『サガ2 秘宝伝説 GODDES OF DESTINY』

kodamatsukimi2009-09-27


 公式サイト(音注意)http://www.square-enix.co.jp/saga2/ ASIN:B001QCY0MU

・白黒だったころのゲームボーイで19年ほど前に発売された同名作品(ASIN:B000069SX3)のリメイク。
 今回のには『ゴッデスオブディスティ二―』、「運命の女神」と副題が付いており
 また『Sa・Ga』が『サガ』と表記変わっているのが大きな違い。
 大きくないか。

・旧作はサガシリーズの中でも指折りに、
 広く多くのひとが遊びやすいわかりやすい作品、という意味で良い出来だったのですが
 今作は、ここは変えなくて良いのかと言いたくなるほどいろいろそのままで
 「連携」要素が加わったことでバランス調整が図られている程度の微変更。
 3D風だし、一見みためはDSでよくある普通のRPGにみえますが
 しかし中身はほとんど昔のまま。
 結果、19年前の『サガ2』を遊んだことがあり、
 以降サガファンであるひとにとっては楽しめる内容といえるのですが
 新規に『ドラクエ9』のあと、何かRPGを遊ぼうと手に取ったひとにとっては駄作。
 何この手抜きなつくりのRPG

・だがそれが『サガ』なのだ、というひとしか相手にしていない尖った困った作品。
 相変わらず『サガ』は『サガ』なのである。さすがさがだ。




・まず驚かされるのが、いまどき許しがたいほど演出が素っ気ないことであります。
 主人公故郷の村には学校ひとつに家4軒。これらそれぞれは仲間の家。
 それ以外何もない。
 ひとびととの会話もこれ以上ないほど簡潔。
 先に進んでいっても変わらず、街の人たちみなすこぶる無愛想であり
 ボス敵とのバトルなどの見せ場もごくごくあっさり。
 「別の世界」に行くとまるきり文化が変容してしまうのですが
 それに関する説明何もなし。なんなのだこれは。
 いまいち救う甲斐ない舞台だな。

・しかし元からそうだったのです。昔はこんなもの。
 19年前の白黒ゲームボーイでは、これが普通だったのである。
 それをそのまま現在の携帯ゲーム機に、多少みためいろ付け置き換えただけなのだ。
 村の建物配置も迷宮のしかけもほぼそのまま。とても原典忠実なリメイクである。


・問題は、現在それで良いのかということなのですが
 ぜんぜんまったくよろしくない。
 なるほど、RPGという仕組みにおいて必要な買い物やお使いイベント上、
 街で行うべきことは、昔果たせていたのだから今も充分果たせるのだし
 旧作になかったマップも付き、イベント発生箇所にしるしも付いていたせりつくせり。
 お話には関係ない、どうでも良い会話を聞く手間はものすごく省けて良いのですが
 それならRPGではなく別の形式にすれば良いのではと思うところである。

・しかしそれでも、これでも良いと思わないのでもないのです。
 他の名前が付いたゲームならば放り投げるところですが
 サガだけに許される。これまでの積み上げが手を止める。これも味。


・19年前の白黒ゲームボーイがそうだっただけでなく
 その後のスーパーファミコン『ロマンシング』3作も
 プレイステーション『フロンティア』2作も
 PS2『アンリミテッド』も『ミンストレルソング』も、サガはみなそうなのだ。
 RPGにおいて、街は買い物をし、先に進む道を示す情報収集の場である。
 それだけでなく、冒険をする主人公ご一行の特別さを
 一般のそうではないひととの対比で描く場でもある。
 主人公たちの活躍の動機であり、成果を感じさせてくれる場でもある。

・しかしRPGとはすべからくそうあるべしでなければならないなどという必要はない。
 ゲームの面白さを構成する場面描写の舞台として、十分たれば良いのだ。
 RPGの面白さとはなにか。それはいろいろである。
 旅する楽しさ。人々との会話。美しい景色。その世界に在るということの楽しさ。
 敵との戦い。敗北の教え。再起の誓い。仲間の助け。確かな勝利。成長の実感。
 けれど、どれもが『ドラクエ』のようになければならないのではなく、
 オンラインゲームでなければならないのではなく、
 作品ごとにいろいろあって良い。あるべきなのである。


・旅先で立ち寄る街で、なにかイベントが起こったりしなければならない理由はない。
 旅の中継点でしかなく、以降一度も立ち寄る必要なくて良い方が
 実はより現実的なのではあるまいか。
 逆に、ゲームを進めるのに必要な分だけ情報と物品が得られるだけなら
 それがゲームというものに充分な現実なのではあるまいか。

・昔の『ゼルダ』も『FF』も、昔と今の『サガ』と同じように
 RPGとしての、冒険する舞台の演出というのは
 それだけあれば十分なものだったのであり
 だから今回のつくりもいつもの『サガ』で、
 ゲームを進める上でなんら不自由を感じないから構いはしないのではありますが、
 しかし、だから良いとは言えない。


・必要十分な最低限を満たしていれば良いとは言えない。
 ゲームの面白さを、本筋と関係ない瑣末な部分が損なってはいけない。
 しかし、マイナスになっていなければ良いのでは在る意味もない。
 街があり、そこに人々が暮らしていて、そこを主人公が通り行き
 それがゲームで描かれる世界であるならば
 それはより豊かである、美しくある、素敵で魅力的であるほうが良いに決まっている。
 冒険を邪魔しない程度であれば良いのではなく
 それをより、なおもっとより際限なく引き立てるべき。

・ゲームをする画面は汚いより綺麗なほうが良く、音は貧しいより豊かな方が良い。
 導入は広く多くのひとにわかりやすく開けている方が良く
 奥行きは深く長く楽しめるものであるほど良い。
 19年前はこれでも良かった。
 しかし『サガ』シリーズがこれまでこういうものだからといって
 本作もまたそうでなければならない、理由にならない。




・ゲームの中身のほうは、先の通りほとんど同じながら
 『サガフロンティア1』から導入された「連携」組み込まれているのが多少の違い。
 「連携」は基本的に、連続する様々な種類の攻撃をひとまとめにすることで
 それぞれ個々単体での効果より、高い効果を与えるものであります。
 1人目が剣で斬ったあと、2人目が魔法でダメージを与える。
 これが「連携」すると、同時に行動が行われ、威力がそれぞれの合計より高くなる。
 シリーズ作品によって、敵の攻撃も連携したり技によってしたりしなかったり
 様々な条件があるのですが
 今作では回数制限があり、条件整うと連携を実行するか選択できる仕組み。
 仲間と連携を何度も行うほど発生率が高まったりする。


・連携の意味あいというのは、主人公チームの攻撃力を上げるためにあります。
 サガシリーズのボス敵は、雑魚敵に比べて格段に強い。
 攻撃手段が多彩な上に、与えてくるダメージはいちいちとても大きいし
 体力も段違いで、いくら攻撃してもなかなか倒せない。
 また、サガシリーズにはレベルというわかりやすい強さの指標が多くの場合なく
 お話の進行度合いやこちらの強さで、雑魚敵やボス敵の強さが変化したりするので
 標的の倒すべきボス敵を、どういう状態になったら倒せるのか判りづらい。
 それが特徴です。

・どうすれば強いと言えるのか。
 その指標は、レベルが高いから、強い武器を持っているからではなく
 このボス敵を倒せたら、それくらいの強さであるということなのです。
 倒すための手段を用意できたら強い。
 敵の攻撃に耐えられるHP、回復手段、防御手段を用意できれば強い。
 そして敵の超大なHPを、攻撃に堪える間に削り切れれば強い。
 『ドラクエ』のようなRPGと異なる、独自の強さ表現。
 それが面白さであり、サガシリーズの特長です。


・敵の攻撃は装備品属性効果や貴重な回復アイテムやLP消費回復などで無理やりしのぐ。
 例えば本作第二世界のボスは、睡眠耐性のあるメカに炎耐性を秘宝で付け
 防具を多めに付ければダメージをほとんど受けなくなります。
 著しく極端な例だと以下の通り。
 スタジオベントスタッフ アルティマニアEX 第1回 『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』HP30のアイシャひとりで最強ボス5体を撃破 http://www.bent.co.jp/main/ex/ex.htm
 この無茶苦茶さが通るのが『サガ』。そういうゲームなのです。

・そして耐えている間に削る手段が連携。連携はボス戦用。
 むりやり敵のダメージに堪えている間に、むりやり敵にダメージを与える手段。
 どうすれば耐えられるか、どうすれば耐えている間に削り切れるか。
 ボス敵は雑魚敵とは桁違いに強いので
 雑魚相手に与えているダメージを桁違いに上昇させなければ倒せない。
 進行上、手に入る武器は同じ。レベルは表示がないので良くわからない。
 では桁違いに攻撃力を上げる手段はなにか。
 仲間の攻撃を連続させることで発生する連携です。

・そういう意味あい、ロマンで出来ているのが
 最初から敵の与えるダメージもこちらの与えるダメージも、
 互いの強さがあるていど判っている『ドラクエ』のようなRPGとの違い。
 敵は桁違いに強く、こちらはゲーム開始時と比べて対して強くないのに
 なぜか勝てる。なぜ勝てる。戦術だ戦略だ。操る俺が上手いのだ。というロマン。
 それがサガ。



・しかしサガシリーズはこの極端な仕組みを、決して上手く活かせているわけではない。
 旧『サガ2』は、『ドラクエ』や『FF』のように時間をかけて鍛える遊び方で楽しめ
 かつ、なお工夫すればより上手く進めるものでしたが
 シリーズ進んで、閃きや連携など様々な要素が順次追加されるにつれ
 それを必ず使いこなさなければ進めないよう、変化しています。

・強力な技を閃いておかなければならない。連携を成功させ続けないと敵が倒せない。
 普通に鍛えているだけでは倒せない。
 他のRPGのようにせっせと雑魚と戦っていても
 自分たちが強くなる以上に敵が強くなるだけで、それでクリアに近づかない。
 シナリオを進める進行次第で、どうしても先に進めない詰まり状態になりかねない。
 強くさせる方向を間違えるとクリアできない状態になる。


・もちろんどのゲームでも、そういう要素はあるわけです。
 『ドラクエ』を全員魔法使い、全員戦士でクリアするのは
 バランスのとれた職業で編成するのに比べて、極端に難しくなるのは当たり前。
 サガシリーズは、レベルや職業や装備や特技といった、強さを表現する指標が
 他のRPGより豊富であり、また一目にわかりにくいものであるというだけで
 まっとうに攻略しようとするなら、クリアできないほど難しいものではない。

・けれど前段の演出があっさりであるのと共通して
 このシリーズは、どうすればより最適の解に近付くかへの導きが不十分なのです。
 前作、前々作と遊んでいればわかってくるけれど
 いきなり初めて遊ぶには不明瞭に過ぎる。素っ気がなさすぎる。



・旧作『サガ2』は以降の多くと異なり、自由度の高くない一本道のお話。
 敵の強さがこちらに合わせて変化したりしないので
 先の通り、普通に『ドラクエ』のように遊んでも楽しめるところが特徴です。

・鍛えた分だけ能力上がる人間、閃きのように技を覚えるエスパー、
 装備だけで能力が決まるメカ、食べる肉だけで能力が決まるモンスターという
 仲間が成長する仕組みの幅広さ。
 そして前作また以降同様、『サガ』独特の端的ゆえに奥深い気がする演出。
 それらが魅力であり、併せて当時として上出来の良いRPGでありました。


・しかし現在からみると、味方の様々な成長種類は
 『サガフロンティア1』に拡大引き継がれており、独自のものではない。
 ゆえに本作、今回のリメイクがサガシリーズにおける意味あいは
 久しぶりのフリーシナリオでないので強くなっておいても良い仕組みと、
 お話と舞台の懐かしさと、
 連携導入で変化の期待される戦闘にあると言えましょう。
 3年置きくらいに出ていたシリーズの、リメイクとはいえひさびさの新作という意味も
 『サガ』ロマン派にとっては大きいですが。
 ちなみに4年前の前作『ミンストレルソング』の感想はこちら。
 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050522


・正直ゲームボーイの旧作は昔過ぎて細かい感じは覚えておらず
 適当な比較はできないですが
 本作は、かなりそのままな印象を受ける作り変えです。
 連携の分だけボスは強くなっている感じですが
 どこでもセーブできるので、少し戻って対策ねればさほど苦労しない。
 戦闘エフェクトキャンセルで雑魚戦もテンポ良く
 街やフィールドのそっけなさ、何もなさは変わらないので
 目標は単純明快、ただボスを倒す程度に強くなるゲーム、という味わいが楽しめます。

・フリーシナリオに合わせて作品全体を把握し、どこからつついていくかというような
 SLGのような大局的、戦略的楽しみという
 サガ近作の常套であった要素はないですが、
 独自過ぎかっ飛び過ぎなサガシリーズ導入として、悪くないのでなかろうか。
 シリーズに慣れ過ぎて、新規のかたの遊び感がよくわかりませんが。
 これでも『ドラクエ』に比べて難しいから難しいのかもしれないし
 できることが限られる分だけ簡単なのかもしれない。 



・『サガ』はRPGとして、『FF』とはまた異なる形で、
 常に主流と違うところにもある面白さを提示してきた作品です。
 それが成功しているとは言えない。
 時代に沿って、申し分なく良い作品といえるのはそれこそ旧『サガ2』くらい。
 他は奥深くあっても、そこまで至る間口を用意できているとは言えないものばかり。
 どれも是非、より良い形に作り直してくれればなお良いのにと思うものばかりです。

・それでも良かったが、それが良いのではないことははっきりしている。
 今回のリメイクも、それでも良いが、これで良いとはいえない作品であります。
 味もそっけもないわけでなく、味わいは深い気がするのですが
 やはり過去の思い入れで、気がさせているだけかもしれない。


・しかしそれでも、『サガ』は面白い。
 RPGの面白さとは一通りでない。
 ゲームの面白さは既存の通りだけではない。
 『サガ』は変だ。他に比べて変わっている。
 しかしそれは良い意味で普通と違う。変化がある。
 常にその時のゲームに合わせ、しかし合わせることを目的とせず変わり続けている。
 それが『サガ』の魅力。出来が悪くとも認めてあげたくなる作品です。