『アイドルマスター』はなぜアーケードゲームか


・以下ゲームマニア向けにだらだら思い付きを書き流します。



・育成SLGとしては『プリンセスメーカー』直系発展形を思わせる作品。

・世に育成SLGと呼ばれるものは沢山あるのですが
 どうもして、『プリンセスメーカー』にある対象キャラクター能力値上げ下げの面白さを
 そのままに受け継いで発展させた作品は中々にありません。
 あるいは『ときメモ』の方へ。あるいは『シムシティ』『ダビスタ』のほうに。

・むしろ直にその影響を残すのは『アンジェリーク』や
 『エラン』(http://www.visco.co.jp/prdc/elan/elan_con.html ASIN:B00005OV76)、
 『かえるの絵本』(http://www.infinity-soft.co.jp/kaeru/kaerutop.html ASIN:B00005OV2Z
 など、ぬるめRPGの1要素として。お手軽視覚にわかりやすいであるからでしょうか。
 そんな中で『プリズムコート』(ASIN:B000069SN1)はむしろ珍しいのかも知れません。


・なぜ『プリンセスメーカー』系育成SLGが少ないのか、は
 『雪道』の項(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20051118)にも書きましたが
 育成の評価判定が最期にしかないからです。
 それを転換させたのが『ときめきメモリアル』。ステータス数値がイベント起動条件。
 明らかにこちらのほうが仕組みとして上。

・『アイドルマスター』は、ただアイドルの能力を上げていくだけのゲーム。
 能力を成長させるのが、必ずしも目標に対し必要でないことが
 旧式育成SLGプリンセスメーカー』を思わせたる所なのですが
 違うのは、「対人対戦による育成評価を常に発生させることができる」こと。 
 育成の結果に評価があるのでなく、対戦、他との比較のために育成がある。
 その転倒が新しい。

・そしてこの仕組みに「アイドル」を持ってきたのが実に上手い。
 「娘」と「プリンセス」、そして「アイドル」。
 『ぼくらの太陽』に「吸血鬼」を持っていかれた時の「やられた感」です。




・さて次に欠点を並べてみます。大きく分けて3点。
 

・その1。育成と対戦の時間配分。
 上にも書いたように、「育成パートと会話イベント」を選んだ週と
 「オーディション」を選んだ週とでは、プレイ時間が違います。
 これは良くない。

アーケードゲームではコインを入れることで自らの腕に「賭けて」いる以上、
 ゲーム上手ければそれだけの見返りがなければならない。
 でなければ上手くなろうとしない、すなわち長く遊んではもらえないからです。
 その見返りはゲーム内のスコア、アイテム、データ内容での優遇や
 スコアランキングへの登録、プレイ時間の延長などのゲーム外でのもの、と様々。


・例えば、「オーディション」エントリー待ち時間にするべきことがない。
 「オーディション」に合格してアイドルがテレビで歌っている間にすることがない。

・それは例えば競馬のように、そこに「賭けて」いるものがない、
 注目して画面を見る必要のない「遊んでいない」時間です。
 遊ぶためにお金を払っているのに、お金を「賭けれない」。

アーケードゲームの時間管理は
 家庭用機のセーブロード時間とは比較にならないほどに重要です。
 常に1秒といえども遊ばせなければならない。遊べなければならない。
 1プレイで上手いほど長く遊べる構造、または誰でも同じくらい遊べるゲーム。
 そのどちらも満たしていない。そこが本作の欠点その1。



・その2。キャラクターゲームとして上手くない。
 これはこちらの指摘を参照。

 最強の伊織派blog: アイドルマスターの萌え構造 http://sfrenatezze.com/ioriha/2005/12/blog-post_16.html
 (「好き好き大好きっ」2005年12月17日より http://www.ne.jp/asahi/yu-show/sukisuki/200512b.htm#20051217


・用意されたアイドルは10人、内双子1組の9パターン。
 けれど個々の性能差が小さく個性に乏しい。
 育成SLGとして見て、初期能力値を成長させ易さで均せば、然程に差がないのは
 対戦との両立を図るためにの迷いがあったのかもですが
 ユニットを組むこと、デッキカードゲームほどにではないにせよ、組み合わせることで
 より能力に個性を持たせられたはず。

・逆に言えば「アイドル育成ゲーム」かつ「設定を持つキャラクターゲーム」、
 その両立が根本的に相性悪いのかも知れません。

・「対戦用の駒」と「アイドルキャラクターの個性」をかみ合わせた結果として、
 引退というエンディングが必ずある育成SLG
 常に勝敗の不確定な対人対戦を置くことで
 スケジューリングを調整していく過程。これがこのゲームとしての底で
 そこがつまり『プリンセスメーカー』のように思わせる。
 新しいジャンルを作りだす発展が見られません。


・上に言われているように、個性を寄り立たせる「キャラクター複層化世界観構築」、
 結果のストーリー生成によるキャラクターへのフィードバックはまるで生きていませんが
 これはアーケードゲームが押さえるべき点だけを
 慎重に踏んだ結果であるのかもしれません。
 むしろ自動生成でなく個性を持ったキャラクターを用意するのは必然であるとするならば
 なぜそれを活かさない対戦形式にしたのか。

・この点『ファイアーエムブレム』というと明後日に行きますが
 『機動戦士ガンダム 0079カードビルダー』辺りに注目して見ても良いかも。
 それともナムコ版『クエストオブD』たる『ドルアーガオンライン』(http://www.druaga-online.jp/)か。



・その3。難易度調整。

・このゲームの難易度を定めるのは実に難しい。

・繰返しプレイが、ややお金の問題があるとは言え、前提であるゆえに
 熟練プレイヤーも低ランクに当前存在し
 逆に高ランクプレイヤーが必ずしも経験豊かであるというわけではない、
 という状況が『三国志大戦』とはまた違った理由で起こりうるのは面白いところで
 本作の個性ともいえるところでしょう。
 それを活かす、例えば協力システムが一切ないのもまた欠点ではありますが。


・プレイヤー総数によって難易度調整の必要があります。
 この対戦システムは、合格者数以上にプレイヤーが揃わなければ面白くない仕組み。
 6人の対人で足を引っ張り合ってこそ面白いゲーム。
 『四つの剣』でCPU戦を行なうはかけらも面白くありません。
 キャラクター性能ではなく、勝負結果で脚切りする種の対戦ですから
 育成SLGとみたプレイヤーが、必然避けられない上位を除いて避ける傾向にあるのが
 コミュニティを見て窺えます。

・審査員ポイントの「星」や駆引きの様から
 福本伸行カイジ』「限定ジャンケン」を思わせる本作の対戦システムですが
 自動調整が働かない仕組みであるのは、さらにまだ発展の余地あると見るべきでしょう。




・『アイドルマスター』は、蓄積があまり必要でないゲームです。
 金銭面にもプレイ時間経験からも。

・『三国志大戦』や『クエストオブD』は最初に\10,000以上の投資をしないことには
 まともに世間並みへ付いて行けません。
 対戦駆引きの奥深さについてではなく
 デッキ構築のためのカード収集、カード操作の習熟
 装備アイテム蓄積、ダンジョントラップ対処アクションの修練。
 そういった、時間とお金を賭けなければ身につけることが出来ない要素、が少ない。

・収集要素に欠ける。それは悪いことではない。
 美点で良い点、とっつきやすい良いゲームといえましょう。

・プレイヤーの技量、蓄積によるその埋め合わせ、そして程良い時の運。
 「対戦」「蓄積」を売りとするアーケードゲームにおいて
 この対比に疎かであってはいけない。しかしそれを成し遂げるのは難しい。
 『アイドルマスター』はこの点、良く考えられて優れている。





・『アイドルマスター』は育成SLGでありながら、アーケードゲームです。
 ゲームセンターにおいてあるゲーム。

アーケードゲームであるがゆえの特性は3点。
(関連 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20051225#p2
 専用筐体。「ガンSTG」「音ゲー」「レースゲーム」『三国志大戦』などの特殊大型筐体。
 手軽な対戦としての「場」。「格闘格闘」「麻雀」「FPS対戦」。

・『マジックアカデミー』はアーケード、ゲームセンターに置かれてこそのゲームです。
 例えばPSPに移植されても、それは格闘ゲームと同じく練習用のものであって
 ゲームセンターという「場」で
 誰かと競い合うことの価値が必ずしも減じるわけではない。
 もちろん、現在のゲームセンターと同質に整備されたオンライン環境が
 家庭用に用意されるならば、家庭でない「ハレ」の場である以外には
 この価値は減じます。ゲームセンターは家より遠い所にあるのだから。
 

・画面のきれいさは家庭用ゲームと比較して既に売り物にはならない。
 ではアーケードでこそ、実現できるゲームとは何か。
 それは上2点を活かして家庭用ゲーム機でしか出来ないと思われていたことを取り込むこと。

RPGSLG
 1プレイに長い時間が掛かるのが当たり前、
 3分\100のアーケードにはまるで合わないと思われていたゲームジャンル。
 しかしカードシステムでプレイデーターが記録できることで、それが大きく変化した。
 協力してダンジョンに潜れるオンラインRPGを手軽に楽しめる。
 育成した愛馬を他のプレイヤーと手軽に対戦勝負することができるゲーム。



・上記参照サイトの末尾から引用。

 いってみれば、アイドルマスターはお金が掛かるゲームだからこそ生きる。
 いくらでもコンティニューを繰り返せる家庭用ゲームになったら、この緊迫感はない。
 今私らが楽しんでいるようなものは得られない。

・これは『アイドルマスター』に限るものでなく、アーケードゲーム全てに言えること。
 

アーケードゲームは遊びたいからお金を入れる。
 面白いと思われるから、期待値より最初のプレイ料金が低いからこそお金を入れる。
 これは場の特性もあります。
 ゲームセンターはどこにでもあるわけではない。
 まして大型筐体を置く店は限られている。
 そういう場所に現在居るからこそ、家庭用ゲームの用に腰を据えて品を定められなくとも
 遊んだこともないものにお金を払うのだ。


・それだけではない。1プレイを短く、繰返し長く遊んでもらわなければならない。
 つまり最初に入れたお金の分以上に満足できそうだという期待を次の1回に、
 「賭けたくなる」ようでなければならない。

・賭博と同じ。明らかに賭けないほうが損失は少ないことが自明でありながら
 期待できる見返りの多さが、賭ける金額の持つ期待値との平衡を超えると
 錯覚できる状態を作りだすこと。
 その点生命保険は宝くじなぞとは比較にならないほど良く出来ています。


アーケードゲームの特性はそれです。
 お金を賭けた以上、このゲームは今は期待以上には面白くなくとも、
 いずれ期待以上に面白くなくなければならない、と期待させ続けなければならない。
 自分に対し。また製作者はプレイヤーに対して。
 それがアーケードゲームを遊ぶときのみ感じる高揚たる期待感で
 価値ある面白さと錯覚させるために、なくてはならないものである。



・『アイドルマスター』は家庭用版も計画にあるらしい。
 果たしてどのようなゲームとなって来るのか。
 それを思うだけで楽しめるのだから
 『アイドルマスター』は間違いなく面白いゲームであります。