降の読者である私の
 白土三平というマンガ家への興味は
 マンガ家の系譜上の立位置です。


白土三平は、主流である手塚治虫系列、トキワ荘グループに入らず
 手塚マンガの影響を直接受けていない、
 さいとうたかお等と同じ括りの特異な存在である、という認識。

・反(アンチ)ではないものの、手塚マンガに対する劇画マンガ、と
 乱暴に括れるかもしれません。


・この非手塚マンガ層は、池上遼一らの劇画作画手法のみが
 手塚マンガ層に取り入れられて
 その表現していたマンガ手法は
 現在は非主流。

・キャラを立ててストーリーを転がすのが手塚流、
 ひたすらキャラ立てをし、上に上に上っていくのが小池一夫流、
 かつ、少年マンガ王道のジャンプを体現する本宮ひろし。


・この小池流の特徴は、原作者と作画者を分け
 グループ、プロダクション形式でマンガを描くこと。
 有名な所でさいとうたかおプロダクションがありますが
 白土三平の赤目プロも近い形。
 自身で作画をするのではなく、分業体制を取る。

・またもう一つの特徴が、長大なストーリー。
 主人公の長い生き様を通し、いい意味で高尚な思想を語る、
 というスタイル。

・上へ上へという小池スタイルに形は近いがより洗練されているのが
 マンガマニア層に名作として評価される
 星野之宣諸星大二郎などの一部のマイナーなマンガ。


・マンガの主流は週刊誌。
 週ごとの盛り上がり、山場をを重視せざるを得ず
 全体の構成、完成度が悪くなってしまう。
 というのは、商売の形として効率を重視すれば当然で
 仕方ない形なのかなとも思いますが
 白土マンガの作風は、割と行き当たりばったりでもあるので
 簡単に括れないところ。
 貸本時代や少年誌に連載していた経緯も影響しているのか。

・当初から完結までの緻密な構成を立てて書き始めるというスタイルは
 こぢんまりとまとまった佳作に終わってしまうのかもしれません。


・「マンガ原稿料はなぜ安いのか?」という本の中で著者 竹熊健太郎さんは
 ストーリーマンガは4、5巻程度の形が理想なのではないか、
 と提言しています。

・以前取り上げた「G戦場ヘブンズドア」などがこの例。
 IKKIというマイナー、マニア向けの月刊誌、最初は隔月でしたが、に
 掲載されているというのは
 ストーリー性の高い作品には月刊刊行形式が適している
 といえるのではないでしょうか。
 マニア層に高く評価されているコミックビームや、
 「少女マンガ」が月刊を基本とすることからも、そう思われます。

・だからといって週刊形式のマンガが月刊形式のマンガに
 劣るわけではないですが。
 そのあり方の違いですね。

・上記本の中で刊行形式の理想として提言されている書き下しスタイルは
 その利益性、選別の土台となる、分業での週刊連載、
 というプロダクションスタイルが作家的に可、とするかが問題で
 難しいのでは。


・何か、かなり泥沼に踏み込んでしまったので
 この「マンガ原稿料はなぜ安いのか?」をその内あらためて取り上げ
 その際に続きを書いてみたいと思います。

 ISBN:4872574206


・以上文中敬称略。