著者;ゾルゲ市蔵 9月発行 ¥1029 ISBN:4896371747
発行:マイクロマガジン社 http://www.microgroup.co.jp/book/GAM000008.php
・「どろろ」はともかく「サクラ大戦V−0」、
まして「バーチャファイター サイバージェネレーション」はどうなのか。
微妙なソフトばかりの最近のセガ。
・けれどよくよく考えてみれば
一部の名作と多くの微妙な作品に囲まれているのは
今に始まったことではないのかもしれません。
アーケードでもトップブランドであるものの、すべてが傑作というわけではない。
ハードメーカーとして、とにかく得意でない分野でも全方位作り続け、
それゆえに質のばらつきが当然生まれてきたということでしょうか。
・今回ご紹介するは「謎のゲーム魔境」第4巻。
著者、ゾルゲ市蔵さんは、’94年のAC「ドラゴンボールZ V.R.V.S」、
’01年DCのセガの自己パロディSLG「セガガガ」、
昨年発売、トレジャーの底力を感じさせる傑作アクション「鉄腕アトム アトムハートの秘密」
などで知られる、セガ旧AM3研・ヒットメーカーの岡野哲さん。
とは何も関係ない、ごく親しい友人。
……えーと、「スパイゾルゲ」はわりと面白かったです。
あそこでスターリンが防備を固めていれば
「大戦略」ドイツ系作品が生まれなかったかと思うと感慨深い。
何を言っているやら。
ゾルゲさんのサイト「東洋パフォメット評議会」 http://www.yk.rim.or.jp/~okano/
・1はファミコン以前のクラシックゲーム機、
2はアタリ特集、3はMSX特集ときて、
「謎のゲーム魔境4」で扱うのは、
データーイーストコーポレーション、通称「デコ」。
おまけでビック東海。
・デコは昨年6月に倒産。いまはもう存在しないゲームメーカー。
「神宮寺三郎」シリーズや「マジカルドロップ」シリーズ、「スタンプ倶楽部」。
古いところでは「メタルマックス」、「ヘラクレスの栄光」の両RPG。
ビリヤードゲームの「サイドポケット」、STG「B−WINGS」、
ナムコからでていた「バーガータイム」あたりが懐かしいところ。
地味ながらなかなかの粒ぞろい、とまとめたいところですが
ここまでは一般にも認められたおもて面。
・太った謎のちょびひげおやじが主人公の「カルノフ」、
題材からして危険すぎる「チェルノブ」、
「トリオTHEパンチ」、ならず者戦闘部隊「ブラッディウルフ」、
他にも「ミッドナイトレジスタンス」「サイレントデバッガーズ」「エドワードランディー」
などなど、マニアにはたまらない、奇怪なゲームをつくらせたらデコに勝るものなし、
なメーカーでもあるのです。
キャッチコピーは「ヘンなゲームならまかせとけ!」。
・この本ではそうした裏の、「変なゲーム」に特にページをさいて
その溢れる魅力を熱く語っています。
当時の開発者、関係者にもインタビューし、その熱気を伝えてきます。
・デコは変なメーカーでした。
市場のニーズ、求められている「良くできた」ゲームではなく、
そして凡百の「普通のゲーム」ではなく、変わったゲームを作り続ける。
もちろんそれが売れると思って製作していたのでしょうし、
実際、ジャレコの水槽のように椎茸を売ったり、マイナスイオン発生器を作ったりしながらも
ファミコン以前の’77年というごく初期から
実に去年までゲームメーカーとして存続してきたのです。
・変なゲームがオリジナリティだったのか、まともなゲームを作るのが苦手だったのか。
どちらの面でもしっかりとした作品を作っているデコ。
その真意はどこにあったのか、そもそも企業とはそういうものなのか、
今となってはわかりません。
・ただ、デコはなくなっても、その製作したゲームは今も遊ぶことができます。
デコというメーカーは見ていて面白く、そこで作っていた人たちも楽しそうで
そして今遊んでも楽しめるゲームを何本も残しています。
・デコの知られざる一面として、ピンボールについても書かれています。
ファミ通で連載されていたマンガ、鈴木みそさんの「あんたっちゃぶる」(ISBN:4756106773)
1巻で紹介されていた「踊るピンボーラー」、覚えているでしょうか。
元データーイースト、ピンボール販売促進担当の堀口昌哉さんがその人。
堀口さんへのインタビューで語られる内容は驚くべきもの。
現在本格的ピンボール台を製作しているのは、データーイーストピンボールのあとをついだ
スターンピンボール社のみ。
(参照;ゲームマシン’99年11月号 http://www.ampress.co.jp/backnumber/bn1999.11.15.htm)
データーイーストは既に無くなってしまった世界3大メーカーにつぐ第4のメーカーだった、
というもの。驚きです。
・ピンボール自体、とてもマイナーです。みたこともない人がほとんどでしょう。
しかし、実はテレビゲームでは意外に多数のピンボールゲームが出ています。
例えば「ポケモンピンボール」「カービィのピンボール」「ソニックピンボール」、
ごく最近では「スーパーマリオボール」など。(公式サイト;http://www.nintendo.co.jp/n08/bmvj/index.html)
・また「ラストグラディエーターズ」「ネクロノミコン」「AKIRAサイコボール」などの
ピンボールゲームを出し続けるKaze(http://kazenet.com/kaze/)というメーカーもあります。
ゲームメーカー、特に任天堂には熱心なピンボールファンがいると思われます。
・私もサターンの「ラストグラディエーターズ」、持っているのですが
いまひとつその面白さがよくわかりません。
ゲームセンターでプレイしてこそ、のものなのでしょうか。
・堀口さんの活動ぶり、熱意はすごいものでピンボールへの強い愛情が感じられます。
思わず引き込まれます。この一文だけでもなかなかのもの。
関連リンク;Tokyo Pinball Organization http://www1.vc-net.ne.jp/~tpo/
ピンボールギャラリー http://plaza2.mbn.or.jp/~pinball/
針球競技法 開眼之巻 http://plaza2.mbn.or.jp/~pinball/flipper/basic/playtips/shin.htm
・ついでにビック東海にもふれましょう。
ビック東海は静岡のガス会社、東海ガスの関連企業。
現在はプロバイダー事業も手がけていて、書いている人の実家もお世話になっていたりします。
(どうでもいいです)
TOKAIグループ http://tokai.jp/、ビック東海 http://www.victokai.co.jp/
現在、ビック東海のサイトにはテレビゲームについての記述はまったくありません。
触れられたくない黒歴史なのでしょうか。
・代表作は「新世紀オデッセリア」(SFC)。ビック東海らしからぬ良くできたRPG。
らしからぬ、とあるように基本的には褒められたメーカーではありません。
「アイギーナの予言」ではかなり私の心にトラウマを残してくれました。
「カケフ君のジャンプ天国」、テーマソングが有名な「ゴルゴ13 第一章 神々の黄昏」、
このあたりをみるに、いかに適当なメーカーかが窺えるところ。
・しかし、ごく一部、いわゆるセガマニア、メガドライバーとよばれる方面に
絶大な人気を誇るソフト、
「バトルマニア」、続編「バトルマニア大吟醸」を出したメーカーでもあります。
両作ともメガドライブのソフトでプレミア価格。
その人気の秘密はオープニングデモのスーパーファミコンを踏みつけるシーンにある、
のはたしかですが、ゲーム自体も普通に良くできています。
上の「ゴルゴ」の歌や、MD「ああ播磨灘」の播磨体操第一などで喜べるマニアには
たまらないソフトなのでしょう。
・「バトルマニア」製作者インタビューや
幻のDC版「バトルマニアN.Y.岩窟女王」、また「らしい」たいとるですが
その企画書も掲載されており、
実は「バトルマニア」を引っ張り出してしばらく遊んでしまった私。
元セガマニア的にもたまらない内容、ではあるようです。
・ゾルゲさんは「ユーゲー」に連載しているマンガ「超ゲーム少女ユーゲ」、
あるいは「セガガガ」などでも暗にひとつの問いかけをしています。
以下、AC「ザ・グレイトラグタイムショー」の項から引用します。
(前略)
このゲームが提示した問題は、当時も今も、決して他人事ではなかったからです。
たった一度だけみたエンディング。モノクロのホログラムをバックに演説するラスボスは、
「古きよき時代」の終焉、科学のもたらす未来に、
ただ美しい夢だけを見ることができた時代の終焉に殉じようとする悲しい男でした。
そこにビデオゲームの終焉を、そして、滅びの運命にあったデコの運命を重ねて見るのは筆者だけではないでしょう。
(中略)
この「ザ・グレートラグダイムショー」が巻き起こした感嘆と失笑の渦を、筆者はいまだに鮮明に覚えております。
筆者をはじめゲーム屋連中の皆が、腹を抱えて大笑いしました。
「すげえ!最高だよ!でもこんなの売れるわけないよ!」
しかしその笑いのどこかには、一抹の寂しさ、空しさがあったように思うのです。なぜ売れないんだろう?
このゲームを笑うオレたちは、これからどうしたらいいんだろう?
その結論はいまだに出ていません。
あとに残されたものは、もはや企業の一員になり果てたゲーム屋と、古きよき時代、ラグタイムの思い出だけ。
(後略)
・セガという会社もまた、デコと同じように良いゲームをたくさんつくり、
マニアに愛され、しかし、結局マイナーに留まるままに来ています。
・なぜデーターイーストのゲームは愛されていたのか。
「セガマニア」という熱心なファンはセガのどこを愛していたのか。
・任天堂のように安心感がなく、ソニーのように商売がうまいわけでもない。
コナミや、そしてエレクトロニック・アーツのような
世界一のソフトメーカーへの道は果てしなく遠い。
・駄目な会社だからこそ応援してあげなければならない。
いつか素晴らしいゲームを作ってくれるはずだ。
セガはACを中心に何度もその声に応えてきたし、今も新しいソフトを生み出しています。
・けれど昔のようにマニアが応えてくれないのは
メーカーが新しい可能性を生み出せていないからか、
それともマニアユーザーの懐古志向からか。
作る側が懐古主義に陥っているからか。
・ゲームは嗜好品であり、面白くなければならない。
かっての業界の王者であった任天堂も、GCは不調であり
「異質の商品」ニンテンドーDSなどで、新しいゲームの面白さを模索しています。
・ゲームの面白さとは何か。
しかし、私は製作者でなくユーザーであり
面白いゲームを探し、そしてそれを楽しむひと。
素晴らしいゲームを賞賛し、またそのメーカーの次の作品を買うことしか出来ないのです。
メーカーはその期待に果てしなく応え続けなければ
やがてゲームはデコのゲームを懐かしんで楽しむだけで満足するひとたちだけのものになり
ピンボールのように消えていくでしょう。
・それともこうして書くことで、ゲームの面白さに一片でも寄与できるのでしょうか。
・古きよき時代。「バトルマニア」は確かに面白いけれど
今日買った新作ゲームにも同じように面白さを求めるのです。
デコも、そして昔のセガも、そして産業、企業となったゲームでも、
ゲーム屋の後ろには同じ、ゲームを楽しむひとがいたのではないでしょうか。