『アサシンクリード』

kodamatsukimi2009-04-16


 本作はZ指定、「18歳以上のみ」対象の作品です。
 公式サイト(Z指定注意)http://www.ubisoft.co.jp/assassinscreed/ ASIN:B001ET6LUY


・英題は「ASSASSIN'S CREED」なのですが
 「CREED」は「信条」という意味なので「'S」がついても
 アサシンズとかアサシンスとは言わないと思われる。
 ちなみに私は英語が弩級に苦手でありました。その後も変わらずわかりません。
 大学受験も英語を参照しないところしか受けなかった。
 でもアサシンは暗殺者の意味ですよねわかります。
 ASSASSINと書いてあってアサシンの意味であるところのアサシンだなと
 わかるかといえばわかりませんけれども。

・主人公は暗殺教団で養成された凄腕のアサシン。
 ボスの指令に従い、ダマスカスやエルサレムなどの街へ潜入、
 情報集めてさくっと要人を暗殺するゲーム。
 和風だと、忍者で夜の闇に忍殺、天に代わって御仕置ですが
 洋風だと、スネークのように隠れて不思議な構造の敵基地に潜入するわけではなく
 昼間の人ごみにまぎれて白昼堂々犯行に及ぶがあちら風らしい模様。
 これが現代だと和洋問わず世界中でアーマライトが火を吹きます。 


・時は1191年、第三回十字軍が題材。
 複数回行われている十字軍による戦いの中でもこの三回目は
 獅子心王リチャード一世、尊厳王フィリップ二世と
 イスラムの英雄サラディンことサラーフッディーンという有名どころ同士の対決で
 とても興味深い回なのでありますが
 本作には、リッチーこそ出てくるものの残り2人が出番なく少々さびしい。
 他のゲームだと『蒼き狼と白き牝鹿4』に、
 小説だと『ジハード』などで、この舞台を楽しめます。
 『ジハード』はこの話(http://tiyu.to/permalink.cgi?file=news/01_06_04)のほうが有名ですが。
 そもそもエルシードさんは黒髪という描写であった気がしますが。


・このゲームの売りは、12世紀のアラビアな街並みを暗殺者として跳びまわれること。
 とにかく見た目が凄い。
 いわゆるひとつのリアルです。現実風です本当味です。
 中世から生きているわけでなし、そもそも日本から出たことありませんがなんとなく。
 歴史の資料集とかテレビ番組とかで付いたなんとなく中世のアラビア風景色知識に
 とても近い感じのみためです。

・建物に登って高いところから遠目に見ても
 それらしい街の広さ、建物の配置のそれっぽさといいかなり凄いのですが
 地面に降りて歩いてみてもなかなか凄い。
 全部を描いてあるわけではなく、使い回しで出来ているのですが
 ハリウッド映画で大セットを組むのになれているからか設計が良い。
 『FF12』のように無駄に凄いのではなく組み合わせが上手くて凄い。
 人通りも多くて雰囲気充分。
 周りをぐるぐる見まわしながら、ふらふら歩きまわるだけでも結構な観光であります。


・各街にある教団支部を拠点に、盗み聞きやスリや脅しで情報を集めて
 標的に近づける機会を探り出し
 人ごみに紛れて接近、背後から素早く暗殺、再び混乱する群衆に紛れて撤収。
 という運びでゲームは進むのですが
 情報を得られる場所は地図にばっちり表示されているので探す苦労はない。
 敵に発見されて追跡包囲されてしまったらちゃんちゃんばらばら剣で戦うのですが
 マスターアサシンだけにとても強く、まず負けることはありません。

アドベンチャーゲーム的な、情報を集めて推理して機会を探るというようなことはなく
 地図の指し示すまま目標は明確で
 剣を振り回したり敵から逃げ回ったりというのも操作技術を問うものでなく
 とてもしつこい追跡者たちから逃げる根気の問題。
 『ニードフォースピードモストウォンテッド』の警察なみに仕事熱心。
 もっとも街中で白昼堂々、街の警備兵をざくざく刺す敵相手だから当然ではある。


・根気の問題というのは、本作真の姿は罵倒に耐えしのぶ忍ゲーであるから。
 とてもとてもとてもしつこい物乞いのひとたちや既知外な方々のまとわりつきと
 イベントセリフやBGMを超越して耳に残る音声にひたすら耐える。
 守備兵はいくら殺しても良いけどこの方々は駄目。
 街ゆくひとたちも何つったってんだ等と気軽に罵声を浴びせてきて
 自分たちが暗殺者の標的ではない正義の存在と既知であるとしか思えません。
 そこでたまったストレスを殺しても良い敵に向けるわけですが
 なるほど実にZ指定。蓋然性の犯罪を目論む心理。健全にブラックです。

・もとい、というわけでこのゲームは
 教えられた通りにおつかいをこなしつつ
 ふらふらと建物の屋根を跳びまわりながらなかなか景色良い街を眺めて
 たまにむかつく相手を暗殺。すっきりはれやか。
 という暗殺者のここちを味わえるRPG
 これだけ良くできたみかけと短いロード時間などに見られる技術を投入してありながら
 することがこれか。それで良いのかUBISOFT。とうろたえるゲーム。
 最後に明かされる驚愕の真実。海の向こうの良し悪し基準は時として理解を超える。




・『アサシンクリード』はかけた技術と手間に見合うだけの中身でない。
 楽しい暗殺者生活という表現題材が、贅沢な舞台に対して充分活かせていない。
 ゲームとしては中途半端。
 剣戟と旗集め以外にアクションゲームとしての要素を加えて
 見ているだけでなく動かして楽しいよう在るべきだった。

・ただ、この作品の見るべきところは、良くできた街並み景色だけでなく
 街中にひとが大勢いて、それに紛れ隠れて移動するゲームである、
 それを充分ではないけれど、そういうものとしてまともに表現できている、
 というところも挙げることができます。


・人間を操るゲームとして、画面に描かれたけしきを想定したとき
 主人公と、戦うあるいは競争し合う相手と、起伏有り変化に富んだ舞台と
 それに関係ない第三者が置かれ得ます。
 敵味方ではない相手。
 攻撃するまで攻撃してこない。攻撃しても攻撃してこない。
 攻撃してくるけれど攻撃できない。あるいは攻撃してこないけれど攻撃もできない。
 だからといって省略してしまうのはもったいない。
 自分と味方と敵以外の、状況を撹乱変化させ得る要素として有って良い。

・このゲームでは敵に気づかれないよう接近する際に
 舞台の起伏による視覚遮蔽や地形効果による迷彩だけでなく
 この第三者を利用することが可である。
 迷彩では、例えば『メタルギアドリッド3』のような仕組みでは
 あるいは魔法や魔法と区別がつかない科学による見かけの変化という仕組みでは
 使用できる状況が限られるが、関係ないひとの影に隠れるという当手段は汎用性高い。

・でありながらこの方法が従来用いられてこなかったのは
 それを見た目に確認できるよう描く余裕がなかったからで
 また汎用に用いられるほど、集団の動き、流れを表現できなかったからである。


・それで、本作が充分その手段をゲームの要素として、隠れて敵に近付く手段のひとつに
 活かせているかと言えば、充分ではない。
 自分と、敵とそれ以外の周囲にいる第三者はやはり別物である。
 自分と敵とをひとが操作するとき、第三者はかくれんぼの手段に成り得ていない。

・けれど第三者も誰かが操作すればどうだろうか。
 隠れて近づくだけでなく事をなして逃げる際も
 これまでの、自機狙い弾とバラ撒き弾だけという別ではなく、弾と自機敵機の区別なく
 全存在がそれぞれの主観で別々の方向を志向するならどうか。
 それこそ、良くできた舞台とは、演ずるひとによって作られるものであり
 背景である幕に描かれた絵はその景色の部分でしかないことを確認する段階である。


・そういうようが有り得る景色を表現できているのが
 本作『アサシンクリード』のもうひとつ見るべき点であります。
 次回作はともかく次世代機作くらいで期待したい。