・「ドラクエ」のシナリオの価値はどのようなものでしょうか。
・王道と称される通り、その物語は基本的に勧善懲悪至極真当です。
世界を征服しようとする魔王を退治するのが目的。
仲間を集め、世界を巡ってその神秘を解き、力をあわせて魔のものを征伐する。
・ゲーム機の進化に合わせ、その物語は代を追うごとに長く、複雑になりますが
「1」から「5」まで、評価の低い「6」「7」、そして「8」を比べて
その基本設定、ストーリーラインにおいて
明らかにどれが外れている、劣っている、
といえるものはありません。
・では「6」や「7」のどこが悪かったのか。
・例えば最期のボスの名前。
「1」から「4」まではすぐに出てきますけれども
「5」から「8」は印象が薄い。
最終目標である敵の名前、ひいてはその存在感が薄いのは
そのお話の構成のどこかに誤りがあるからでしょう。
つまり、なぜボスを倒さなければならないのか、の理由が説明不足。
・「1」から「3」までは単純な勧善懲悪、魔王成敗で良かった。
姫をさらった悪いやつ、兄弟国を滅ぼした悪い連中、
大陸一の勇者である父の遺志をついでの倒すべき敵。
・けれどゲーム機の能力向上により世界の表現力が上がって
リアルになることで
単純なおはなしでは許されなくなったのがそのひとつ。
PS版「4」のクリア後のおまけシナリオにおける賛否両論はその例です。
・また、真当単純な話ばかりにも限界がある。
「1」から「3」は単純ながらも伝説の勇者を軸にきれいにまとまった。
「4」は話を5つに分けることで新しい演出もできた。
では「5」ではどうするか。
よし、今度は「1」から「3」を1作のなかで表現しよう。
・「6」「7」になるとますます苦しい。
「3」の3部作というやりかたは「5」で使ってしまったからできないし
「4」のやりかたは2度はできない。
話はますます長くなければならないし、世界はますます広くなければならない。
・そこで「6」は2重構造にして複雑にし
「7」はひとつを細切れにして語りやすくした。
複雑だからわかりづらく、細切れだから印象が薄い。
・堀井雄二さんの作家として力量は
「7」の個々のシナリオを見る限り
間違いなくゲームシナリオ作家として、もっとも優秀です。
・世界構造に頼ることなく、無駄に凝った世界設定に堕することなく
変わらない世界、変わらないキャラクターたちを使って
あれだけの多様な物語を演出できる。
・何より、RPGにおいて物語の持つ意味への理解。
自分の好き勝手に動いて言うことを聞かない最悪の役者であるプレイヤーを
いかに演出の工夫で、それを劇と感じさせずに上手くだまし
役者として、そして観客として、両面から観てそれを気付かせないか。
・その手腕、ひとつひとつのセリフ、ト書き(セリフの間の説明文)への心配りは
他の追随を許しません。
・けれど「7」において
最上のゲームシナリオライターをもってしても
膨れ上がるゲームの規模をシナリオ構成で御しきれなくなった。
・けれどまた最上のゲームデザイナーでもあった彼は
全体を俯瞰すれば長く冗長とも言えるシナリオを
読み通させることを厭わせないほどの優れたバランス構成をもまた、
作りだすことができた。
・平均プレイ時間80から100時間。
その間、常に戦闘と成長の繰り返しを単調と感じさせない、
物語構成、ならぬゲームバランス。
だからこそ「ドラクエ」が最高のRPGブランドであるためには
そのシナリオ構造に欠陥を抱えていても
堀井雄二の手によって作られなければ
「ドラクエ」とはいえないと感じさせるのです。
・では「8」はどうか。
「8」の展開を過去の例に求めるならば、「4」の第5章が近いでしょう。
序盤で仲間が集まり、船を手に入れて大きく広がる世界。
その後の展開も良く似ています。仲間たちの背景が説明不足であることも。
・つまり今作は、複雑化にリセットをかけて過去の単純な物語に戻した構成。
けれど最期の敵の目的は何であったのか。
その印象はやはり弱いものではなかったか。
・前回の「ゲーム批評」卯月鮎さんのレビューではそのシナリオの弱さに
より設定を凝るか、
さもなくばマンガのようにエンターテイメントを高めるかすべき、
と指摘していました。
・なるほど、「8」の世界は従来の「ドラクエ」世界とのつながりも少なく
背景世界設定が不明瞭であることが、シナリオへの没入をさまたげています。
「1」は中世ヨーロッパ調、指輪物語と島ものの世界感。
「2」はそれを継ぎ、「3」がそれをまとめる。
「4」はそれまでをベースに新しく神話、伝説を創造し
「5」がそれを継ぐ。
「6」は「8」と同じくやや不明瞭。「3」ほどうまくいきません。
「7」はその長さを用いて単体で一通り説明。
・また「8」は従来と見える景色が違ってしまったことも
そう感じさせる原因といえるでしょう。
クラシックな従来の世界でなく、近代的、大衆的、そしてマンガ的、
鳥山明さんの描く世界にすりかわってしまった違和感。
その不安定感が上記のレビューにつながります。
・単純に構成することを選択した「8」のシナリオにおいて
堀井雄二さんが目指したのはどのようなものだったのか。
それは残念ながら結果として、
「7」のような個別の輝きもなく
「4」や「5」のような全体のつながりもないものだった。
・それは新しく3D表現によって変わってしまった
従来世界観との不連続性ゆえなのか、
それともこれが
量の膨張を要求される制約、リアルな表現が必然となる枷、
そのなかでの「ドラゴンクエスト」物語の限界なのか。
・他のRPGと比べたとき、「ドラクエ」が称えられてきたのは
その作りこまれたゲームバランスと、
そして堀井雄二さんの王道の物語であったのかどうか。
近作を見るにその疑念を抱かざるをえません。
・しかし、
かつて「ドラゴンクエストⅢ」という伝説を生み出した「ドラクエ」は
そうではなかった。
・RPGの王道を征く。
その道は個人の力で切り開くにはもはや厳しいものなのかもしれませんが
「ドラクエ」に望むものは、望まれているのはそれなのです。