「和風Wizardry純情派」

・今回ご紹介するのはこちらのサイト。


 「和風Wizardry純情派」http://d.hatena.ne.jp/WizDiary/


・タイトルの通りゲーム本。
 「ウィザードリィ」をもとにした小説です。


・内容は
 「現代日本を舞台にした「ウィザードリィ1 狂王の試練場」の恋愛小説」。

・有名なサイトなのでご存知のかたも多いかと思います。
 私も存在は前から知っていたのですが
 ブックマークだけで未読でした。
 字が小さいからと後回しにしていたのです。
 文字サイズを変更すればいいのです。
 「Opera」なら22段階に変更可能なのです。
 なぜ読まないでほうっておいたのかと激しく後悔しています。


・面白いです。
 「ウィザードィ」は一見無味乾燥。
 キャラクターは画面に姿を見せず、喋ることも最期までありません。
 それで恋愛小説。


・舞台は日本、京都。
 比叡山の麓に現れた謎の地下迷宮。
 ダンジョンの探索は自衛隊ではなく
 さまざまな理由から、一般に志願者を募ることに。
 怪物たちが殺意をもって襲い来るその迷宮では
 現代社会の理屈は通用せず、相手を打ち倒さなければこちらがやられる。
 強者だけが生き残れる過酷な世界。

・でも恋愛小説なのです。


現代日本の「Wizardry」世界。
 京都の一角につくられた探索者専用の街「迷宮街」。
 リルガミンの街であるかのような探索者のための街。

・酒場には人々が集い、
 宿屋は馬小屋ならぬ雑魚寝の木賃宿からもちろんロイヤルスイートまで。
 ボルタック商店はないもののスーパーとコンビニが。
 職業は基本4職。「戦士」と「魔術師(魔法使い)」、
 「僧侶」は宗教がないので治療師。「盗賊」は盗むものがないので「罠解除師」。
 もっとも死体からはいろいろいただきますが。

・パーティは前衛戦士3人、後衛その他が一人ずつ。
 属性は善悪でなくタカ派ハト派。日本らしいです。和風です。
 魔法も原作準拠。これは「カルフォ」、これは「マハリト」、
 そして「マラー」もありですか。
 ダンジョンの仕掛けもしっかり「ウィズ」。
 知っているひとにはたまらない描写がそこかしこに。


・「ウィズ」を遊んだことがなくとも楽しめます。
 何しろ「恋愛小説」。
 登場人物たちはその異常な状況にとまどうことなく
 わりと気楽にやっています。

・キャラクターが立っています。
 描写がマンガ的というか
 読んだことはないのですが、この場合ライトノベル的とでもいうのでしょうか
 ちょっとありえないキャラクターではありますが
 そこは非日常。

・彼らは、伝説の英雄でこそないものの
 誰もが物語の主人公であり
 日常に平凡に生きる人々ではなく、変わっているからこそ
 この世界で輝き、そして生き抜く魅力的な人物たちです。


・そして「ウィズ」ですから、登場人物たちは死んでいきます。
 「ウィズ」には蘇生の呪文こそありますが
 同時に復活の機会が失われてしまう事態、「ロスト」がありました。
 「ロスト」の恐ろしさがあるからこその「ウィズ」。
 この世界では魔法はあっても蘇生はできません。
 死んだら蘇ることはない。それが「ウィザードリィ」。
 そして彼らは運命のダイスの指し示すままに、物語から退場していきます。
 

・この物語は主に主人公の日記という形で綴られていきます。
 毎日、日記に溢れるほど書くことがある。
 昨日と同じ今日ではない、そして明日にはもう書くことはできないかもしれない。
 そんな非日常の世界で彼らはどのように生きて抜いていくのか。


・読みましょう。
 祈る気持ちを込めて。彼らがページをめくった先に幸せに暮らしているように。





・本作は「ウィズ」をもとにした2次創作とでもいうべきものでしょうか。
 「ウィズ」はさまざまな形で小説化されていますが
 なかでも以前紹介したスタジオベントスタッフhttp://www.bent.co.jp/)の一員、
 ベニー松山さんのものが出色です。
 ベニー松山さんは’89年に「ウィザードリィのすべて」という本を書かれています。
 これはウィズ「1」「2」を基に
 ゲーム世界のさまざまなことを理論だてて解説する、という
 ユニークな視点の本。

・一例を挙げますと

 HPとは、そのキャラクターがあとどれだけのダメージに耐え得るかを表す数値である。
 言うなれば体力値であるが、この数値がそのまま体力であるという訳ではない。
 (中略)
 同じダメージであっても成長の度合いに反比例して、
 実際に与えている(「受けている」の意か)傷が軽くなっていると考えるほうが自然である。
 (中略)
 HPの数値は、体力の強化はあるにしても、
 (多くには)そのキャラクターの回避能力の習熟度ということになる。
           (同書 86ページより ()内は注釈)

 これは「ウィズ」に限らずHPを採用するあらゆるゲームに通用する考え方といえます。


・「ウィザードリィ」ははじめて日本に広がった本格的なRPG。
 このような調子で「ウィズとは何か」「RPGとはどのようなものか」、
 解説しており、とても面白い読み物となっています。
 また、その考え方をもちいた小説も書かれています。

 「風よ。龍に届いているか」上巻 ISBN:4789301206 下巻 ISBN:4789301214
 「隣り合わせの灰と青春」ISBN:4880634948

・「和風Wizardry純情派」で「ウィズ」に興味をもたれたかたは
 読んでみてはどうでしょうか。
 恋愛小説ではないのですが。


・上記「ウィザードリィのすべて」ISBN:4880636037、同「3」ISBN:4880639621
 どちらも絶版ですが、意外に古本屋のゲーム攻略本コーナーに置かれていたりします。
 探してみましょう。 


・「ウィズ」のゲームを未プレイの方は、
 まずPS、SS、WINで発売されている「リルガミンサーガ」がお勧めです。

 PS版  ASIN:B000069SRC
 SS版  ASIN:B000069SRE
 WIN版 ASIN:B00005REYU(XP未対応)

 この「和風Wizardry純情派」のベースになっている
 「シナリオ1 狂王の試練場」と
 シナリオ2「ダイヤモンドの騎士」シナリオ3「リルガミンの遺産」の3つを収録。
 アレンジも充分にされているのでストレスなく楽しめるでしょう。
 できればオートセーブをするか選択できたり
 ボーナスダンジョンもあるサターン版がおすすめ。
 
 「ウィザードリィ」ではシナリオ1から3がそれぞれ
 いわゆるシリーズ「1」から「3」にあたります。
 「4」「5」が「ニューエイジ オブ リルガミン」にまとめられています。

 PS版  ASIN:B000069SRD
 WIN版 ASIN:B00006ADBO (XP対応)
 
 PCではエレクトロニック・アーツから「8」まで出ています。
 「6」から「8」はかなり別物。
 また外伝4作や、「エンパイア」、アトラスの「BUSIN」などもあり。
 近作でおすすめは昨年12月発売の「エンパイア3」(ASIN:B0000CE7I5)、
 11月の「BUSIN ゼロ」(ASIN:B0000DG17Z)。
 「BUSIN」の方はそのうちベスト版がでるかもしれません。


・ただし、「ウィズ」はとても癖の強いRPGです。
 いうなれば単調です。
 作業的です。
 しかし、小さい石をひとつ、ひとつと積み上げていくような
 RPGの元祖たる、飾り気のないその骨太なシステムを受け入れることができれば
 この物語のように、無限の想像力をもって、
 果てしない魅力的な世界を楽しむことができるでしょう。