『メタルギア』は進化する/『メタルギアソリッド3』

 Kojima Productions http://www.konami.jp/gs/kojima_pro/japanese/index.html


・『メタルギア』シリーズはどういうゲームであるかというと、
 自分が滅法強いわけではないアクションゲームです。
 多数の敵に囲まれても無双乱舞でぶっとばせません。隠れてこそこそ各個撃破。

・アクションゲームとしては古くからある伝統スタイルでございます。
 『パックマン』です。「大脱走」ゲームです。
 それを「敵基地に潜入する」というお話の、
 アクションアドベンチャーゲーム仕立てとしたのが『メタルギア』。
 2Dの『ゼルダ』を初めとして、今も昔もそれほど珍しいゲームではありません。

・製作者 小島秀夫さんを「小島監督」と呼び、その作品は「小島シネマ」と称されるように
 B級映画調のストーリー、キャラクター、演出が
 やりすぎと褒め称えたくなるほどに力を入れて散りばめられた作品です。
 それと、軍事情報趣向による魅力からなる表面を除くと
 『メタルギア』は良く出来たアクションゲームではありますが、それだけです。
 遊んでいないのに決め付けるならば『ぼくらの太陽』も
 そのようにある、良く出来たアクションゲームであるのでしょう。

・もちろんその当たり前を常に当たり前に体現する点こそは
 第一に賞賛されるべきところではあります。そこが優れているところ。
 安心定番20年に渡る『メタルギア』ブランドの保持。それだけで充分に素晴らしい。



・『メタルギア』はどこが面白いのか、と眺めるならば
 「かくれんぼ」ゲームとしての面白さがまず目に付きます。
 敵の視界から隠れて物陰に潜み、隙を見て通り抜けたり一撃必殺したり。

・『天誅』シリーズや『スプリンターズセル』シリーズは
 このMSX版『メタルギア』が持っていた独自性を引いてそれぞれに発展させた作品です。
 『天誅』は主人公を忍者として、一撃必殺アクションの気持ちよさを引き立てるように。
 『スプリンターズセル』は逆にアクション要素を削り
 その場面ごとに用意された正解手順を繰り返す中で見つけるパズルゲームに。

・敵に見つからないよう潜入するゲーム。
 ただ隠れて見つけてもらうのを待っているだけの「かくれんぼ」でなく
 待ち構えている敵軍皆さんを出し抜くゲーム。
 潜入ゲーム、「エスピオナージ・ステルスアクション」というゲームルールは
 テレビゲームとしてルールがゲームに合っていて、美しいです。




・『メタルギア』の潜入ゲームとしての変遷を見ていきましょう。


・'87年MSXメタルギア』は、一見アクションアドベンチャーとして古典的な作り。
 ですが、プレイヤーキャラの戦闘能力が序盤の雑魚と変わらない、という点が斬新で
 成長して性能が上がるのは体力だけであるのに
 アイテムを使い分けていくだけで最強と成り得てしまう、という
 CPU操作キャラクターがある程度以上に真似してはいけないニンゲン様の賢さ、を
 存分に体感できるゲームであります。
 どこが面白さか判っています。良く出来ています。流石です。


・'90年MSXメタルギア2 ソリッド・スネーク』。
 見た目やアイテムバリエーション、ホフクアクションの追加などの正当進化周りが
 堅実確実しっかり手当てされている作品。
 新しいのは画面右上の「生体反応レーダー」、またの名を「ソリトンレーダー」。
 周囲の敵がどこにいて、どちらを向いていて視界はどれくらいの広さなのか、
 さらに監視カメラの視界範囲までしっかりわかってしまう光学迷彩も冷や汗の超未来技術。
 これによりましてサーチライトと看守の視界から隠れる刑務所脱走ゲームを思わせる風。
 荒唐無稽有り得ないと言うよりも
 隠れるべき範囲を明示するほうが潜入ゲームとして面白いからと割り切っての工夫。


・'98年PS『メタルギアソリッド』(以下MGS)。
 「ソリッド」は「固体」と共に「立方体」という意味もあります。
 従来の2Dアクションから3D立体空間アクションへの変化が第一ですが
 視点変更、カメラ位置を自分で操作できない見下ろし俯瞰画面で進行する様は
 アクション操作という点において2Dとそれほど変わるものではない。
 前作のさらなる正当進化作品であり3Dによる演出強化こそが、この作品のある位置です。
 ステージ構成がボス戦を点として一直線にまとまって美しく
 あるべき『メタルギア』の完成品というべき作品。


・3Dゲーム潜入ゲームになったことで問題となるのが、視点です。
 画面の中にいる操作キャラクターが見えるものと、プレイヤーが見えるものの違い。
 例えば対戦格闘ゲーム。キャラクター主観視点では相手との距離感がわからず
 間合いの見切りが命である格闘ゲームとして成り立たない。
 「リアル」であるかどうか、3Dにした意味はどこにあるのか、
 それらは割り切って、やはり2Dと同じく横からみた視点こそが最上とするが結論。
 3Dである意味は見た目と演出以上ではない。

・潜入ゲーム『メタルギア』においてはどうなのか。どの視点がもっとも良いのか。
 上3作は基本的に斜め上後方から見下ろした俯瞰視点。
 奥へ潜入する、画面上の方向に向かう、がイコールで結ばれるわかりやすいルール。
 しかし果たしてそれが最上なのか。
 敵は上からだけでなく、横からや後ろからも現れるべきなのではないか。
 どのようにすれば3D潜入ゲームがもっとも面白くなるか。


・'01年PS2MGS2 サンズオブリバティ』はその迷いが見えるゲームです。
 PS2にハード変わってさらに画面がきれいに。といういつもの正当進化だけでなく
 何か新しいものを、としたときに考えられたのがより大勢の敵。
 見た目の衝撃驚き。そこに求めたようであることが
 後に発売されたメイキング本(ISBN:4789718433)から窺えます。
 しかしそれはつまり、見た目しか変わっていないということ。

・ゲーム機の性能が向上し、よりリアルに、より良い演出をと求められます。
 前作の世界的大ヒットを受けて『MGS』はその面でも時代の最先端を求められる。
 そしてまたコナミの資本と技術はそれを可能とすることも出来る。
 しかし中身はどうすればより良くなるのか答えが出ていない。
 ないままに完成したのが『MGS2』。完成された前作からの迷走。



・3Dアクションはまだ未完成です。これぞ最上という表現方法がない。
 カメラ視点をどうすればもっとも操作しやすくかつ、見た目が良くなるかに答えがない。

・『MGS』はアクションでありながら『バイオハザード』のように固い動きをします。
 反応は早いので精密正確な軍人らしい動きであることよ、とも見えますけれど
 例えば『MGS3』でコラボレーションした『サルゲッチュ3』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050809#p1
 のアクションと比べると、劣悪な操作に感じられます。

・『MGS』アクションでサルを捕まえる「猿蛇合戦」は
 明らかに『サルゲッチュ』のアクションシステムを用いた方が遊びやすい。
 逆に『サルゲッチュ』アクションで潜入ゲームをする「メサルギア」は
 『サルゲッチュ』本編と違い後方追従カメラ視点でなく俯瞰視点であるのが
 ひどく遊びづらい。

・『サルゲッチュ』はZ(L1)注目による後方自動追従カメラ視点と主観視点の組み合わせ。
 『天誅』『スプリンターセル』は主観視点と、
 後方カメラをもう1本の3Dスティックで操作キャラクターを中心に回転するようにしたもの。
 距離は関係なく上下左右の方向さえあっていれば良い銃攻撃に合う主観視点のみのFPS
 あるいは場面ごとにカメラ固定、あるいは位置指定位置補正。
 そしてまたあるいは、それらの組み合わせ。
 これらが現状の3Dアクションの答え。
 つまりそのゲームの特性ごとにその場面ごとに切り替わったりしたり色々様々。
 最上唯一の答えなどない。 


・'04年PS2MGS3 スネークイーター』は基本的には俯瞰視点ながら大きく変えてきました。
 従来主に敵基地潜入屋内舞台であったものが、野外舞台が多く増えて
 主観視点でかなりの遠くまで見通しが利くように。
 高い技術力と手間をかけたPS2屈指の美しい見た目が可能とする方法です。
 そして「ソリトンレーダー」を廃止。
 敵の位置も視界もわからない。そのかわり監視カメラはなし。
 迷彩服とフェイスペイントで壁でなく地面の草むらに伏せることで隠れ、
 主観視点や双眼鏡で敵の行方を窺う仕組み。
 「かくれんぼ」ゲームとしての方法。なるほど成る程さすがだ流石だ。


・なぜ『MGS』は俯瞰視点にこだわるのか。
 それは物陰に隠れて進む潜入ゲームに合っているからがまずひとつ。
 すぐ側にいるのに気付かないお間抜けな敵が、プレイヤーから見えるからこそ面白い。
 その操作キャラクターだけでなくプレイヤーからの高次視点も意識した「メタ」視点こそが
 『スプリンターセル』と『MGS』を大きく分ける点です。

・もうひとつは敵を倒すアクション。『メタルギア』では敵は倒すべき存在でもあるのです。
 潜入アクションと戦闘アクションの両立。
 俯瞰視点であることは、他の後方視点3Dアクションのように
 戦闘が主でない潜入アクションであることを忘れさせないためのもの。
 主観視点のFPSでないのも潜入アクションであるからこそ。

・『サブシスタンス』では『スプリンターセル』のようにカメラ位置操作モードも追加され
 R3ボタンで簡単に切り替えられるようになっています。 
 つまり俯瞰視点でないようにできる。というのは
 超未来兵器万能「レーダー」がなくなり
 主観視点で敵を探すゲームに『MGS3』で変更されたからこそ。


・ただ『MGS3』の方法にも欠点はあります。
 敵の視界範囲が明示されないため敵に発見された際、理不尽にも感じられること。
 これは低難易度モードでは強行突破、高難度では発見される前に倒す、という
 2通りの解法どちらでも通用し面白く感じられるようにして対処しています。

・もうひとつには戦闘中の視点。
 敵を主観で探して攻撃、がボス戦闘解法として必然用意されるわけですが
 主観で探して俯瞰または後方視点で攻撃、その切り替えがこれまた必然となることです。
 俯瞰から主観に、逆でも画面が変更されるのは一瞬ですが
 プレイヤーの頭がそれを処理するのに、つまり必ず一瞬停止するのです。
 戦闘中悠長に視点を切り替えて立ち止まる兵士などいない。
 これで主観視点が必要な攻撃手段を取るとなるとさらにその遅延ずれは甚だしくなります。

・この点明らかに後方自動追尾視点3DアクションにもFPSにも劣っています。
 『無双』ほど快適に敵をぶっ飛ばせないし、銃を撃ちながら移動しても上手く当らない。
 結局敵に近寄りショットガンが最強ということになる。

・潜入して見つからないことと、倒さねばならないこと。その両立。
 ステルスアクションであることを第一義に置くゆえに
 戦闘アクションバリエーションが少なくなり、解法種類も限られてしまう。
 『MGS』シリーズが作を重ねるごとその種も尽きてくる。
 そこが『MGS1』では見えなかった『MGS3』に見える欠点です。



・『メタルギア』は隠れて潜入する面白さをゲームで表現した作品。
 コナミの技術力と時流と独特の演出個性が噛合ってビックタイトルになりましたが
 本質的には美しいルールを基礎とし高い品質に支えられる良く出来たアクションです。
 優れている点は、その面白さがどこにあるか、高い技術をそれにどのように生かせるかを
 常に理解し間違えないところ。


・『MGS1』で『メタルギア』というゲームは理想的に完成しているように見えます。
 しかし前に進まなければならない。
 より美しく。かつ、見た目だけ変えた陳腐に堕さないよう、より新しく。
 『MGS3』でそのように変えてきている。進化していくことが出来ている。
 完成したものに付け加えて崩さない手腕は実に素晴らしい。


・けれどまだ最上ではありません。
 『バイオ』が『4』でまったく新しく良く変えたように
 『メタルギア』もさらにまた新しく、潜入ゲームとして楽しく、かつ
 さらにまた戦闘も楽しくあるように。全ての部品が『MGS』のように美しくつながるように。
 3Dアクションとしてより良く新しく美しく完成するように。
 それを期待できるブランドが『メタルギア』であるのです。