簡潔国取りSLG『大悪司』

 以下18禁に付き注意 ASIN:B000065D2Q


・『大悪司』(だいあくじ)はとても面白い。実に面白い。
 SLGのなかで一番に好きな作品です。
 これで18禁でなければひとに薦めて回るのですけれど。ここで書いていれば同じことか。


コーエーの『信長』『三国志』のような歴史シミュレーション、
 一国一城の主となり、内政を繰り返して国力を高め、軍事と外交で天下を統一する、
 というおじさまガタガタが好きなゲームがございます。
 悔しいですがこの歴史SLG、面白いです。
 ゲームとして実に良くできている。

・部下の武将は様々な能力や技能を持っており、それを適宜適した配置に付け
 金勘定、富国強兵国力増強、地道にけれど、確実に成果が上がる国力育成SLG
 戦端を開いては史実の通り、細かな戦術戦法関係なく強い者が圧倒的に勝つ。
 人間五十年夢幻の泡沫を、何百何千無数の人々がかつて実際生きて繰り広げた
 一大歴史絵巻に自らを書き込み、自由自在に塗り替えられる全知全能の楽しさよ。



・ゲームは現実よりも面白くなければならない。
 『無双』シリーズを引くまでもなく、現実の細かで面倒なあれこれを差し置いて
 圧倒的に自分が強いことが、それを単純に実現するにもっとも適した仕方です。
 例えばSTG。例えばアクションゲーム。例えばRPG
 プレイヤーは、私は、伝説の勇者であり救国の英雄であり世界最強の戦闘機乗りである。

・逆に、例えば対戦格闘は違います。
 誰もが同じであるほうが正しい。クイズゲームボードゲームもオンラインゲームも
 複数人で、ひととひととが協力共闘あるいは競い合うゲームであるならば
 そのルールは平等条件でなければならない。

・その逆、計算機と競うゲーム、そこに映し出された世界を楽しむゲームであれば
 それは現実のように競争相手はいないのだから
 遊び手の思うがままに、自由自在に作り上げられる世界である方が正しいのです。


STG、アクション、RPGの様式に対しSLGが難しいのは
 それが現実のシミュレート、模擬であり
 であるからには現実同様自分以外が在らなければならないという点。
 遊び手は一人しかいないのに平等条件から競い合う対戦相手がいなければならない。

・計算機では人間の代わりにまだ、なりません。
 ではどうするか。どのように賢いニンゲン様のお相手を勤めさせていただくか。
 その方法、現実をいかに計算機で再現するかの工夫こそが
 SLGにおいてもっとも難しく、様々な仕方が採られて、だからこそ面白いところです。
 (関連;http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050424
     http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050707


・前出のコーエー『信長』『三国志』では、ゲームのルールをそうあるように定めています。
 戦いは頭を使う戦術比べでなく、育成結果の数値高と駒の能力によること。
 国力育成は駒の能力と初期国力と賽の目の累積であること。

・カードゲーム、ギャザリングや『カルドセプト』、
 あるいはボードゲームモノポリーや『いただきストリート』等と比べると解りやすい。
 戦争SLGであることだけならまだ簡単です。
 前回挙げたように『ゲームボーイウォーズ』やSRPGのような回答がある。
 その後ろに国を経営する要素、育成SLGを控えさせると
 その結果が直接反映され過ぎるのは、戦術競争を平等にしようがない。

・育成SLGを競争結果に反映させるのは実に難しいです。
 例えば『プリンセスメーカー』。様々なパラメーターで表現された娘を育成する。
 その数値調整はそれなりに面白いのですが、それを評価する仕組みに手ごたえがない。
 『シムシティ』。評価基準は人口総数。
 『ダービースタリオン』。評価物差は個々の馬能力。

・そう、SLGの育成という過程が表現しようとするものは、ニンゲンの個性です。
 それを競わせる場に出すならば、個々のユニット、駒としての能力というありかたが
 実に適している。


・『信長』『三国志』は実に初期からそれを実現させていました。
 国力は見かけの数値だけでなく、有する駒の能力の高低に決まる。
 それは育成SLGの結果評価の場である競争要素に
 計算機の可とする深奥な戦術を覆って、賽の目の偶然以上の必然性を持たせる要素となる。
 見た目もわかりやすく、時代小説に大河ドラマに夢見る「現実」に則して良く
 また、その「現実」を知っているのがプレイヤーだけであり、圧倒的な勝利も約束する。
 良くできています。

・ただしコーエーは解ってはいなかったということでしょう。
 リアルであること、という
 曖昧でゲームの面白さに比べて重要でないことを優先するあまり
 余計な要素を増やし、複雑でないのに複雑であるように見せかけることで
 後期の作品は破綻しています。
 『三国志』なら『2』か『3』、
 『信長の野望』は3作目『戦国群雄伝』か4作目『武将風雲録』がお勧めです。
 特に『武将風雲録』は間違いなく傑作と言える出来。
 上杉謙信真田幸村の騎馬突撃が笑えるほど強く気持ち良いです。




・駒の能力こそ、育成と戦争を組み合わせた国取りSLGの解である。
 『大悪司』はそこを充分に踏まえて作られています。

・積み重ねで冗長のきらいもある育成部分を資金稼ぎ一点に削り込み
 キャラクターゲームの演出方法を取り込んで駒の希少価値を上げるSRPGの仕方を採り
 簡潔に、人材収集戦略国取りゲームとして纏め上げる。
 戦闘は体力、攻撃、命中、回避と特殊能力との数値比べ。
 ターン制限、コマンド回数制限のバランスもメリハリ利いて
 無駄な要素が極力少なく、育成要素もほぼ戦闘能力のみと割り切って
 組織運営の手綱を取るに、先への見通しが利いて計画を立てるだけで楽しいゲームとして
 まさに傑作といえる完成度です。



・自由度ということばがあります。
 いかに遊び手の自由になるか。好きなことができるか様々な手段が取れるのか。
 SLGにおいて、自由であること、プレイヤーにとって意のままになることは
 どのようにしても勝利し、敗北するときは原因が明確である形のことを言います。
 ゲームのルール、世界の法則を解していること。
 自らの掌の中で自由自在に操れること。

・だから簡単である。最適化すれば作業的である。
 けれど神が自分の作り出した世界に当るのは、子供もよくしないこと。
 自らの手の中に世界があるならば法則ルールもまたそこにある。

・簡潔明瞭であるがゆえに制限プレイがこれほど合う作品もなく
 何週としていまだ飽きることを知らない作品であります。
 



 


・蛇足に18禁ゲームとしてどうか。
 それはあなた、男性にハーレクイーンロマンスを10冊読ませて
 どれが良いかと訊ねるようなもの。興味のないものは理解測定判定不能でございます。
 
SLGとしてみたときに邪魔ですが
 18禁キャラクターゲームとしては間違ってはいないのではないでしょうか。
 駒の数が多いいだけに、それぞれが素っ気無いのでひとを選ぶのかもしれませんが
 興味ない人には逆に我慢しやすい仕様でありがたいことよ。

・ついでに製作のアリスソフト作品をいくつか遊んでみましたが
 『闘神都市2』が1人RPGとして、『ママトト』(ASIN:B0000CFY48)がゆるゆるSRPGとして
 それぞれ出色の出来。
 また機会を見て書いてみたいと思います。