07th Expansionサイト「07th Storming Party」http://07th-expansion.net/
・今回のお題は『ひぐらしのなく頃に』。
PCの同人ゲーム。
アドベンチャーゲーム。ノベルゲームです。
・本作には選択肢が一切ありません。
最後まで文字を送り、読み下すだけ。
・それはゲームと呼べるのか否か。
けれども、現時点において、既存のゲームにない独自性があります。
選択肢がないからこそ。
製作者の指定したスクリプトに従い鑑賞するノベルだからこそ。
そこには自ら推理する自由がある。
同人ソフトでしか許されない、未完成のゲーム。
・物語の舞台は「雛見沢村」。5年連続、祭りの日に起きる謎の連続怪死事件。
横溝正史を思わせる寒村の因習、世にも奇妙な物語の如き不条理な演出。
サスペンス、ホラー、ミステリー。
・犯人の正体は、動機は、被害者は誰か、なぜ殺されたのか。
そこに写る影は、知人か友人か、警察か。それとも自分自身の姿なのか。
登場人物によって語られるのは、村の守り神の祟り、
あるいはそれを操る人間の悪意。
・けれど全ての謎は真実を照らす光であり、全てが正しく道を示すとき
そこに答えは導かれる。
・『ひぐらしのなく頃に』は数本のシナリオから成ります。
「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」。
現在製作されているのはこの4本。
謎は読み進めるごとに増すばかり、解決への道は杳として見えません。
解決編が収められるのは次のシナリオから。
現時点で未完成のゲームであり、解答は存在しないのです。
・先に触れたように、本作に選択肢はありません。
4本のシナリオと幾つかのTIPS(ヒント)を順に読んでいくだけ。
悲劇の予兆に主人公が遭遇しようとも避けることは得ず、
ただその惨劇を眺め、傍観し、客観し、体験することしかできません。
プレイヤーに許される行動はシナリオを読み終え、
謎に答えを見出すこと、
真相を暴くこと。それだけがプレイヤーに望まれていることなのです。
・何度も再読し、様々な謎、ヒントから答えを見つけ出す。
この点から見て、とてもよくできています。
・ただ読むだけのゲーム。
それはゲームと呼べるのか。
しかし『ひぐらしのなく頃に』は
本来アドベンチャーゲームが持っていた推理する、という要素を
未完成である、というこの時点においてのみ実現している、
という特殊な例。
・未完成であることは、店頭で売られている普通のゲームには許されないこと。
趣味の延長であることを消費者が理解し、質は求めても
容量に多くを求められることはない、という同人ゲームであるからこそ。
選択肢を用意し、アドベンチャー、推理ゲームの形式を取っていれば
シナリオ構成はプレイヤーの選択の余地を作り出すため崩れざるを得ず、
労力の限られた中で完成させることを優先させれば
質は落ちざるを得ないでしょう。
・プレイヤーに考えさせ、推理の面白さを感じさせるために
アドベンチャーゲームは多数の選択肢、いくつもの結末を用意し
唯一つである真実を、いかに容易にたどり着き難くするか、
そしていかにゲームにするか、と苦心してきました。
・その方法は結局、作者の意図するところが伝わらない多くの場合において
並んだ選択肢を塗りつぶす作業となり
何らゲームの面白さにつながっていなかったのです。
・選択肢総当りシステムは、話の流れを阻害するだけのもの。
物語の面白さを純粋に伝えたい場合、選択肢の重みを下げ
どう進めても話は続き、またいつでもその選択肢に戻ってくることができる、
というノベル形式が、現在のアドベンチャーゲームの主流です。
・謎を解くミステリーである種類のアドベンチャーゲームでは
選択肢が重みを失うことは、すなわちプレイヤーの考える必要をなくすこと。
何も考えなくとも読み進めれば、謎の答えが明らかになり
それだけで幾許かの満足は得ることが出来るのです。
多くのミステリー小説も、読者は考えずに消化するだけ。
奇抜なトリックを用意しなければ印象に残らず、
著者はそれゆえの書き方を余儀なくされています。
・そのような中で特に注目されたのが『逆転裁判』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040605)。
『逆転裁判』は裁判という形式を上手く利用し
謎を細切れに推理させることで
選択肢の総当りという限界を壊していました。
プレイヤーに目の前の問題だけでも考えさせることで
謎を解く喜びを感じさせることに成功したのです。
・本作は、現時点において解答が存在しません。
それゆえに必然的にプレイヤーはそこで立ち止まり考えざるを得ない。
未完成が許される同人ゲームであり、
一切の試行を許さない選択肢のないノベルゲームであるからこそ。
考える条件は同じであり、答えが存在しないゆえに
そこにゲームであることからの縛りがありません。
実に独特。
・もちろん、解答編がともに収録されるようになれば
プレイヤーは考えることなく一緒に読み下すだけであり
そこに従来のゲームとの違いはなく
ミステリー小説、映画と変わりないものになってしまうでしょう。
解答がない現在今だからこそ価値を持つ、未完成のミステリーノベル。
それが2004年夏から冬の間のみ許される、
『ひぐらしのなく頃に』、そこに許される「ゲーム性」なのです。
・アドベンチャーゲームの面白さは、物語を楽しむことと、
自ら答えを見つけること。
選択肢がなく、プレイヤーの介入する余地がなくとも、
間違いなく本作はゲームの面白さを持っているのです。
実に皮肉なことですが、
あるいはここに、アドベンチャーゲームの答えのひとつがあるのかもしれません。
・解答編が姿を表すその前に、あなたはこの謎にたどり着き、
そして答えのない真実を暴くことが出来るでしょうか。
・そして真実の答え、
既存4編に散りばめられた全ての謎にプレイヤー全てを納得させる答えが
解答編に示されるのならば
それはもうゲームではないけれど
『ひぐらしのなく頃に』は
一級のミステリーノベルとして名を残すことになるでしょう。
・サークルサイト、またはベクターから「鬼隠し編」全てをダウンロードし
遊ぶことが出来ます。
ベクターダウンロード『ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編』http://www.vector.co.jp/games/soft/win95/game/se336860.html
・同人ゲーム取扱店で既存4編が収録された
2004年8月13日バージョンが購入できます。
とらのあな「ひぐらしのなく頃に」紹介ページ
http://www.toranoana.jp/mailorder/dojin/040824higurasi/_040824higurasi.html
・本作は性行為描写はなく、いわゆる18禁ソフトではありません。
ではありますが、このまま一般市場で販売するなら
ばおそらく15禁の扱いになるかと思われます。いや18禁かな。
(参考;CERO年齢別レーティング制度 http://www.cero.gr.jp/rating.html)