『ロマンシング サガ -Minstrel Song-』

kodamatsukimi2005-05-22


 PS2 スクウェア・エニックス ’05年4月21日発売 ASIN:B0007P51VQ
 公式サイト http://www.square-enix.co.jp/games/ps2/romasaga/

 攻略サイト;極限攻略データベース http://romasaga.minstrel-song.net/
       2ch攻略まとめデータベース http://www.dream-online21.com/rsms/

・’92年SFCで発売された『サガ』シリーズ4作目『ロマンシング サ・ガ』(ASIN:B000068HD8)、
 通称『ロマサガ1』。『ドラクエ5』『FF5』『天外魔境2』と同じ年。
 ’01年にはワンダースワンカラーにも移植(ASIN:B00014ATUQ)。
 いくつかのイベントとダッシュ機能などを追加したものですが
 いかんせんスワンはクリスタルでも画面がみづらい。
 ちなみに「サ・ガ」から「サガ」に点が抜けて表記変更されたのは
 PSの『サガ フロンティア』からでございます。


・そしてこの度PS2でリメイク。
 「ミンストレルソング」とは「吟遊詩人の歌」。

・見た目は大分様変わり。とくにガラハドさんのあたまのあたり。
 もとい、キャラクターの頭身など元の2Dの味も活かして綺麗に仕上がっています。

・『ロマサガ2』からの「閃き」、『サガフロ1』からの「連携」など
 シリーズの特徴的システムを取り込んで大幅に作り変え。
 シナリオはおおむねそのままですが、イベントやキャラクターの追加、
 そしてダンジョン、技、アイテムなど戦闘システム周りは別物で
 まさに土台から、Re・make、作り直した作品。


・けれどやはり『サガ』。確かに『ロマサガ』です。
 説明不足で壮大なストーリー。
 多彩な要素を盛り込んでバランスが取れていない戦闘システム。
 随所に見られる作り込みの甘さと雄大に広がるゲーム世界。

・有り余る尖った長所と、プレイヤーを突き放す短所と、ゆえに捉えて離さぬその魅力。
 10数年を経ても、何も変わっていない。
 あの頃のスクウェアの持っていた大作RPGの力を
 今、この時代にも見せてくれる作品です。



・『サガ』シリーズはとても難しく、ひとを選ぶ作品です。
 例えばこのような。http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040305

RPGの作法、雑魚敵と戦って経験を積んで成長し
 世界各地に散らばる様々な課題を経ていつか魔王を倒す、というかたちは
 『サガ』では取られていません。
 戦闘による成長でも、ストーリーを構成するエピソードの面でも。


・プレイヤーキャラクターにレベルという明確な指標はなく
 戦闘を繰り返してこちらが成長するごとに、敵もまた強くなっていくシステム。
 次になにをどうすれば良いのか、まるで昔のPCゲームや「洋ゲー」のように
 不親切な物語への導入。
 敵はこちらのHPが数百なのに平気で毎ターン何百とダメージを与えてくるし
 こちらが3桁のダメージを与えるのがやっとであるのに5桁の最大HPを持つ。

・目に見えて、親切な、そう『ドラゴンクエスト』が作り上げて
 『FF』ですら例外でなく、その影響の下に作られてきた日本のRPGの中で
 唯『サガ』はそれに反し、実験的、冒険的なつくりを持つ。



RPGは戦闘で成長します。成長は楽しい。
 しかしともすればそれは作業的でもあります。
 なぜ、「しなければならない」のか、という不満。
 そのストレスが、強くなった実感を味わう喜びにつながるのですが、逆に
 レベルがなく経験値もない。だから戦闘を繰り返して稼ぐ必要はない、とすればどうか。
 敵はダンジョンの中にシンボルとしてプレイヤーに見えて、ただ障害として存在し
 避けながら進んでボス敵さえ倒せば良い。

・これならば「作業」をなくしてテンポ良い展開を楽しめます。
 けれど問題は、成長していないのにどうやって雑魚より強いボスを倒せるのか。
 成長要素を切り捨て、最初から強い、というようにもできましょう。
 アクションやSTGはそうです。STGの自機はその世界最強の存在です。
 
RPGでそのようにもできる。しかし相手より強くボタン連打で倒せるものが面白いのか。
 その答えは、戦闘を能力の高低による力比べではなく「攻略性」を持たせるやり方。
 性能は最初からある。あとは腕次第で勝敗が決まる。

・例えば、火に弱い、魔法に弱いなどの弱点を突くこと。
 敵はこのターンでこう攻撃してくるというパターンを掴むこと。
 攻防の要素を分析し、激しい攻撃をどうやって無力化するのか、
 無尽蔵とも思える体力をいかにして削り取るのか。
 持てる手段を駆使して、どうすれば非力なニンゲンがモンスターを倒せるのか。

・そうしたのが『サガ』の戦闘システムです。


・『サガ』は、「攻略」を充分に楽しむための多彩な戦闘に関する要素を用意しています。
 体術小剣細剣長剣大剣両手剣、刀曲刀片手斧両手斧、衝槍打槍弓杖棍棒、多種類の武器。
 それら各武器系統ごとに用意された様々な効果を持つ技の数々。
 10の属性に分かれた術系統とその2術合成、3術合成。
 さらには「陣形」があり、
 技の習得には「閃き」が必要であり、
 そしてそれらを連続して敵に叩き込む「連携」の成功が不可欠です。

・プレイヤーは持てる知識を駆使して
 レベルアップもしないキャラクターたちを操作する。
 ニンゲンの個々の力など知れているものだが、その持つ知識を重ね合わせると
 それは神をも容易に倒すし、世界をも支配するものと成り得る。


・ゲームとして見れば、そこに気がつかず
 従来のRPG作法に倣い漫然と戦っているのが正しいとするプレイヤーにとって
 あまりにも異常な「しくみ」です。

・さらにバランスもよろしくない。
 一本道でなくレベルもないので調整は難しいでしょうけれども
 それで許容できるほどにも、されているようには見えません。
 敵はあくまで強く、圧倒的多数で避けるも得ず、
 そしてこちらの戦力上昇は一筋縄でない。

・だから『サガ』は理解できず、難しく、そして投げ出される。


・しかし幸運ながら『サガ』は理解された作品でもありました。
 当時のRPGの持つ力と、スクウェアだからこそできた、受け入れられたゲーム。
 幸運な作品です。

・けれど製作者があまりにそれに乗りすぎたともいえるでしょう。
 SFCロマサガ』3作はまだしも、PS『サガフロ』2作はあまりにもったいのない出来。
 『アンリミテッド』は名前の通りさらに突き抜けていたのであれはあれで。
 ベントスタッフによる攻略本がいずれも素晴らしい出来で
 それによってフォローされている面は大きいです。
 最近3作には、攻略本を楽しむために一応ゲームも遊ぶ、となっているなり。
 本末転倒。しっかりしてください。


・『サガ』は解法を見つけるゲーム。「攻略」を必要とするRPG。

・果たして『ドラクエ』は何も考える必要がない、頭を使わなくともクリアできるゲーム。
 けれどもちろん「攻略」することで、よりスムーズに冒険ができて奥深く面白く
 そして同じゲームでありながらガイドブックを見ながらの旅行者とも共存している。
 慣れない旅人も、熟練の解析者も同じく楽しめる素晴らしい作品です。
 それが本当にできているのは『ドラクエ』と、そして『FF』など一部だけ。
 それが優れたRPGといえるでしょう。

・けれど、「攻略」をしなければならないゲームもあって良い。
 それがスクウェアにとって『FF』に対する『サガ』であり、
 RPGにとっては『ドラクエ』に対するスクウェアであったのです。



・『サガ』は戦闘と成長の対になるRPGのもう一つの要素、
 物語でも独自の作法を持っています。
 「ねんがんのアイスソードを てにいれたぞ!」というようなこだわりの台詞回しと
 捻った独自の世界観ももちろんですが、そのつくり自体が独特です。
 それは「フリーシナリオシステム」。

・そこでは物語を作る脚本、シナリオはプレイヤーが配置するもの。
 用意されたイベントをどのキャラクターでいつどの時期に解くか、そして解かないかは
 まったくのプレイヤーの自由。
 ゲームとして目的があるならば、「エンディング」というイベントを見たいならば、
 ただ最期のボスを倒しさえすれば良い。
 他には何も制限がありません。


RPGで表現される物語とは何か。
 『サガ』ではプレイヤーがその世界で、好きなように作り上げるもの。
 ここでこうしたい、私だったらこうするのだ、という役割の上での選択を
 用意された世界という舞台の上でキャラクターという役者に演技させて作りだすもの。

・「フリーシナリオシステム」とは、製作者も認めるように
 名前ほどには自由なものではありません。
 やはり用意されたイベントをこなすのであり、何をするも自由であるのではない。
 けれど、他と異なるのは、その視点の高さ。
 プレイヤーはキャラクターになって物語を体感するのではなく
 世界を俯瞰して、事件をつなぎ合わせてそこにキャラクターを配置する役割。


・繰り返し遊ぶごとに世界が見えてき、そしてそこに自ら物語を作りだす喜び。
 戦闘にも現れている、操作する、操る、SLGのような意識。

RPGの目的はエンディングを見ること、という既存のルールに対し
 『サガ』シリーズは各作品ごと様々な答えを出しています。
 その実験的な姿勢、志向こそが、ルールに対して自由な『サガ』の物語なのです。



・本作『ミンストレルソング』は、何よりも『サガ』です。


・既にレベルシステムを廃していながらもシンプルであったGBの1作目、
 独自の成長方式のメカ、モンスターを取り入れながら抜群の完成度を持つ2作目、
 それらを踏まえて白黒携帯機からスクウェア主戦場SFCに移り
 さらに実験的なシステムを盛り込んだ『ロマサガ1』。そのリメイク。

・前作『アンリミッテッドサガ』であまりにも突き抜けた反動か反省か
 これまでのシステムを贅沢に盛り込んだ集大成ながらもよくまとまっていて
 難易度はシリーズの中では低め。

・「連携」の重要性が、その成功が必須であった
 PS『サガフロンティア』2作に比べて大きく下がり
 敵の行動を属性面で封殺することで容易にクリアできる。   
 歴代でも屈指のゲームバランスを持っています。

・システム上のはまりつまり防止のため、セーブも安全地帯の宿屋でのものと
 メニュー画面からいつでもできるものと、2つに用意されている工夫も良いです。 

・シナリオ面も元があることも大きく、入り口の狭さも改善されていると言えます。
 グラフィックによる演出はさすがスクウェア、それだけで魅力的。
 既に解っていることもあり世界の狭さは感じられますが
 何週としてしまう魅力を充分に持っています。

・例によって作り込みの荒さが目立ちますが
 仕様なのかバグなのかわからないそれも含めて『サガ』の味であり魅力と言うべきか。



・その商業上の置かれた位置からか、あるいは製作者の嗜好からか
 『サガ』はとても実験的、冒険的なRPGです。
 入り口は狭くガイドも不親切。中には強烈な難易度が待ち受けます。
 けれど、それを理解すること、ゲームを解くこと、「攻略」することで
 荒削りながら奥深い魅力を持った作品であることに気付きます。

・ヒトのサガ。ヒトが作りだすSaga。その個性的な物語の魅力と
 それ以上に独創的なシステムを持つRPG『サガ』。
 「攻略」の楽しみを思い出させてくれる、
 RPGの面白さを『ドラクエ』とはまた違って感じさせる作品。



・さて『ミンストレルソング』はベントスタッフを超えたのか。
 どうでしょう。
 けれど、ガイドブックを読んだだけで旅行に行った気になるのは間違いです。
 実際に行って見てこそ。ゲームはそれを遊んでこそのもの。
 本作は確かに、遊ぶべき価値ある作品です。