SF小説 グレッグ・イーガン『ディアスポラ』

  ISBN:4150115311

・これがSF。素晴らしく面白い。



・『トップをねらえ!』(参照;http://www2j.biglobe.ne.jp/~maberick/top/top.html)というアニメの
 最終話、最期を見たとき私は笑ってしまいした。
 まさかここまでSFをしてくるとは。


・SF、サイエンスフィクションというジャンルはとても幅広いです。
 どこからどこまでがSFか、そんなことを論議するだけで楽しいほどに。

・科学的な嘘。空想科学小説は、ジュール・ベルヌハーバート・ジョージ・ウェルズ
 あるいは『フランケンシュタイン』のメアリー・シェリーから始まって
 表現作品の大きなジャンルとなっていますが、その面白さは何か、というときに
 持ち出されることばが「Sense of Wonder」。
 感覚感性を持ち出している時点で説明放棄。
 ゲームの面白さを説明せよ、それに対する答えのように。

・例えばSF小説ならロバート・A・ハインライン夏への扉』やアイザック・アシモフ『われはロボット』。
 SF映画ならばアーサー・C・クラークスタンリー・キューブリック2001年宇宙の旅』。
 RPGとは何か、と訊かれていちばん無難な答えが
 「『ドラクエ』や『FF』みたいなもの」というに同じです。

・SFとは何か。
 『トップをねらえ!』がSFなら『オネアミスの翼』はSFか。『ガンダム』はどうか。
 『宇宙の戦士』がSFなら映画『スターシップ・トゥルーパーズ』はSFなのか。
 『スタートレック』『サンダーバード』は良いとして『スターウォーズ』はSFなのか。
 ファンタジーやミステリー、ホラー、哲学思弁、数理理論。
 どこまで行っても明確な境はない。



・SFにはいろいろあります。
 相対性理論ウラシマ効果ワームホール。タイムマシン。平行世界。量子力学
 スペースコロニーテラフォーミング軌道エレベーター
 心ときめくお名前です。
 これらどれもがトンデモ理論や似非科学でなく、現実の数理工学概念。
 ナノテクノロジーサイバースペース、ロボット工学などは
 すでにSFから現実になっているものといえるでしょう。


・様々な作家が様々な形でこれらSF概念を用いて新しい世界、
 現実から少し外れた、あるいは少し未来の世界を描いてきました。
 ドラえもんの秘密道具、22世紀の科学だけがSFなのではなく
 この現在現実にもSFはあります。
 ひとの体。ひとの心。不確定な量子単位のミクロ世界。
 マクロにみれば分っていることなど極一部、自分の周り、変わらない毎日のいくつかだけ。

・生きていくのに必要なものがあるならば、心に平安と驚きを。
 一生かかっても使い切れないほどのお金持ちが望むことは永遠と名誉。
 人の欲望が求めるものは「自分にないもの」「何か新しいこと」です。
 今までにない素晴らしいもの。
 見たことない、味わうことない、聞いたことない、訪ねたことのない、ものところ。


・21世紀のそれは宇宙です。一度で良い。月から地球を見てみたい。
 航空写真で自分を見たいわけではない。宇宙飛行士になりたいわけではない。
 誰かに先んじたいわけでもない。
 見たことのない世界を見たい。
 鏡の世界にしか自分は見えないけれど、この世界はそこからならば見えるのだから。


・それがSFの見せてくれる世界。
 現実、子供の頃夢見た21世紀と比べて進んでいるところもあれば劣っていることもある。
 月にひとを運ぶのは利益がない。恒星間航行など夢のまた夢。
 だから行きたいのだ。夢のない時代、けれども空には夢がある。
 それがSF。驚きを与えてくれる見たことのないもの新しい概念が作る世界。


・『ディアスポラ』はSFです。
 『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』。
 イーガンの過去作品にあったアイデア詰め込み大展開形式から連作短編形式に結構を変え
 短くまとめてそれでいてそれぞれは深く。
 『祈りの海』と『しあわせの理由』両作がもっていた、解説の大森望さん曰く
 「あらゆる文学形式の中でSFだけが与えうる感動」。
 それがあります。

・どこまで行ってもいつまでもどんな形でもひとはひとであること。
 なぜそこにいるのか、何を望まれ望むのか。
 新しい世界。新しい概念。現実の中にある自分が、現実にSF作品から得られるもの。
 これがSFだ。





・以下蛇足。
 『ディアスポラ』は難しい。例えばこちらに作中科学理論についての解説があります。
 JGeek Log - ディアスポラ理研 http://d.hatena.ne.jp/ita/00010205
 まったくわけわからない。
 近年では出色の、『ハイペリオン』以来といえる読むべきSFですが
 この辺りで敬遠されるのではないかと心配です。
 イーガンの過去長編作品に比べればどれよりも読みやすいのですけれども。


・SFなんか読んでいない、というかたにも読んでもらいたい。
 大丈夫です。このサイトを読めるくらいなら余裕です。

・読みやすい、可読性(リーダビリティ)の高いSFとしてお薦めなのはやはりハインライン
 『宇宙の戦士』(ISBN:4150102309)『月は無慈悲な夜の女王』(ISBN:4150102074)        
 誰でも苦もなく読めると思います。
  『ラモックス』(ISBN:4488618081)『銀河市民』(ISBN:4150115176
 この2つはそれこそライトノベルと同じ軽さ、小中学生にも楽しめます。
 他にはジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(ISBN:448866301X)、
 アーサー・C・クラーク『宇宙のランデブー』(ISBN:4150106290)も読みやすい。

・次にお薦めなのがアシモフ
 ロボット三原則の『われはロボット』(ISBN:4150114854)、『鋼鉄都市』(ISBN:4150103364
 ダニエル・キイスアルジャーノンに花束を』(ISBN:4151101012)も。 
 このあたりまでは大きめの本屋なら在庫があると思います。
 全て早川書房東京創元社

・さらにそこから嗜好に合わせて
 フィリップ・K・ディックやジェイムス・ティプトリー・ジュニア、
 レイ・ブラッドベリ火星年代記』(ISBN:4150401144)やその短編集が
 苦もなく読めるようになれば充分。
 スタニスワム・レムやサイバーパンクカテゴリー『ニューロマンサー』まで行けば敵なしです。

・ガイドとしては少し古いですが早川の『新SFハンドブック』(ISBN:415011353X)が手頃。
 新めはこちら(ISBN:440325084X)が適当。高いですが内容は充分。
 SFはすぐに絶版になるので古本屋の利用が欠かせません。
 Amazonの中古をいちかばちか試す手もありますが。


・マンガでは星野之宣2001夜物語』(ISBN:4575930741)。
 日本にもこんなに素晴らしいSF作家がいると誇りたくなる傑作。
 これに続くのが士郎正宗 『仙術超攻殻オリオン』(ISBN: 4878920076)と
 鶴田謙二『スピリット オブ ワンダー』(ISBN:4063198456)。
 小編としては藤子・F・不二雄短編集、岡崎二郎アフター0』(ISBN: 4091842224)。
 他には木城ゆきと銃夢』(ISBN:4088750713)、長谷川裕一マップス』 (ISBN:4840106762
 手塚治虫初期作品や大友克洋萩尾望都、とたどっていくとファンタジーとの区別が微妙。
 『11人いる!』(ISBN:4091910114)はSFなのかろ悩むところです。


・ゲームはどうか。SFゲームというのはどんなものだろう。
 単純に宇宙を舞台にしているならSTGにそれこそいくらでもありますが
 SFたるゲームというと、はて、SFとはなんであったか、と元に戻ります。
 タイムマシンやパラレルワールド世界があればSFなのか、
 『クロノトリガー』はSFか。『サガ』はファンタジーか。
 ロボットが出てくればSFか。『メタルギア』はSFか。
 『ゼノ』シリーズはSFと言う前にゲームとしてどうか。 
 ああ、SFとはなんだろう。