王道を行かないゲーム

桝田省治印の代表作を順に振り返ってみてみます。



・まず『天外魔境2』(ASIN:B0000ZPTTM)。
 (関連:『天外魔境Ⅱ 卍丸』にみる望ましいリメイクとは http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040508


・『天外2』は王道を行くRPG、いわば『ドラクエ』のようなRPGです。
 固定された英雄たる主人公たちを戦闘で強化し各地を回ってフラグをたて
 ダンジョンの奥に待ち受けるボス敵を倒してイベントをこなす繰り返し。

・既存の作品を実に良く研究してつくられています。
 和風RPGとして『桃太郎伝説』を受けて独自の魅力を持つグラフィック。
 短時間で終わりストレスがなく、シンプルでありながら工夫の余地も保つ戦闘システム。
 5分毎に起こるイベント、1時間区切りで進むストーリーイベントに見られる構成の妙。
 それに関して配置されたイベントに従属して個性的なキャラクター。
 それらを支える、初期CD−ROMゲームでありながら読み込みを感じさせない技術力。

・どれも良作と呼ばれるゲームが持っていて持っているべき要素で
 けれどそれらを全て兼ね備えてしかも高いレベルであるゲームは
 『ドラクエ』のほかにはなかったその時代。
 『FF』も『ロマサガ』も『女神』も『ドラクエ』にないものを探して作られた作品。  

・けれど本作は、PCエンジンを代表する、万人に評価される、
 そして『ドラクエ』を超えることを目して、唯一それを成し遂げた作品といえます。
 複雑な攻略要素でゲームを解くことよりも
 RPG文法をまず確立してその中で遊ぶことをまず目指した『5』までの『ドラゴンクエスト』、
 その今となっては古い形式のRPGの中で
 『天外2』は『ドラクエ3』の上を行ってさらに完成されて欠点のない作品です。


・思いいれが強いと欠点が見えないですが
 話戻してこの項に関して、つまり桝田省治ゲームとして見るならば
 コラムでの解説などからうかがう限り
 好きなようにではなく
 要請通り時代に合わせた王道の大作を作りだすことができる力があった、
 ということです。


・そのゲームのどこまでが誰の力によるものなのか、それは本当にわからないもので
 あるいは当の作っている方々にとっても意見の分かれるところであるかもしれません。

・『天外2』のどこまでが誰の力なのか。
 広井王子さん、ハドソン自体、あるいはアルファシステム岩崎啓眞さん。
 各人各個がそれぞれに関わった作品を追ってみても
 そこに『天外2』のように、つまり優れるべくして優れた作品、というものは見当たりません。
 あえていうならばPCE『エメラルドドラゴン』か。   


・すくなくとも桝田さんは『天外2』の主要メンバーとして製作に関わり
 素晴らしい実績を残したことから、機会があれば大作RPGを作る実力がある、
 さまざまなゲーム要素を取捨選択してまとめあげる、
 という仕事に結果を残した、といえましょう。




・『リンダキューブ』(ASIN:B0000ZPLTU
 公式サイト http://www.alfasystem.net/game/linda/

・惑星ネオケニア各地に散らばった動物たちを回収して箱舟に乗せるゲーム。
 動物たちは凶暴で捕まえる際襲い掛かってくるので
 逃げられないよう、こちらが強くなりすぎてぶっ潰さない程度に押さえつける。
 コブラツイストがつぼ。
 もとい、つまりはモンスター収集。『ポケモン』です。

・『ポケットモンスター』が発売されたのが’96年2月。本作は’95年5月。
 もちろん『ポケモン』は捕まえたモンスターで戦闘する、という点まったく違うゲームで
 『リンダ』はモンスター収集、というより
 動物という名前のお宝収集ゲームと見るべきでしょう。

・集める方法は自由。
 ワナを仕掛けても良し、雇われハンターに任せても良いし
 希少動物を繁殖させ売りさばいてお金を作り、オークションで落としても良い。
 期限までに規定数以上集めれば良し。駄目ならゲームオーバー。
 主人公たちのレベルや能力上昇は、自ら狩って集めるときだけのもので
 エンディングの前に立ちふさがる魔王を倒すためのものではない。


・そのような骨格に特徴として
 『天外2』でも見せた曰く「下世話で猥褻」であるお話をのせ
 3つのシナリオからゲームを多面的に見せる仕掛けを施しています。

・デザインもカナビスこと田中達之さん(ISBN:487031567X)を用いて見事、
 PCエンジン版は粗が目立ちますがアルファシステムによるリメイクの
 PS版『アゲイン』(ASIN:B000069SPZ)とサントラCD付きSS版(ASIN:B000069U1Z)は
 グラフイックの質でなく遊びやすさを追求、読み込みを短くテンポ良く
 そつなくまとめた良作です。

・つまり二兎を追えるほどの技術力がアルファにないということであるよなあ、
 というのはのちのちの感想。


・『リンダ』は探索と戦闘と成長と物語のRPGではなく、効率が全ての宝探しゲーム。
 どちらかといえば『ローグ』、『シレン』、
 その場の出方同様、全体を通した戦略も等価に重要なSLG。 

・そういう、システムを様々な状況下から見せる理解させる作品、というものは
 パズルゲーム以下、多くのゲームにあるもの。
 それを一見RPGで、王道RPG『天外2』ではないもの、として作り出したものが
 本作たるところで、桝田省治の考えるデザインされたゲームでありましょう。


・ちなみに初代『トルネコ』は’93年。
 御大「ローグのパクリ」とおっしゃっていますが
 『リンダ』と『トルネコ』、『ポケモン』をあわせて見て
 やはり落ちるのは『リンダ』でしょう。

・「収集」は『ローグ』ではなく『ウィズ』にも、
 古くからあってどのゲームにも付けやすい普遍的なコンピューターゲームの一要素でしかなく
 そこからそれを駒に戦力にシステムに取り込む『メガテン』『ポケモン』ほどに
 発展がなされていないのが『リンダ』。

・そこで次。




・『俺の屍を越えてゆけ』(ASIN:B00061Q872
 公式サイト http://www.alfasystem.net/game/ore/index.htm

・『ダビスタ』のような『ロマサガ2』のようなRPG

・鬼の呪いを受けて儚く短命、寿命3年以内の一族を操るRPG
 敵を倒して点数を稼ぎ、神々と交神し子孫を作り、世代を超えて能力を上げて行き
 最期に鬼を倒すゲーム。


・独創的なゲームです。
 プレイヤーにとっての戦力である一族構成者たちは素質という能力成長限界があり
 レベルを上げてもそれ以上成長しないし年齢で上がる程度にも制限がある。
 まさに競走馬育成シミュレーション。
 
・違うのは個々の実力が記憶と記録に残って美しき思い出に、だけでなく
 最終目標に向かってひとつずつ積み上げていく要素もあること。

・素質は、点数が高く能力が高い神と交神することで、その子に対し底上げされていく。
 子は成長するまで戦力とならないから、大人の寿命と勘案して
 いつどれだけ点数を使って継続的に戦力を維持し高めていくか、という要素もある。

・倒さなければならない相手とその時期期限に制限がないため
 考えなくとも時間を掛ければクリアはできるが
 より早くクリアするためには壮大な戦略が必要である。というゲーム。

 深く考えて見たい気がするかたへの参考;
 指輪世界/俺の屍を越えてゆけ http://homepage1.nifty.com/~yu/oreshika/index.
 実現上不可能だが理論上可能の境地を目指す方への参考;
 ULTIMAGARDEN掲示板過去ログ http://ultimagarden.net/ealis/ealis_log.cgiの74


・育成SLGです。
 けれどRPGのようである。『リンダ』のように。

・育成SLGということについてはさらに別項に譲るとして
 『俺屍』というゲームの作り方は、一族という単位の戦力を整えるSLGとしてではなく
 最期のボスを倒すRPGでありながら、いままでにないシステムであるもの。
 主人公から子孫に受け継がれていく様々なこと、そこに生まれる物語こそが目的である。
 シナリオライターの書く物語でなくゲームデザインが作りだすドラマが主体である。
 それが桝田省治さんの考える、『天外2』でないRPG
 王道を行かないRPGの形でありましょう。




・まとめです。
 『リンダ』『俺屍』は桝田省治がデザインしたゲームである。
 それはどのようなゲームか。

・既存のゲーム、例えばRPGに求められているものを満たすゲームではなく
 どこにもないもの、
 それを自らデザインして
 そしてそこからデザインしていない何か、作り手が創造しない何かが生み出されるもの。
 
・それがRPGと呼ばれるかSLGであるかは別問題である。