『信長の野望 天道』

kodamatsukimi2010-04-22


 公式サイト http://www.gamecity.ne.jp/tendou/ 
 360版 ASIN:B0031U0MQ8  PS3版 ASIN:B0031U0MPO

・有名なゲームというだけでなくとも
 知らなくても、およそどのようなものかは想像つくと思いますが
 いちおう説明しますと
 日本の戦国時代を舞台に、一国を支配する「大名」、
 織田信長とか武田信玄とか上杉謙信とか毛利元就とか伊達政宗の立場になって
 武将探して雇ってお金とお米を増やして兵士を集め、隣国に攻め込んで国をぶんどり
 それを繰り返して日本全国統一するゲーム。
 戦国時代は日本以外にもあるのでご注意。

シャーロック・ホームズが名探偵として最初にして最高とか言われるように
 このゲームも最初から、こまかいこというなら何が最初かはいろいろ言えますが、
 戦国時代とか三国志を題材に、ゲームにするならこうにしかならない感じあり、の
 良く出来たゲームでありました。
 戦国時代SLGという枠内でも
 大名に使われる武将の立場になる『太閤立志伝』、
 忍者になって影から戦国を支配する『伊忍道』、
 といったゲームもあって
 この分野の光栄とコーエーさんのお仕事は実際たいしたものである。
 「無双」シリーズだけではなかったのである。いまどうだかはともかく。


・いつのまにやら今回ので13作目。
 昔はパソコン専用ゲームという印象だったのですが、技術の進歩、
 いまや家庭用ゲーム機で遊んでもまったく遜色なし。
 敵軍のターンで待たされる、ということもなく快適に遊べるし
 思えばディスプレイが同じなのだから見た目の差もないわけだ。
 あたりまえのことで、何が驚きなのか理解し難いかたがたも多いと思いますが
 ファミコンの何十倍もするゲーム機専用ゲームであった昔を思うと
 感慨深いものございます。

・さて、10年くらいまえの6作目とか7作目あたりまで遊んでいて
 けれど以来ここのところこのシリーズからわたくし遠ざかっていましたのは
 ゲームとしてそろそろ、他と比べて面白くない、との感があったからであります。
 ゲーム機の性能が倍々で上がり、それを戦国SLGにどう活かすのかとしたときに
 本シリーズに限らないことですが、見た目も中身も現実により近付ける方向、
 情報量をとにかく多く採用し、微に入り細を穿ちで描写する。
 「シミュレーション」、という意味では現実味ますほど良さげではありますが
 「ゲーム」としてはけれど、無意味な情報、掛る時間が増えて、楽しめなくなった。
 そういうように思ったわけです。


・そうしてしばらく経ったのですが
 昨年遊んだ『国取り頭脳バトル 信長の野望』(ASIN:B0017LYY1W)という
 戦国時代を題材にしたボードゲーム風対戦ゲームが
 何でも無双にするしか能がなさそうなメーカー製とは思えないほど良く出来ていて
 とても感心。
  当時の感想 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20090114
 眼を離していた間にコーエーもいつのまにやら改心したのかと
 今回、本家『信長』最新作を手に取ってみた次第。
 昔と違って何十万円もするパソコンでなくとも遊べるし。
 相変わらずゲームソフト単品のお値段は少しお高めですが。

・それで遊んでみたのですが、10年ほども離れていると
 ゲームのほうでなく、遊んでいるこちらのほうがより変わってくる、と思いました。
 戦国時代を舞台にした1人用国取りSLG、という枠にある『信長の野望』は
 こういうものでしかない。
 そうでないものを望むなら他のゲームを遊ぶべきなのか。




・10年くらいまえ、4から7作目あたりのころと13作目の本作を比べて変わったのは
 みためが3D地図で表現されるようになったところと
 ターン制でなくリアルタイム制ふうになったところです。


・まず見ための変化。
 上で書いたように、ゲーム機の性能が上がるごと
 数字で構成されているSLGも、いろいろなように描写できるよう変わってきました。
 以前はひとつの国がひとつのマスで
 隣り合っているマス、つまり国にのみ攻め込める、という描写でしかなかったものが
 ひとつの国に凸凹の地形ができ、通れる道ができ、開墾して田畑を作れる平地ができ
 山がちのマス、国では、平地が少なく田畑があまりつくれず
 けれど道が四方に通じていないので攻め込んでくる国も少ない、というように
 現実味を、見ためでも表現できるようになってきたわけです。
 この国はこの値までしか田畑からの実入りを増やせない、と数値で決められるより
 山が描かれているので開墾できない、というほうがそれっぽい。

・またみためにそれっぽいだけでなく
 ゲーム的に言うとこの要素は、
 戦争ゲーム、例えば『ファミコンウォーズ』でいうところの
 占領すると毎ターン収入が入ってくる都市マスを
 作れる量が、国ごと違うようになり
 さらにそれが数字でなく、地図上に配置されるようになった、ということ。
 城を落とす、その国というマスを奪う、というだけでなく
 その国の収入源だけを奪い合えるようにもなったわけです。
 それが現実味なのかはともかく、ゲーム的にみても面白くなっている。

・城はひとつの国にひとつでなく、3つまで新しく作れます。
 そして自国だけでなく敵国にも作れる。
 軍勢で援護しつつ敵国に築城して、都市マスにあたる収入源をねこそぎ奪えば
 強引に敵城を攻めなくとも敵軍を殲滅しなくとも、勝てる。
 いわゆるひとつの戦わずして勝つ。
 兵を用うるの法は国を全うするを上となし、国を破るはこれに次ぐ。というやつ。

・とはいえ敵に手出しをさせない戦力があるなら普通に攻め落とした方が早いので
 小田原城攻めというより軍勢を移動させる手間を省く小牧山城仕様ではありますが
 ゲームとしてそういうようなことも可能になったというところ、
 ただ無意味に情報量を増やすだけの拡張でなく
 戦争ゲームとして相手に勝つための採り得る手段を
 自然に、手間を増やすことなく、拡げているというところが
 良くなっております。ゲームとして。



・もうひとつ、リアルタイム制ふうというのは
 以前は、ひと月くらいを単位にターンが回ってきて
 行動力とか所属武将の数だけとかの回数、内政とか軍事行動を行い
 待機すると別の国へターンが回り
 全員が行動終了待機すると次のターン、次の月に変わり時間が過ぎる、
 というものであったのが
 ほうっておくと時間が過ぎていくので、待機して時間を止めて、
 所属武将に内政とか軍事の指示をして、待機状態を解除して時間を進める、
 というように変わった、というところ。

・簡単に言うと、RPGとかの素早さが高い順に行動番が回ってくるゲームが
 アクションゲームとかの素早く入力しただけ行動できる、ではなく
 素早さに関係なくいつでも常に行動できるように変わった。
 つまり対戦相手がいない。ターンを回す相手がいない。
 1人用専用ゲームへの変化です。
 みたいなでいうと『シムシティ』とか『A列車で行こう』とかのあれである。


・戦国時代を舞台に国取りゲームを作ろう、と思ったとき
 おおよそほとんどすべてのひとが
 昔の『信長の野望』みたいなゲームを想うでしょう。
 つまり一国の主どうしが国を取り合って対戦するゲーム。
 1人では「国取り」にならないではないか。

・しかし『信長の野望』は、確かに複数人で対戦できるゲームだったのですが
 実際のところは大概、ひとりで遊ぶわけです。
 ゲーム誌で対戦リプレイがおもしろげに描かれても、ひとりで遊ばれたのです。
 なぜか。
 それは全国統一するのにやたら時間かかる仕組みだったから、ということでなく
 遊ぶひとのほうが、戦国時代で対戦ゲームを遊びたいことよりも
 戦国大名として我が手腕で勝って勝って勝ちまくって全国統一したかったからであり
 そしてゲームのほうも、戦国対戦ゲームと戦国英雄RPGを分けていなかったから。
 そういう発想がだれにもなかった。
 どっちつかずだった。

・対戦もできるターン制ではなく、1人用専用に、
 『シムシティ』みたいな自国育成ゲームに変わったことで
 対人対戦のために用意されていた、「現実的」でない、ゲームてきな要素は
 載せる必要なくなって
 1人でそういうことに邪魔されず気を割かれず快適に遊べるようになった。
 そこが現在の『信長』が、昔と違う最も大きなところです。



・戦国国取りSLGでなく、戦国自国育成SLGに変わったことで
 兵士や武将の進行と量のベクトル管理をするゲームになりました。
 計算機の操る敵との戦いに、
 操作のみためでわかる上手さ量というアクションゲームのそれが使えないSLGならば
 対戦結果を納得させるには、もとより武将の能力と兵士の数量しかない。
 それをどれだけ効率的に、どの場所へいつ進行させるかを管理するゲーム。
 究極目標は最短ゲーム内時間での全国制覇。
 一方の武将が敵城を囲んでいると同時に、後方では田畑の開墾を別の武将にさせ
 また同時に別の国にも攻め込むため移動中、ということができるので
 いち行動指示たりともゆるがせにできない数値管理ゲームとして遊べます。

・もちろん数字の上には、おなじみ日本戦国時代の情報が載っているので
 さまざまな自主制限を付けることで
 当時の大名気分を味わうRPGとしても遊ぶことができるでしょう。
 というかそう遊ぶものでありましょう。
 最初のうちは史実にわりと沿って良い気分でも
 勝ち確定の大国あるじになってしまうと作業感ただよいはじめますが
 同盟や降伏勧告で以前よりは勝利条件達成手間が減じているのでなんとかかんとか。

・総じて、戦国SLGのひとつとして
 その遊ばれかたを踏まえ、きちんと改善更新が進んだ良い仕事である。



・そう、戦国時代SLGは『信長の野望』だけではないのが
 以前と違うところなのです。
 いくつかあるなかのひとつ。
 戦国舞台の対人対戦ゲームとしては『戦国大戦』、
 でなくて『国取り頭脳バトル』が名作として鎮座しているし
 戦国国取りSLGRPGとして『戦国ランス』というようなものもある。


・『信長の野望』を遊ぶひとは、どういうゲームを遊びたいのだろうか。
 『ウィザードリィ』のような1人用RPGと、複数人で遊ぶオンラインRPGは違う。
 1人用STG対戦格闘ゲームは違う。
 また『シムシティ』はキャラクター性も物語性も薄いと批判するのも違う。

・『信長の野望』は、
 最初は初期資源から他に抜きんでる位置へ解法を探るパズルゲームとして機能しても
 以降は繰り返し行動で、攻略要素すなわちパズル性のない作業ゲームと化す、
 ということは、その通りだけれど違う。
 それなら『シムシティ』だってそうなのだ。
 求めているものが違うのである。遊びたいゲームと、遊ぶゲームが違っているのだ。
 1人用ゲームで好きなように勝ちたいのに
 対人対戦して半分しか勝てないゲームと文句つけているのに同じ間違いだ。

・『信長の野望』は、SLG、戦国時代シミュレーションゲーム
 戦国大名になって全国統一することができるゲーム。 
 全国統一する効率を追求し、最適解法を攻略していくゲームである。
 しかしその遊ばれ方は
 解法を追及するパズルというだけでなく
 戦国時代の英雄となって物語の主人公になるRPG、として遊ぶことよりより広く
 好きなようにいろいろ数字を操作して、どうなるかみることを遊ぶ種類の
 1人用専用の戦国日本を題材にした自国育成SLGなのである。
 そういう遊ばれ方のもとに、用意されたゲームの仕組みなのだ。



・ゲームが良くなり、自分もいろいろゲームを遊んでいくことで
 ようやくそういうことに気付く。
 昔遊んで面白くなかったゲームにも、そういう勘違いを押しつけてきたのだし
 面白かったゲームにも、自分の理想と妄想を押しつけて楽しんできたのである。
 そういうことに。