『アルトネリコ』

kodamatsukimi2007-04-18


 公式(音注意)http://ar-tonelico.jp/at_release/ ASIN:B000JDUYTK


・昨年、少し話題になっていたような気がした本作ではありますが
 なにしろ製作はバンプレストと『アトリエ』シリーズのガストである。
 サブタイトルがどこかで聞いたようなこっぱずかしさである。
 あまり期待するほうがどうかと思う。

・と思ったのですけれども
 ベスト版も出ていることだしこれといって他にない、
 ということで遊んでみたのですが、意外に良かった。面白かった。
 昨年のRPG中でも、ある意味において、『FF12』と並ぶ出来かもしれない。
 遊ばず見た目に騙されてはいけない。いやこの場合逆か。



・本作独自のところ、といいますと、戦闘における詩魔法(うたまほう)であります。
 テレビゲーム様式ファンタジー文法でいうならば
 バード、吟遊詩人と召還士の役割を合成したようなもの。
 歌っている間、回復したり強化されたりする詩や
 歌っている時間分が「ため」になって威力が増す攻撃用の詩。

・MPは歌っていなければ1ターン程度で回復するので
 詩魔法に比べればやや攻撃力劣る能力の前衛3人が守る後ろで
 強力な効果であるほど時間単位消費MPが多いため長く歌えない、
 よって長くためられない、という観点で区別された種々から
 短くても強力効果が即時欲しいのか、
 ためてためて一気に殲滅するのか、等々と
 状況に合わせて効果的な詩を選んでいく、というのが要諦となる仕組み。


・1周20時間弱でクリアできる。レベルもさくさく上がります。
 先制攻撃とかがなく、ボス戦闘以外は必ずすぐさま逃げることができ
 そのダンジョンで出てくる敵数は決まっていて、入りなおすまでリセットされないので
 大方の敵から逃げ、ボス戦で苦戦するようなら多少敵を倒してみる、というようでも
 どんどん先に進めてイベントも次々こなしていける。
 単調なダンジョンも駆け抜けられるので気にならない。

・定番アイテム合成、恥ずかしいサブタイトルに恥じないノリのキャラクター周りと
 無駄なく無難に、というよりも
 昔『マリーのアトリエ』がたまたま上手くはまった様を思い出させて
 今へさらに上手くはまったようなでき。
 ようするに、意外と良く出来ているのです。



・詩魔法という軸を据えた戦闘は面白いです。
 いわゆる「バランス」を取ろうとしているようには見えないですけれども
 レベルを多少上げれば力押しが容易にできる、という下地に
 戦闘から逃げるのが苦痛でなく、戦わなくとも先に進めるようにしておくことで
 実は強力なアイテムや装備効果など色々とにかく入れておいた要素へ
 遊び手の技量の方が、勝手に難しさを自動調整する、という
 『ディスガイア』あたりが発明した仕組みのそれで
 これ、欠点は漫然と遊ぶひとに単調であることなのですけれど
 それも詩魔法の使い分けがメリハリを付けています。


・ため攻撃、というのは扱いが難しい。
 速攻撃破のほうが、先を見据えたMP節約観点からも自動回復のボス戦闘においても
 必ずこちらの戦力が上である戦闘に置いては、兵法に限らず
 ゲームの法則であっても常に有効なのであり
 じっくりターンを重ねて戦うほうが有利有用であるものなど
 SRPGの経験値稼ぎくらいしかなかなかろう。

・本作は、そこが間違っていないところがまず正しい。
 長くためれば良いのでなく、最大効果を得る方が優れている、ということを
 獲得スコアやアイテムでしっかり見た目わかりやすく誘導している。

・ため攻撃の面白さというのは、我慢した成果が一気に挙がることではなく
 ターンごとに効果が出る通常の魔法と違い
 数ターン後に放たれることで最大効果が得られるであろう、という先読みにあります。
 敵の残り体力が見え、こちらの攻撃と向こうの攻撃、耐えて削りあって
 あと何手で一気に決める、ようし見切ったこれにて詰み。というそれ。
 基本力押し可能であることで、たまたまのそれが、バランスをとっていなくとも
 まれに発揮されて気持ち良い、という「メリハリ」がある。


・またこれも軽いRPGだからこそ、というのもあります。
 SLGSRPGの様に一手が重くない、重くあってはいけない仕組みの要請だからこそ。
 戦闘は数こなす仕組み。1回ごとの戦いは苦労せずに勝てて、積み重ねて振り返れば
 いつのまにかとても強くなっている。
 1回ごとは簡単に勝てるという軽さが、RPGの特色であり求められている美点。
 一手ごと慎重に打つボス戦闘でも、明確な敗因がないなら勝てなければならない。
 イベントを誰でも見れると言う軽さの保障がRPGの魅力。

・ため攻撃ながら、短時間、1ターンでも効果的なものの方が実は多く
 ためていても、それまでためた分を無駄にすることなく
 いつでも切り替え可能というこのゲームのそれは、RPGの戦闘に対して
 ひとつ発明といって良いほど良く合っている優れた仕組みです。

・過去の実績からして偶然にしか見えないのではありますが
 仕込みは適当でも、仕組みは奥深く明快である。素晴らしい。




・今年のRPGにおける話題作『世界樹の迷宮』は
 仕組みが文句なく出来上がっていても、続編が難しいのではないかと見えます。
 あの規模、あの職業数やスキル、装備アイテムの少なさだからこそ
 上手くバランスが取れているように見えるから。
 いろいろな「やり込み要素」があるわけではなく
 製作者が意図した通りにきちんと調律が取れているからこその安定感、
 居心地の良さ。それは『ウィズ』や『ドラクエ』が積み上げてきた伝統の味わい。


RPGというのは『ドラクエ』や『世界樹』のようには
 わかっていても作れないものである、ようである。
 一方で対し、『FF』のような大作RPGも容易に作れるわけでない。
 ああいう、高い技術が要る見た目の良さ、人海戦術でしかできない容量の効果は
 真似したくても模倣では駄目なものである。


RPGというのはAVG以外、アクションゲーム以外、SLG以外、SRPG以外のものを言う。
 以外だから含みもするけれど、それでない部分がRPGというもの。
 お話があってそれを自由に操作でき、画面のキャラクターを効果的に操作するのが良く
 より良い結果を導く操作が目的であるゲーム。
 AVGでもあり、アクションでもありSLGでもあるけれど、それら以外がRPGというものだ。

・それってつまりどういうものか。
 ゲームでできる色々なことができるゲームである。
 色々できなければ、そうとは言えないものである。
 SRPGのようなものがないものはAVGであってRPGではないし
 ただ能力値の変化で状況が変わるだけではRPGと言いがたい。
 けれど色々できれば、どうあっても良いものである。

・お話があって、その展開を操作でき
 その選択が状況にあわせた最善の操作を良と判定する、
 選択肢より一段多く複雑な模擬実験様式であれば
 それはRPGと定義されうる。


・例えば『暴れん坊プリンセス』(ASIN:B00005S89V)はRPGだっただろうか。
 お話をイベント、舞台の上でキャラクターが会話活劇することで構成し
 その活劇における正義成功勝利が、従前の選択操作によって状況変転し
 より良い操作であるかを判定される、というゲームであるものがRPGであるなら
 雑魚戦闘などなくともそれはRPGである。
 さらにいうと街の中で住人と会話する舞台散策要素は
 AVGの捜査部分よりも必然性の、いや効果の薄い無駄である、ということもできて
 RPGの旅する心地を味わわせること、成長する過程を実感さしめることの筋が
 文法として定まっていないことも見て取れるRPGであるともいえる。


・だからRPGは『ドラクエ』や『FF』である必要はないし
 『テイルズ』や『英雄伝説6』のように昔のままを再生産するを言うのでもないし
 『世界樹』のように、携帯ゲーム機に収めて今様に縮小再構築が唯正しいのでもない。
 そしてオンラインに広がらなくても良い。

・ジャンルのわかりやすいもの以外が大概RPGであるのだから
 なんでもそうなり得るし、特に上手く作らず手間をこれから掛けなくとも
 従来の積み重ねでそれなりのものができるものだと思う。
 

・というのが、『アルトネリコ』の感想であります。
 今までになく新しいわけではない。大作でもない。職人芸の名作でもない。
 けれど過去の文法をなぞっただけではない。

・2006年のRPGで、最高のものは『FF12』であるけれど
 ゲームは最高でなくとも楽しく、RPGは軽くて良く
 だから最高ではなく、中途半端で軽くとも
 『アルトネリコ』はそれに劣らず面白い。
 欠点を削ぎ落とし、長所を高めて画面をきれいにして容量を増やすのでなくとも
 面白いといえるゲームはいくらでもあり得ることを、気付かせてくれる。