弾幕対戦STG『東方花映塚』

kodamatsukimi2005-10-22



・同人サークル「上海アリス幻楽団」(http://www16.big.or.jp/~zun/)の最新作。
 今回は『紅魔郷』『妖々夢』『永夜抄』のように弾幕STGでなく
 『ティンクルスタースプライツ』のような対戦STG
 違うのは弾幕STGであること。弾幕対戦STG。それが『東方花映塚』です。

 4Gamer.net『花映塚』紹介記事 http://www.4gamer.net/news.php?url=/review/th09/th09.shtml
 東方Wiki http://thwiki.info/
 とらのあな通販ページ http://www.toranoana.jp/mailorder/soft/050814tohopofv/050814tohopofv.html


・東方シリーズは縦スクロール弾幕STG
 画面全体を覆い尽くす敵弾の雨霰を掻い潜る。
 広範囲高威力のショットで雑魚敵を消し、大型敵は前方集中収束攻撃、危ない所は決め撃ちボンバー。
 同じ弾幕STGでも現在アーケードSTGの主流であるCAVE(http://www.cave.co.jp/index.html)一連作品との
 見て分る違いは、弾幕を美しく見せることへのこだわりです。
 前方に広がるような攻撃。多数の誘導ミサイル。
 違うのは画面上半分を覆う派手な爆発エフェクト。これがなく、
 またステージを短くボス敵との戦いを長くして
 多様な弾幕の見た目と、それを上回る自機の回避能力に酔うのが東方STGの楽しさです。



・縦方向STGでは、敵が前方、上方向から襲い掛かって弾をばら撒きます。
 画面外からは打たない。必ず姿を見せてから攻撃してくるので
 こちらの対処は撃たれる前に撃つこと。
 撃たれて手元に迫る敵弾を避けるに専念すれば、やがて追い詰められる。
 だからいつも同じように出てくる敵の行動を覚えておいて先を打つ。

・随意即興「アドリブ」による気合避けと、未来予知による型嵌め様式化「パターン」化。
 「アドリブ」と「パターン」。
 その組み合わせがSTGの命題です。


STGの面白さとは、自らの圧倒的強さの表現。
 それは、攻めの「破壊」、防御の「避け」そして全能感を味わう「パターン構築」の3つにある。
 敵に弾を中てる能力。敵の弾を避ける能力。それを実現する能力。

・中でも特殊なのが「パターン構築」。
 敵にとっては初めてなのに、こちらは相手が次に何をしてくるかを知っている。
 知っているから敵を倒せるのか、知らなくとも倒せるのか。

・「破壊」して「避ける」ことは単純に楽しい。
 だからSTGは、常にどの時にも継続してその楽しさがあります。
 「パターン化」はどうなのか。
 相手の攻撃を繰り返すことで覚え、どうすれば倒しやすいかを考え、それを試し実行する。
 その「攻略」過程は間違いなく楽しい。
 では、それが成った後、答えを見つけた後にはそれは繰返し作業になってしまうのはないか。


・そうではなくする為に、様々な方法があって取られています。
 答えをひとつでなくすこと。「アドリブ」要素を高めること。
 スコアを稼ぐための方法と答えを別に用意すること。
 絶対に正解唯一の答えはない。それが解れば後は作業になってしまうから。



・『東方紅魔郷』は、自機の攻撃が前方集中に限られており、また他になく標的ボス敵幅が小さいため
 弾を避けつつ狙い打つ、という要素が強い、CAVE弾幕STGより前の時代における方法が印象的。

・『妖々夢』は全体的に同人ゲームらしからぬ演出強化が目に付きますが
 何よりボスと横の座標を合わせて狙い打ちに行く必要が薄くなっている点が大きい。
 画面下にボスの位置を知らせる表示がつき、手元だけを見て避けているだけで良くなった。
 画面全体を見て、敵の攻撃が来ない方に移動して捌いていくことよりも
 真上から精密に降ってくる低速弾との座標を外す。見てから避けられる攻撃。
 これが弾幕を見せ、魅せる東方STGとしての「アドリブ」「パターン」の配合結果でありましょう。

・『永夜抄』ではステージ道中の雑魚との戦いに違いが顕著です。
 従来の高速移動広範囲攻撃と低速移動前方集中攻撃の使い分けをより意識させるため
 その違いをスコア稼ぎにより深く絡めて
 ただクリアしようとするなら簡単なパターン化で、
 極めるならば奥深い戦略構築が必要である、とする形。答えをひとつでなくする方法。
 ただそれがボス戦の「見せる弾幕」と噛合っていなかった。
 「ラストスペル」を集める過程の「パターン化」は特殊過ぎてやはり受け入れがたかった。


・東方シリーズはその質の高さで商業STG作品を圧倒しながら同人ゲームであり
 広く意見を求めて間口を広く変えていくのでなく
 製作者の考えるこだわりを直截に表現した作品。
 3作はどれもが同じようで、まるで違うSTGです。
 縦スクロール弾幕STGという主流の形式でありながら様々に実験し変化していくSTGシリーズ。
 同人だからと妥協なく、見る美しさと操作の楽しさを追求している質の高さ。
 素晴らしいSTGです。




・さて最新作『東方花映塚』。対戦STG。『ティンクルスタースプライツ』風。
 『スプライツ』についてはこちらを参照。
 PS2ティンクルスタースプライツ 〜La Petite Princesse〜』GAME Watchレビュー http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050808/twin.htm
 PaCIfIC PASSER-BY #27 TOTAL REWIND「Cult Shooting 100 ティンクルスタースプライツhttp://www.interq.or.jp/pacific/yasufumi/Game/sprites.html

STGは基本的にひとり用です。多くの縦STGは2人協力で遊べるようになっているものの
 ステージ構成はひとりで遊ぶことを想定したもの。
 協力のように見せて互いを邪魔しあう『マリオブラザーズ』のような擬似対戦STGがないのは
 自機が強すぎてまさに矛盾することと、上や横に進むという方向があるゆえ。
 では方向がなく、対戦格闘のように互いに向き合って弾を打ち合うようにすればどうか。
 それが『旋光の輪舞』(http://www.grev.co.jp/ronde/index.html)であって、
 何かSTGとは違う擬似3Dアクションなのではないかとか、
 あるいは『東方萃夢想』(http://www.tasofro.net/)はSTGでないしとかとか。

・そのような中で唯一「対戦STG」という他ないのがこの『スプライツ』です。
 その方法は落ちものゲーム、対戦パズルアクションの仕方。
 画面を左右に分割してしまって互いに行き来できない。
 それぞれ同じ構成のステージでSTGを行い、
 『ぷよぷよ』で連鎖を決めてお邪魔ぷよを送り込むのと同じように
 敵を「連爆」することで相手に敵を送り込んで邪魔しあう。
 なるほど確かにSTG。そして対戦といわれれば対戦。なるほどなるほど。


・『スプライツ』はプレミア価格に相応しいかといわれればどうかと思いますけれど
 良くできたゲームです。
 ただ弱点があります。敵を邪魔することの効果が分り辛い点。

・『ぷよぷよ』で対戦をします。
 どこに落とすか決めて、相手を見、どのくらい積みあがっているか
 連鎖の導火線がどの程度つながっているかを見て取って、攻撃の機会を決めます。
 上級者同士であれば一度の大連鎖程度では相殺しきられてむしろ逆襲されてしまう。
 大連鎖だけでなく3,4連鎖を続けて送り込み相手が立て直せないよう一気の構成を仕掛ける
 仕込みと、仕掛ける機会が要点。

・『スプライツ』ではそれができない。
 STGでは相手を窺う余裕と機会が限られているという以上に
 相手がどのくらい追い込まれているか、あるいは仕掛けを溜め込んでいるかが見て取れず
 攻撃の機会が掴めない。
 とにかく展開を速く廻し、より効率良く手元の敵を連縛させることに集中するほど
 相手を含めた展開での立ち回り、対戦勝利への戦略が見えてこない。

・対人戦では違うのです。
 STGはどんなに追い込まれていても、画面の隅から隅まで焼き払う360°レーザー攻撃はない。
 いつでも生き残る機会があるけれど、それを必ず掴めず慌てて誤り間違える。
 必ずミスをする。追い込まれるほどそうなる。
 だから「落ちもの」ほど先を見越して戦略的ではないけれど、同じ画面内、その場でそばで
 相手の動きを見て取ることで、対戦をするには充分なのです。


・『花映塚』はPC用。テレビで遊ぶ以上に対戦は難しい。
 けれど『東方』STG弾幕STGとしての方法があります。


・ひとりで遊んでも面白く。
 相手を仕留めるための確実な手段がないならば、まず自らが弾幕を生き残ること。
 相殺がない。仕込がない。だから攻撃でなく、守備重視。
 「避ける」楽しさの大きい弾幕STGならでは仕方。

・敵弾は、自機に影響ない連爆の爆風で掻き消せる。
 攻撃のための連爆でなく、防御が主体でついでに攻撃する仕組み。
 『スプライツ』のため撃ちシステムを活かし
 従来の「常にショット連射で低速高速使い分け」を
 連爆のための狙い撃ち、「吸霊展開」で連鎖基点作成、溜め撃ち特殊攻撃、と
 取れる手段を3つに分ける。
 常に連爆を狙って弾幕から逃げつつ、時には低速で避けも必要。
 多様な相手との展開による弾幕は常にもちろん多様であり、型に嵌めるは一通りでない。
 ただ単純に避けて凌いで交わしているだけでも面白い。
 そばには相手があり、自分に向けて攻撃してくるのだから。


弾幕対戦STG
 『スプライツ』同様に対戦STGを決定づける答えはないけれども
 まず、ひとりでも楽しめるSTGであり、そして相手がいるからこそ、その楽しさがある形。
 ひとと競うことは、ひとつの記述可能な単純数式から無限の数列への展開がある。
 弾幕STGという見せ方で、東方にまた、新しいSTGを魅せてくれる作品です。 



・アクションゲームは対戦格闘という形で大きくその様相を変えました。
 STGはどうか。今はまだ答えはなくとも
 STGはただ単純に面白く、そしてCAVEのように正面から行くメーカーがあり
 そして『東方』のように様々なその可能性を見せてくれる作品がある限り
 決して過去のものでなく、現在とこれからのあるゲームに欠かせないジャンルです。
 東方シリーズ最新作『東方花映塚』。素晴らしいゲームです。