2009年1月から3月くらいまでの読書メモ

kodamatsukimi2009-03-31



・前回(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20090131)に続いて
 メディアマーカーhttp://mediamarker.net/u/kodama/)のメモをもとに
 読書の感想を書くの回。毎月書くとは書いていない。現実むり。
 といっても2ヵ月分だと感想かきたいものが結構たまるのが困りますが
 今後も続けるとしたら奇数月末が目安となる予定です。


ライトノベルサイト杯に前回投票させていただきましたが
 その結果をみて先月から面白そうな本をいろいろ買ってみました。
 特に「なまくらどもの記録」(http://d.hatena.ne.jp/psycheN/)のおすすめは
 かなり相当量すすめられるままに購入。
 これぞネットで情報を得られる便利さよ。

・結果、この1月から3月までで買って読んだ本は、マンガも含めて137冊。
 費やしたお金は\102,343なり。
 ひとめでわかるので便利です。
 同じ調子で買うなら年間550冊くらい読み、費やすのは年約40万円と。
 ……。
 40万。本代だけで1年40万円。なんてお金持ち。さすがに反省した。
 

・単価は安いのに本は高いです。
 さらに本を置く場所代というものがある。本はとてもかさばるのだ。
 ご覧の通り2ヵ月分だけでタワーです。
 読み終えた端から実家に持ち帰っているのですが
 向こうも2部屋の壁を床から天井まで埋め尽くしているので
 今後は詰め方に立体的工夫が必要か。

・置く場所の都合上、できるだけ文庫のみを買い
 購入にあたっては年4回のルミネ10%オフに買いだめたりとはしていますが
 社会人としては収入の重要さがわかるので
 作者に続きを書いてもらうため、本屋に潰れてもらわないため、
 一応出版社にも本を出してもらうためにも、できるだけ新刊で買うのです。
 たとえ読む途中で投げ捨てるような本であろうと、一応新刊で買うのです。
 お金を出して買わないと積みっ放しで読まないのです。

・ちなみに今回の137冊中、読みおえずに投げ出したものが1冊ありました。
 今回の更新用に写真を撮るため捨てはしませんでしたが。
 もちろんどれとは書きませんが。
 撮ってみたら一冊くらいなくても変わりませんでしたが。捨てるか。
 投げ出したくなる作品を書けるのもひとつの才能。
 大勢を気持ち良くだます能力こそが、作者の得難い実力です。
 世の中広い。新聞の広告にだまされたり宗教にすがるひとは確実にいるのだから。



・というわけで以下はメモから面白かったものを挙げてみます。

広くおすすめできる作品

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

・まずこちら。妄想爆発の京大生が黒髪の乙女をスト―キングするお話。
 京大生だから許されます。やはり学業は大切。勉強は役立ちますよ中高生の皆様。


・短歌や俳句を読んでも、ノーベル文学賞受賞作を読んでも
 文章の良し悪しの基準がどこにあるのかいまだに判らないのですが
 けれど、読んでいてこれは良い文章だと思うことはあります。
 それ、すくなくとも自分が感心する基準はどこにあるのかどういうものか。

・それはたぶん料理の美味しさのようなもの。
 おおまかに、まずいものから美味しいものへ絶対値の軸があるはずで
 しかし、それは甘いとか酸っぱいとかの味覚から受ける情報を
 見た目や状況などを含めて判断し、つまりは好みで印象づけているだけであるはず。
 けれど現実、美味しいものと美味しくないものは個人差でなく傾向があるようだ。

・文章もそういうのものであると思っております。
 基本的に個人の好みだが、おおまかにその好みは普遍的共通性をもつ。 
 このようにも捉えられるのではないか。


・話を戻して本作の良いと思うところですが、それは
 お話の内容を知っていても、その文で描写される情景を繰り返し楽しめるところ。

・作者がいわゆる上手い文章を書いているのかは判りません。
 しかし読み取れる描写が、『太陽の塔』『四畳半神話大系』と同じ繰り返しでも
 やはり楽しい。美味。
 幻想妄想の京都の夜の四季の情景が、美しい。
 この街に住んでみたくなるような文章だ。

・それが私にとっての「文芸」価値。ブンガクゲージュツとかの基準はわからない。
 けれど、文章の言葉選びやその並べ方つなげ方の技術、「芸」で
 文が、その表現している題材や物語や人物に関係なく、価値をもって楽しめるか、
 という基準でなら分かる気がするのです。

・マンガだとこの「芸」はより解りやすい。
 1コマごとの絵が上手い下手ではなく、登場人物の行動に共感できるからではなく
 その展開が、そういうコマ割りとセリフと絵で表現されているからこそ、良い。


翼の帰る処 下 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-2)

翼の帰る処 下 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-2)

・『夜は短し歩けよ乙女』はファンタジーである。舞台は現代京都風だけれどたぶん。
 ところでファンタジーとはなんだだろう。語義は空想幻想想像、妄想。
 『指輪物語』のような完全異世界だけがファンタジーではない。
 空想による要素さえ含まれていればファンタジーか。
 「伝奇」はつまり和風ファンタジーのことだよな。

・SFの定義と同じく、なんでもかんでもノンフィクションでも
 SFでありファンタジーと言えないことはないのでどうでも良いのですが
 この作品はファンタジーです。
 主人公は過去視の能力持ち。皇女の部下になって皇家の相続争いに巻き込まれたり
 格好良いひげジジイが悪魔憑きの元暗殺者だったり空飛んだり竜が出てきたり。
 うむこれは良いファンタジーだ。
 現実にとらわれない空想が許される自由の空がファンタジーだ。


・主人公が見た目は若いのですが結構なおっさんであり
 病弱ながら有能な文官なのに出世意欲がなくて望みは隠居。晴耕雨読
 それこそ現代の価値感だ。とても同意だ。
 現実と関わりない独自完全異世界舞台で登場人物もそれなりに多く
 興国の歴史が絡む宮廷政治に加えて隣接地域からの侵攻と、お話もいろいろ動くのに
 過去視の場面を除けば、要を得てとても読みやすい良い文章が素敵。

異世界舞台設定が良い。登場人物描写も手堅い。お話もてらいなく面白い。
 物語好きなら誰にでもお勧めできる総合力の高い作品。真っ当に良い小説です。


ベクフットの虜 クレギオン7 (ハヤカワ文庫 JA)

ベクフットの虜 クレギオン7 (ハヤカワ文庫 JA)

・ファンタジーときたら次はSF。
 SFは一般的にサイエンスフィクションのことなので、フィクションのはずですが
 サイエンス的に論理実証的に言わせてもらえば
 その事柄が、事実でないように見えるだけであって、事実でないという事実はない。
 つまり科学風なら何でもSF。通らなくとも理屈っぽいと思えば何でもSFなのである。

・というようになんとでも言えるので定義はどうでも良いのです。
 私個人がSF的なものを好きであるところは、例えばネジ。
 ネジは規格品でなければならない。
 何千何万とあろうがみな同じ働きをしなければならない。
 しかし現物はもちろん個々に微妙な違いがある。同じものなどひとつとしてない。
 けれど同じものとして働く。そうある力を全てみなが持っている。
 そう働く事を許す仕組み、そこにある力、そうあるよう整えている理、コトワリの
 働いているさまが、サイエンスであり科学でありSFというもの。
 乏しい観測で不確定な世界を律する理屈の切れ端。そこは幻想空想でないところ。


・『クレギオン』シリーズは、もとは富士見ファンタジア文庫ライトノベルですが
 まちがいなくSF。これぞ良いSFです。

・恒星間移動が可能な未来。宇宙船に係る安全係数はかつてと比べ天文学的に小。
 しかしこの宇宙を通す仕組みは未だ不変にあり、そこに生きる人間もまた今に同じ。
 主人公たちは戦闘のプロなどではない、ただの弱小運送業者。
 平凡な日常。各巻ごとで完結する各惑星系の小事件。
 普通人の主人公たちが劇的な事なく、そこにいたからというだけを理由に関わり
 ひとが持つ力だけをもって、いかに問題を解決するかの筋立てが
 どの巻も素晴らしく見事である。SF仕掛けの使いかたが抜群に上手い。

・『ロケットガール』もわるくないけれども
 『クレギオン』こそ作者の持ち味を最大に活かした作品だと思います。
 なぜそうなるかではなく、とりあえずどうするか。
 これからどうなるかではなく、今何をするか。
 それがSF。人生の一面とはそれである。


コバルト文庫、いや女性向けライトノベルで今一番の注目作。
 『嘘つき姫』シリーズ既刊3冊。
 平安時代を舞台にしたミステリー小説。これがみかけと違い良くできているのです。
 特殊舞台でありながらミステリとして納得させる出来である上に
 人物配置の妙によるお話の展開もしっかり少女小説

・なんといっても設定が面白い。
 九条藤原氏の姫君で、目的のために手段を選ばぬ血を脈々と継ぐ馨子。
 御歳芳紀十七、娘が1人。ちい姫の父親候補は3人いて4人で仲良くお付き合い中。
 その乳姉妹で二歳年下、純朴平凡、健康がとりえの庶民育ちである宮子が主人公。
 子持ちがばれたらまずいと馨子の指示で立場を入れ替え
 宮子は姫君代役として宮中に上がることになる。
 そこで起こるは皇子たちなどとの乙女な恋愛模様かと思いきや
 密室のなかで行方不明になる姫君、庭でみつかる謎の他殺死体、
 誰もいないはずの部屋から火の手が、という純ミステリ的事件の数々。宮子真っ青。
 それを十七で子持で今は宮子のお付女房役である名探偵馨子さまがずばっと解決。
 宮子は馨子の指示通り現場を走り回される助手役と相成るのであります。
 なんという展開。


・平安舞台のライトノベルといえば『なんて素敵にジャパネスク』。
 主人公の瑠璃姫は、右大臣家の娘、生粋の姫君。けれど現代的感性のおてんば娘。
 平安時代の常識に現代娘がぶつかる爽快感でお話が動く仕組みですが
 この設定にはやや無理がある。

・瑠璃姫は現代的少女なのですが、元気だけがとりえの馬鹿ではない。
 といってひとを使う能もない。
 何にでも首をつっこむものの、少女の力では何もかもできるわけがなく
 周囲に助けてもらうことになる。それが恋愛要素につながるのですが
 平安時代であるゆえに現代娘の感性にうなづく友人が読者しかありえないため、
 というのはそうでなければ瑠璃姫が主人公になりえないからですが
 助けてくれる相手の心情を、誰からも指摘されることなく
 自ら気付かなければならない。直情径行、元気がとりえの少女であるはずながら。
 そしてそれが常に自然にできることこそ
 実際何もできず事件をかきまわすだけでありながらも
 登場人物にも読者にも好かれる主人公であり得るための資質である。

・何もできないけれど、それを知っていて、けれどそれでも何かをしようとする少女。
 これもひとつの物語を動かすヒロイン像ではありますが
 読者は自身と異なるその視点になりきることは難しい。
 例えば『風の王国』の翠蘭も、瑠璃姫と同じように自身にはできずとも
 ひとを見る目があり、ひとを信じ頼り用いることはできるという人物ですが
 これはひとの上に立つ資質ではあっても
 周囲の人に助けられて成長する過程の少女小説の主人公として読者はみられない。
 彼女に並び付き従う視点こそが読者のものではなかろうか。

・『嘘つき姫』はその少女小説主人公の二面性、
 読者視点の少女とその延長にある理想のありたい女性像を
 親友、幼馴染、妖精などの視点で客観相対視するのではなく
 探偵と助手に分けて、謎解きでお話を動かしている仕組みが面白い。
 大人の女性である切れ者姫君馨子にうまいこと振り回されて
 つまり作者に上手く操られて
 宮子は読者に見せたいミステリの外枠を調べる役として見せられて回り
 その過程で有能で素敵な東宮などに助けられることで恋愛と友情で成長しながら
 一方で事件自体は馨子の手の上で解決する。
 宮子は何もしないのではないが、探偵の解答以上のことは許されずに見ているだけ。
 それこそがミステリの読者視点であるのだから、見ているだけなのに面白く読める。
 上手い。


・読者の常識のない舞台でありながらライトノベル屈指の良くできたミステリであり
 平安朝のもつ既存の印象を損なわずその魅力もしっかり描いている。
 ライトノベルとしての男女人物配置も無理なく皆魅力的。
 少女小説としての筋書きもミステリという軸がしっかりしていてそつがない。
 見事。設定勝ちの面もありますが、とても面白いお話。今後が楽しみです。
 

そこをなんとか 2 (花とゆめCOMICSスペシャル)

そこをなんとか 2 (花とゆめCOMICSスペシャル)

・新米弁護士が主人公。つまり専門職種に関する蘊蓄もの。
 法律のいろいろ。裁判員制度。面白いだけでなく読んでためになる。
 現代プロフェッショナルの現場から未来が見えてくる。
 かどうかはしりませんが。

・ひっかかるところなく丁寧な構成、深刻な題材もからっと明るく仕上げる腕も確かな
 一見普通に良くできたお話なのですが
 この作品の魅力はその、何でもかんでも明る仕上げてしまう偏向にあります。


・作者の描きたい作品は、世間的常識に沿った仕組みを解説することではなく
 それにとらわれない、といって素のままで自分らしくはいられないひとを描くこと。

・主人公は天然です。
 仕事を通して法律に隣り合うさまざまなひとに触れ
 しかしそこに常識的な世間などないことに、驚くくらいの天然です。
 描きたい主点は、非日常の事件にかかわって、普段の自分ではない役柄にある人々。
 けれど実際焦点に描かれれて見えるのは
 平凡であるままにいられない我々自身の姿ではなく
 天然であり、つまり世間一般ではない位置にある主人公が
 そのつかみどころのない個性で事件を眺めて見た絵。
 そこに写るのは平凡でありながら非日常に踊らされて魅力的にも見える人々。
 その構成が上手い。面白い。
 読者が見たいのは自分の望まない姿ではない。
 ひとは見たいと思うものを見たいのだ。


・というように斜に構えてみずに、普通にさっくり読める弁護士ものとして良い出来。
 マンガとして良い出来です。おすすめです。


その他いろいろ

・以上は広くおすすめしたい作品。
 どれも誰もが読んで様々な読み方で楽しめる作品だと思います。

・そして以下は読者を選びそうなもの。と自分が思うもの。
 長くなってきたので適当に。


HELLSING 10 (ヤングキングコミックス)

HELLSING 10 (ヤングキングコミックス)

・2009年は『ヘルシング』最終巻が出た年。
 最後はあっさりですが、大上段に構えて何かを主張するのではない、
 この作品にはふさわしい終わり方。
 本作の魅力は絵の見せ方の巧みさ、すなわち優れたマンガであるということ。
 暗い単純な話を、熱狂する観客が見守る大舞台かのように仕立てる手腕の見事さよ。
 絵の上手いひとなら他にもいる。
 けれどこの話をこの作品のように描けるのはこの作者しかいないのだ。
 新作も楽しみです。


向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

・良くできたホラーミステリ。
 気持ち悪さとミステリトリックの噛み合わせがきれいに決まって上手い。
 ホラーミステリという点で充分ひとを選ぶのですが
 性的な描写は基本ないので興味のある方は挑戦していただきたい。
 『ひぐらしのなく頃に』よりはより広く読みやすいと思います。
 楽しめるかはともかく。


絶対帰還。

絶対帰還。

・やや冗長散漫な記述ながらアメリカンな情熱が好感度大。
 SF好きなら存分に楽しめます。
 国際宇宙ステーションの第6次長期滞在チームに関するノンフィクション。
 ロシア宇宙開発に関する描写等も興味深い。
 けれど「物語」を読みたいひとには構成が悪いと切って捨てられるかも。
 ハリウッド映画だけが、アメリカ作品ではないということで。


θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

・SF仕掛けは面白く、それをライトノベル調に活かす広げ方は良いのですが
 若さゆえの暴走というべきか、お話がつまらない。キャラクター配置がまずい。
 普通に書いても充分受け入れられると思うのですが作者の趣味なのか。
 惜しい。もったいない。
 方向が変われば今後に期待は持てる力の持ち主であります。
 複雑な褒め方だ。


・こちらも今後に期待の新人作家。
 文章、まとめかたがそつなく上手く安心して読めるのですが
 使い古された題材の処理がもうひとつ。
 上に同じくひねらず書けるのも実力と思ってまっとうな話を読んでみたい。
 ライトノベルの枠内では難しいのかもしれませんが。  


皇国の守護者 5 (5) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 5 (5) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

・原作を忠実にマンガ化。もともとの話も仮想戦記ものとして充分に魅力的ですが
 マンガとしての出来もまた素晴らしい。
 マンガ作者には独自の新作を是非望みたいところ。
 原作者のかたには
 完結させないのは完結させることができないと取られて仕方がない、
 と言いたいのですが
 そういう方々に限っておおよそ世間の評など聞く耳を持ちそうにない法則。
 『十二国記』の完結もいつになることやら。


wonder wonderful 下 (レガロシリーズ)

wonder wonderful 下 (レガロシリーズ)

・表紙に描かれている隊長のエリが気になる気になるすごく気になる。
 以下のサイトで発表されている作品が書籍にまとめられたもの。
 therehere http://here.x0.com/there/

・二十代の女性が妹を追って異国へ行き
 風習の違いに戸惑いながらも自身の力でそこに居場所を作り
 人々との絆を作って日常に戻る、というお話。
 つまり往還型ファンタジー構造のお話ですが
 というか映画版『おもひでぽろぽろ』のようなというべきか。
 『夜は短し歩けよ乙女』が男性視点のファンタジーならば
 こちらは女性視点のファンタジーと言えましょう。

・全編主人公主観視点。状況説明も全て主人公によるという独特の様式。
 これを妄想であるとかファンタジーであるとか書くのは自分には荷が重い。
 その主題はどうかというより
 同人作品ながら書籍化されるほど質の高さに注目しての紹介として
 お茶を濁させていただきたい。
 良くできています。どこを面白いかというのは難しいですが。