『Ever17』ネタバレなし。

 公式サイト http://www.kid-game.co.jp/kid/game/game_galkid/infinity/index/index.html
 ASIN:B0002YC55C

・涼しくなってきました。学校も始まりました。
 夏休みの課題。読書感想文。
 ゲーマー変換すると「ノベルゲームを読んで感想を書こう」。

・中古DCワゴンに\500で売っていたので買ってみた次第。
 下手な小説より安くて読むのに20時間はかかる。
 充分。\500分以上何倍もに楽しめました。


・「ノベルゲームはゲームか」問題は以前『ひぐらし』で書きましたので省略。
 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050113#p2
 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050119

・ゲーム感想文というより読書感想文にしようかと思うところですが書ではないし。
 デジタルデータで小説を「読む」のは「読書」と言えるのか問題。
 どうでもよいですな。読んで遊んで楽しめればそれで良いのです。



・この『エバー セブンティーン』、有名なのは最期の大どんでん返し(by「新・巨人の星」だぜ)。
 ミステリー調に各シナリオで残った謎が最後の最後ひとつに収束するしくみ。
 これがきれい見事にきまっていると評判。


・このネタが、なるほど、割ったらばまずい内容であります。
 良くできています。例えば『マ』とか『パ』の付くゲームエンディングとか、
 クリスティでいえば「、
 と思わず例を挙げたくなるほど、ゲームならではの視点を活かした見事なネタ。
 ハンニンハヤスとか気軽に書けない。

・ただ、誰かが1度使ったならば、定番となって
 2度と使えないか2番煎じか、そういうジャンル作品と呼ばれざるを得ない種のもので
 続編はさぞかし難しかろうと思います。微妙に評判が悪いのもそれゆえなのでしょうか。

・また、ネタのトリック構成はお世辞にも良いとはいえません。
 無理ありすぎ。系統としては『イブ バーストエラー』(ASIN:B00008WD6E)。
 ミステリーかSFか。アシモフを1通り読むのをお勧めしたくなります。


・文章はかなり丁寧に書かれていて引っかかるところは少ない。良い出来です。

・ノベルゲームは、見た目や涙々の感動ストーリー以前に
 まず読み終えさせるために最低限の文章がなければ途中で投げられます。
 大多数私もそれで挫折します。

・興味ないこと書かれているのを読み下すのは実に難儀。
 マンガならまず絵。絵が下手で見難ければ読んでもらえない。
 文章で表現するなら、正確に伝えるとか感情を揺さぶる前に、まず読めなければならない。
 法律書哲学書やお役所の文章とは違い、読んでもらわなければ話にならない。

・読みやすい文章であるかどうかという取っ掛かりに難がある作品の多い中、
 20時間眠気につまづかず読み通すことができたという意味で、良い文章だと思います。



・ということで、さすが絶賛されているだけのことはあり、とても良い作品でした。
 読んだ価値はありました。

・なんといっても、ゲームならではの視点の置き方。
 こここそがこのゲームの今までにない新しく素晴らしいところ。

・けれどそれをネタバレなしで表すのはまことに難しい。
 バラして全体構造に解説する方が簡単すっきりきますのですが
 このサイトは「ネタバレなし」が基本。
 なので以下、あえて「ネタバレなし」で、つらつらそれについて書いてみます。







・『Ever17』、ジャンルはAVG。そのジャンル名に関わるのかどうか存じませんが
 この手には、画面全体に文字が出るか、画面下に3〜4行出るか、その2種があるようです。
 前者がAVG、後者がノベルゲームと呼ばれている模様。
 この違いは何か。なぜ違うものが並立するのか。
 そこから見てみます。



AVGやノベルゲームの見た目に分る特徴は、絵と音がつくこと。
 細かくは、キャラクターが画面に表示されて
 タバコに火をつけたり「フク ヌゲ」とかしたりするところ。
 BGMが流れて効果音がついて雰囲気を盛り上げます。最近はセリフも音声付き。

・眺めている分には演劇を観劇するのよう。
 ひとつところに舞台が用意され、右から左へ左から右へ、
 上から下へと繰り広げられる人生絵巻。
 文字で、ことばで描かれる物語。

・けれど、観客席に座っていながら
 なぜか、次に進むタイミングの制御権を持っている状態。
 つまりDVDを借りてきてリモコンを構えながら見ているに同じ。


・演劇と違うのは字幕が出てくるところです。
 ノベルゲームは字幕どころか台本、いや登場人物が心の内に考えていること、
 演劇では独白として処理されるものも書かれている。

・逆に言えば、ノベルゲームが演劇よりも小説寄りとするならば
 AVGは戯曲を読むのに近いです。


・戯曲は小説と違い、舞台設定と台詞だけが書かれたもの。
 戯曲が小説、ゲームに違うのは、演出が読み取り手の自由にあること。

・小説は著者が演出します。人物の心象、情景、世界の森羅万象を描いて
 真実と呼びたくなるものを浮かび挙げる技術が小説作法。
 対し戯曲は、それを劇にするなら演出家次第。戯曲のままなら読み手次第に
 自由に解釈が許される仕組みです。
 シェイクスピアの意図はいざ知らず、同じ作品が喜劇にも悲劇にも成り得るもの。

・音楽の楽譜と同じです。正確忠実に弾くだけなら機械で充分。
 心震わせる旋律は、読み手聞き手の解釈次第であるのです。


・ノベルゲームは、文字が主体で絵付き音つき声付き演出つき。
 見た目映画か演劇。
 しかし、観てく味わう過程は行きつ戻りつ小説のように自由である。
 立ち止まって咀嚼して先を思い描く楽しみも持てる。
 けれど観劇速度制御権が演出のため奪われることもある。

・マイム演劇字幕付きリモコン付き。
 選択肢とそれに関わる「ゲーム性」問題を脇にのけて
 「ノベルゲーム」の仕組みを既存のもので表すならば、こう言えるでしょう。


AVGの表示文字数。その違いは
 文章が、主体となって物語を語るのか、舞台の台本の役を果たすのかの違い。
 大きな違いがあります。

・3行で一区切りでは長尺台詞不可。何より小説のように情景描写ができない。
 その世界を文字で描くのか、それとも背景の一枚の絵と、登場人物の台詞で描くのか。
 それはまさに小説に対する演劇、そして映画との違いです。

・彼は彼女についてこう思っている。
 そう小説で文章に書いたならば、嘘では成り立たない。
 直截に書かずにいかに読者に誤読させず誤解させるか。曖昧を文学技術で修飾するか。
 けれど劇では、この台詞を表す第三者が存在しない。
 ナレーションも舞台装置であって地の文を演出はしない。
 映画であれば、映像で全てを演ずることができる。
 狭い舞台、限られた観客の想像の枠から離れて、画で音で演出できる。


・小説を表示して絵と音で盛り上げるのと
 3行表示の台本と、絵と音と台詞が作り上げるもの。
 2つはやり方が違うものです。

・ギャルゲー、つまりキャラクターを主体としたゲームは
 画面に広く絵が出るからという見た目によるのでなく
 文字が主体でなくキャラクターの演技が主体であるという演出のために
 AVG方式、画面下部に文章を表示する形式を採っている。といえるでしょう。
 たぶん。
 たぶんそこまで考えていない。
 もともとそうだったからそうしてるだけ、
 というようなことはなかろうかと。思いたいですけれど。
 (関連;ギャルゲー周辺に関するまとめメモ http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050516



・また、先の、読みやすさの問題も
 そこを意識している如何によって変わってきます。
 画面全体に文字を表示するのか、それとも数行なのか、
 小説なのか台本なのか。
 その違いで、文章も当然違ってこなければならないもの。

・演出の仕方が違うのだから文章表現も異ならなければならない。
 まして3行しか表示されず、キャラクター演技で表現される形式であれば
 まったく異なる書き方をしなければ、まるで読めるものではない。

・という当たり前のことすらできていないゲームが不思議なことに存在するのは
 やはりゲームが個人製作芸術作品ではなく、大量生産工業製品であるからでしょうか。




閑話休題るろうに剣心


・『Ever17』の特徴は、画面下部に書かれていく文章を誰が書いているかという点です。
 

・もちろん遊び手です。
 コントローラーの送りボタンを押すたびに出てくる文章は
 それを読んでいる人が感じることに同じくなるよう演出されて、書かれている。


・けれど多くの作品がそうであるように
 かならずしも全編が同じ人物の目から見たものではない。
 そのころ別の場所ではこのようなことが起きていた。
 話の世界に広がり奥行きを与えるための視点転換は、殆どの作品で使われます。
 

・逆に、あえてひとり主人公の視点だけ、主人公が知らないことはプレイヤーも
 まったく知ることができない、というやりかたを採るものもある。
 それは作品への没入感を高め、広く全体を見渡せない視点に立たせるしかた。
 ファンタジーやミステリー、世界の謎が鍵となる作品では効果的に働くやりかたです。



・さてゲームの場合どうか。
 小説や映画、ノベルゲーム、AVGにみてみて、遊び手の視点は
 どこにあるように操られ演出されているか。
 ゲームの非ゲームに違う点は、選択肢があることです。
 小説とゲームの違い、映画とゲームの違い、レンタルDVDとゲームの違い、
 選択肢だけがその違い。



・『Ever17』の特徴、視点の新しい置き方は、小説にあるいは映画にできるかどうか。
 同じようにはできないでしょう。
 選択肢があって、それを能動的に選ぶ、誰の視点で物語を見ていくかを自ら選択する、
 その選択行為こそが、小説でも映画でも果たせない
 ゲーム独自、『Ever17』独自の価値を持つものです。