RPGの王道を征くは「やりこみ」にあらず


・RPGの王道、ドラゴンクエスト
 ドラクエは「やりこみ」を必要としません。


・レベルがひとつ上がり、ちから、すばやさ、かしこさ、HPなどが
 数ポイント上昇しただけで
 次の戦闘では確実に「強くなった実感」が得られる成長バランス。
 これはドラクエシリーズにおいて、シナリオのみならず
 ゲームバランス、戦闘、成長システム、さまざまなステータスデータ、
 全てをコントロールしている製作者、
 堀井雄二さんがリスペクトしているであろう、
 「ウィザードリィ」そのままの成長システムです。


・「やりこみ」の象徴ともいえる「ウィズ」システムでありながら
 「ドラクエ」は「やりこみ」の苦痛を感じさせない。
 なぜでしょうか。


・「ウィズ」は「マゾゲー」などという言われ方をします。
 ダンジョン奥深くにもぐり、モンスターを斬って斬って
 削って削って、必要なら養殖して数値を積み上げ
 長大な時間と労苦を掛け、磨き上げた自身の分身を堪能する。
 つらい作業があるからこそ、その結果が尊く素晴しいものに感じられる。
 それが現在「やりこみ」といわれるゲームシステムです。

・そのような楽しみ方を支持するゲームプレイヤーも多いでしょう。
 「ウィズ」のシステムをそのままにアレンジした、「BUSINゼロ」はもちろん
 「ファイアーエムブレム」「ディスガイア」なども
 「やりこみ」を体現する作品です。 


・しかし堀井さんは
 「ウィザードリィ」から「ドラゴンクエスト」を作り出すにあたって
 誰もが楽しんでゲームをクリアできる、
 というシステムを選択しました。


・「3」でシステムが完成されて以降の「ドラクエ」は
 難しくありません。

・目的地から目的地へ、周りをみながらふらふら歩き、
 ダンジョンにもぐっても適当に宝箱を回収し
 イベントをクリアすれば、それで充分。

・必要充分のプレイ内に、クリア必須程度の、
 作業にならないよう煩雑さを押さえた
 シンプルな戦闘が挿入されている。

・それこそボタンを押しているだけ
 戦闘後にダメージを回復するくらいのことで
 クリアまで到達してしまいます。

・簡単すぎてかえって作業になってしまいそうですが
 大きくとも数十ポイントの小さい数字によるやりとりは
 それを感じさせません。
 シンプルで簡単であるがゆえに
 没頭せずに演出として眺めていられる。
 「ウィズ」譲りの優れた成長バランスが
 戦闘内容を単調にしない。

 
・やりこまない。
 戦闘を作業にしない。
 誰が遊んでも、引っかかりなく最期まで行けてしまう。
 ロールプレイングゲームの面白さは
 主人公、プレイヤーキャラを自身と同化させて
 架空世界の冒険を体験することであり
 そこに作業は必要ない。

・プレイヤーが作り上げるテーブルトークRPGの世界よりも
 自身のライティングによるシナリオ世界を眺めてもらう方が
 堀井さんの志向するところであり
 テレビゲームにあっていた、といえるでしょう。
 

・それが「ドラゴンクエスト」の選択であり
 ロールプレイングゲームの王道なのです。
 
 

・「やりこみ」とはなんなのか。
 それが作業性を覚悟した成長システムだとしたら
 「ファイナルファンタジー12」を製作する松野泰己さんは
 シミュレーションRPGというジャンルで
 「タクティクスオウガ」という歴史的作品をつくり
 現在の「やりこみ」というジャンルの一端を担ってきた製作者。

・成長システムと戦闘バランスを別に構築してきた
 「邪道」たるRPGの「ファイナルファンタジー」シリーズ最新作で
 どのようなRPGシステムを見せてくれるのか。

・発売は今年夏の予定。(ちょっと伸びるかも。)
 楽しみです。



・ここでいう「やりこみ」と
 短時間クリア、低レベルクリアなどに冠される「やり込み」とは
 まったく別のものです。誤解ないようお願いします。
 後の例の「やり込み」については、
 さまざまな芸術的プレイが公開されており
 いずれ機会をみて取り上げたいと思います。

 (追記 [ゲーム駄文]やり込みとはコロンブスの卵である(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040519#p2
 をご覧ください)