SRPGの戦術と戦略 「魔界戦記ディスガイア」の新しさ

kodamatsukimi2004-07-28



・さて今回は、昨年の話題作「魔界戦記ディスガイア」です。

 PS2 ’03/1/30発売 ¥6,800

 日本一ソフトウェアhttp://www.nippon1.co.jp/index.html

 公式サイト http://www.nippon1.co.jp/contents/game/disgaea/index.htm



日本一ソフトウェアは従業員32名(サイト内会社情報より)の小さなメーカー。
 ’98年発売の「人魚」ならぬ「マール王国の人形姫」。
 実にシンプルなゲームでした。
 いってしまえばRPGツクール(簡易ゲーム作成支援ソフト 参考;ツクールWeb http://www.enterbrain.co.jp/tkool/
 で作った同人ソフトのおもむき。
 
・で、あるものの、一つ大きな魅力を持った作品でした。
 魅力的なキャラクター、世界観。
 以下の「人形姫」ストーリーは思わず絶句の展開。

 冒頭ストーリー http://www.nippon1.co.jp/contents/game/marl1/story.html

 いまどきこれは、お子様向けの絵本でもなかろうかという直球ストレート。
 しかも照れずにこのノリを貫き、さらに続編まで作ってしまいます。

・システムはシンプルながらもストレスがないよう、考えられたつくり。
 これはもうこの世界に浸るためだけに、ファンはついて行くしかありません。


日本一ソフトウェアは年に1作以上の早いペースでソフトを出し続けます。
 グラフィック、プログラム技術とも決して高いレベルにあるとは思えませんが
 力をかけるべきところを間違えない。
 システムエンジンは使い回し、バージョンアップの繰り返しで
 直球のノリノリのストーリー、キャラクターで一定レベルの作品に仕上げる。
 

・そうしてできあがったのが、この「ディスガイア」。
 前作「ラ・ピュセル」からRPG的要素を省略し 
 ストーリーの魅力を多少削ってでも
 SRPGのキャラクター成長の楽しさに特化。
 ただひたすらに、強くなることだけが目的のゲーム。
 従来の「マール王国」シリーズの発展系であり、新機軸。
 これが成功しました。
 
電撃プレイステーションhttp://www.mediaworks.co.jp/magazine/game/ps1.php)系の
 作品として認知。
 「東京魔人学園」や「ガンパレードマーチ」「サモンナイト」等とならび、
 「ラ・ビュセル」「ディスガイア」は大きな扱いを受けて(もちろんメーカーの広告戦略によるものですが)
 マニア層に認知されたわけです。
 
・今年1月22日発売の「ファントム・ブレイブ」、
 8月5日発売予定の「流行り神」も、大きな注目を受けている次第。
 一般的にはまだまだ無名ですが
 会社規模からすれば大成功しているといえるでしょう。
 


・さて本作の内容。
 ジャンルは「「史上最凶の」やり込みシミュレーションRPG」。
 さまざまなやりこみ要素があるSRPG。
 

・やり込み要素とはなんでしょうか。
 とにかく長い時間楽しめること。
 最近のゲームには、この「お買い得感」が強く求められているようです。
 様々なゲームの広告、製品パッケージ裏の売り文句をみれば
 多くが「やりこみ要素満点」であることを強調しています。

・3月に発売された「ドラゴンクエスト5」。
 SFC版になかったやり込み要素として
 「名産品博物館」というものが加えられています。
 各地の名産品を様々な方法で集めて回るというもの。
 
・ご褒美はありません。
 「小さなメダル」はまだ希少アイテムが得られる利点があるのですが。


・やりこみ要素すなわち、クリアに関係ないおまけ要素なのか。
 ゲーム一般的にはそのような意味。
 ゲームを終えてもまだ楽しみたい人へのサービスといえます。



・戦術(タクティック、タクティクス tactics)、
 戦略(ストラテジー strategy)の違い、ご存知でしょうか。
 いわゆる軍事用語。そちら方面の方々に語っていただければ、
 おそらく、いくらでも語り明かしてくれるであろう魅力的な単語です。

・戦術は「個々の具体的な戦闘における戦闘力の使用法。
     普通、長期・広範の展望をもつ戦略の下位に属する。」
 戦略は「長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法。
     戦略の具体的遂行である戦術とは区別される。」(いずれも大辞林より)
 と説明されています。


・ゲームでいうと「タクティクスオウガ」が戦術。「伝説のオウガバトル」が戦略。
 
 なのでしょうか。


システムソフト・アルファーhttp://www.ss-alpha.co.jp/)のSLG、
 「大戦略」という有名な戦争シミュレーションゲームシリーズがあります。
 名前からして「戦略」なゲームであろうと想像されます。
 ところが、
 「「大戦略」は戦略がない。あれは「大戦術」だ。」
 といわれることがあります。

大戦略は作品ごとにシステムが細かく違う面もあり
 さて、正確なところはわかりません。
 
・ゲーム的には辞書の意味から考えると
 RPGならば
 戦闘シーンが戦術。戦闘のための準備が戦略。
 といえるでしょう。
 SRPGも同様でしょう。

 
・前回ご紹介した
 「ファイアーエムブレム」「タクティクスオウガ」で考えて見ましょう。
 
・「エムブレム」は戦闘シーンと、つなぎのイベントシーンで構成されています。
 イベントシーンは操作不可。
 プレーヤーが操作できるのは戦闘マップ上だけです。
 
・「タクティクス」は戦闘シーンと移動シーンが明確に分かれています。
 ワールドマップ上のポイントをめぐり、街で買い物をして装備を整えたり
 仲間を集めたり、トレーニング(経験値稼ぎの自由戦闘)ができます。
 戦闘シーンはその名の通り戦術的。
 プレイヤー側と同等の戦力をもった敵との戦い。
 戦術に優れた方が勝つ。
 移動シーンは戦略的。
 敵戦力と五分に渡り合えるまで戦力を向上させることができる。
 まさに戦術のための戦略です。

・では、「エムブレム」のほうがタクティクスなのか。
 「エムブレム」では経験値稼ぎのできる場所が限定されています。
 最期のエンディングまで勝ち抜けるよう、
 長い目で見て、プレイヤー側メンバーを戦略的に成長させていかなければなりません。
 
・目の前の敵に犠牲を出さずに勝つ、のが「タクティクスオウガ」であるのに対し
 この戦いだけでなく、次の戦い、果てしなく続く戦いの終わりまで見据える「エムブレム」。
 

・SRPGにおいて戦術、戦略はこのようにゲームシステムの根幹をなしています。
 タクティクでストラテジカルなSRPG。どちらの要素も大切です。
 


・さて「ディスガイア」はどうでしょうか。
 この点、とても特徴的。
 「ディスガイア」はとても戦略的なゲームなのです。まるでRPGのように。

・本作の「やり込み」要素はすべてキャラクターの強さ、という点に注がれています。
 時間を掛けるほどに
 当初の何千倍×何百倍+何千倍もの強さに成長させていくことができます。
 
・その仕組みはどうなっているか。
 
・前回のように書いてみたいところですが、ネタバレなのでやめましょう。



・なぜ「オウガ」「エムブレム」は書いたのに「ディスガイア」はネタバレなのか。
 そこがこのゲームの核心です。



・ところで本作、職業種類、アビリティなどを考えると、
 決して、ボリュームのある、多様な要素がつめこまれたゲームではありません。
 例えば「ファイナルファンタジータクティクス」と比べてどうでしょう。
 
・アイテム、魔法、特技などひとつひとつの要素をみていくと
 量こそ多いものの、種類のバリエーションはどうでしょうか。
 戦闘マップも狭い上にワンパターン。
 高低さを生かした戦術的なバトルが実現されているでしょうか。
 

・シンプルに実現可能な範囲で面白い点だけを抽出したシステム。
 それが日本一ソフトウェアの取った製作方法だったのです。
 

・例えば、
 レベル、能力上昇量を非常に大きく取ることで
 力押しになっている戦闘に、質ではなく「量の違い」を感じさせる。
 マップの狭さ、バリエーションのなさを
 投げるという要素で短時間区切りにし、短時間で量をこなせるようにする。


・戦力的彼我の差が拮抗した状態が
 戦術ゲームにとって最良であることは
 将棋などを見れば明らか。
 しかしSRPGではコンピューターの思考速度、強さというバランス問題以上に
 プレイヤーキャラクターが成長してしまうことが問題です。


・「エムブレム」は経験値入手を限定することでバランスを取り
 「オウガ」はレベル差がダメージ値に大きく影響することで
 同レベル同士の対戦となるよう縛りをいれていました。
 多大な手間と経験によって
 プレイヤーが戦術的手ごたえを感じさせる戦闘バランスを作り上げています。
 まさに名作。

・しかし完璧なものなどありません。
 「オウガ」はトレーニングでパーティアタックを繰り返すむなしさがありました。
 「エムブレム」はストーリーにそぐわない経験値稼ぎ。


・「ディスガイア」はバランス調整を、戦力差で作っています。
 ひとつステージが進むと、敵は一気に強くなる。
 こちらもそれ以上に強くならなければならない。
 そこで短時間クリアできるステージが生きてきます。

・マップが狭く、ステージクリアが容易。
 戦闘不能のデメリットも少ないため
 回復系のキャラを出すより攻撃系のキャラクターで
 より早く戦闘を終わらせるほうが良い、というバランス。


・戦術的ではありません。
 戦略的要素、キャラクターを育て上げる楽しさに特化したシステム。
 
・そしてストレス、作業性を感じさせないような細かい工夫の積み重ね。
 仕上げに、持ち味のお話は照れなく直球で。
 それが「魔界戦記ディスガイア」です。
 


・「ディスガイア」は「エムブレム」「オウガ」に続く新しいSRPGの形を
 垣間見させてくれる作品。
 それは、経験を稼ぐ作業が面白くなるよう工夫されている、ということ。
 
・戦略的SRPG「魔界戦記ディスガイア」は
 そこが新しいのです。