・マンガは取り上げる時期が難しいものです。
・ゲームであれば発売日という大きな区切りがあるのですが
マンガは連載分がある程度たまったら
随時コミックスにして刊行、という形式が主です。
書き下ろしで単行本1冊分を出す、
ということはなかなか行われにくい。
・現在も連載中で完結していない作品については
あれこれ言いにくいわけです。
マンガ賞などもいまいち盛り上がらないのは
その対象作がまだ未完成で、これからどうなるかわからない、
という点もあるのでしょう。
・マンガの区切りは連載終了、単行本刊行時。
今回はこの5月に発売されたマンガ3冊の感想です。
・「エマ」4巻
著者;森薫 エンターブレイン 5/26発売 ¥620 ISBN:475771887X
・「エマ」はファミ通のエンターブレインが出版するマンガ雑誌、
コミックビーム(http://www.enterbrain.co.jp/comic/)の話題作。
著者、森薫さんはこれが初連載作品。
森薫公式サイト;伯爵夫人の昼食会 http://pine.zero.ad.jp/~zad98677/
19世紀末英国、産業革命以後に全盛を極めた
華やかなりしヴィクトリア朝ロンドンを舞台に、
メイドのエマと貴族のウィリアムとの身分違いの恋を描くラブ・ロマンス漫画。
公式サイト内「エマ」作品紹介より
・コミックビームはかなり本気のマンガマニア向け雑誌。
ファミ通のエンターブレインだからゲームのマンガ版などがあるかというと
まったく逆。
硬派で読み手を選ぶマンガ雑誌です。
・その中で「エマ」は万人にお勧めできる作品。
イギリスはビィクトリア時代、霧の都ロンドンが舞台。
いわゆるシャーロック・ホームズの世界。
・貴族とメイドの身分違いのラブロマンス、というとっても直球の物語ですが
辺にべたべたするのではなく、あっさりと話は進んでいきます。
・バックグラウンドとなる舞台世界とそこに並ぶ人々の描写が丁寧。
人物の個性から来る魅力、いわゆる「キャラ立ち」でなく
身分、環境、外見によって決まってしまう客観評価、
「決められた役割」でキャラクターを演出しています。
・ストーリーも「枠組み」からはずれないもの。
貴族の息子、伯爵家の娘、家庭教師、それに使えるメイド、
各人の役割を丁寧になぞる形で話は展開。
・各エピソードの余白を開け
語られた設定から、読者に行間を想像、補完させる手法は
月刊誌ゆえのものではありますが、
よく機能しており著者の非凡な演出力の表れといえます。
・連載分はいよいよ山場。次回がとても待ちどおしい、
要注目のマンガです。
・「エマ」3巻と同時に刊行された「エマ ヴィクトリアンガイド」(ISBN:4757716435)
(公式サイト内紹介 http://pine.zero.ad.jp/~zad98677/book/vg-contents.htm)は
手軽に当時の世界観をうかがい知ることが出来る
優れたガイドブックとなっています。
「エマ」ファンだけでなく、設定好きの方にもおすすめ。
・「ハチミツとクローバー」6巻
著者;羽海野チカ 集英社 ヤングユークイーンズコミックス
5/19発売 ¥420 ISBN:4088652037
羽海野チカ 公式サイト http://www6.plala.or.jp/ssss/umino/
集英社ヤングユーサイト http://youngyou.shueisha.co.jp/
・昨年話題になった、通称「ハチクロ」の最新刊。
・「トキメキ☆逆走ラブストーリー」というキャッチのしめす通り
ただのラブストーリーではなく
コメディ要素、ギャグマンガの側面を持つ本作。
・美大生である主人公たちの恋愛を
「NANA」とは違う青年誌的な切り口、
家族や職場、大人にならざるをえないキャラクターの立ち位置をからめて演出。
・その描写は、長年にわたって精錬されてきたマンガ文法、
マンガ好きならではのマンガ作法によって行われています。
目に星が飛ぶ、ひとむかし前の「少女マンガ」の可笑しみを踏まえ
照れることなくストレートに演出する作法。
画面の細部にわたり、著者の演出意思が注がれています。
・「NANA」がその時代を写し取る「少女マンガ」であるならば
「ハチクロ」は「少女マンガ」を読む読者を描くマンガといえます。
・「エマ」の森薫さん同様、羽海野チカさんもこの作品が初連載作。
「ハチクロ」の連載はもちろん、
今後どんな作品を書くのか楽しみです。
・「きせかえユカちゃん」6巻
著者;東村アキコ 集英社 リボンマスコットコミックス
5/14発売 ¥390 ISBN:4088565398
集英社Cookieサイト http://cookie.shueisha.co.jp/top.html
・シンプルなギャグコメディ。
小学6年のユカを主人公に友達、家族、担任教師などをレギュラーメンバーに
一話読みきり形式での、様々な日常の大騒動を描く内容。
・ありがちな設定ながら、個性的なキャラクターの
ノリノリのボケ突っ込みな掛け合いが楽しい、まっとうなギャグマンガ。
・技術でなく著者の個性で描かれる世界観であるだけに
話の広がりは感じられませんが
素直に楽しめるマンガらしいマンガです。
・というわけで簡単に3冊を紹介しましたが
どれもが男性でも、もちろん女性にも楽しめる良く出来たマンガです。
是非一度手にとってみてください。