攻略本に望むもの


スタジオベントスタッフhttp://www.bent.co.jp/)の最新刊、
 「ロマンシング サガ -ミンストレルソング- ULTIMANIA」 (ISBN:4757514875)。
 アルティマニアシリーズの一冊として過去のどれよりも厚い672ページ。
 情報量は半端でない。一通り目を通すだけでも一日かかりましたとも。


・その量に負けない質。他に負けないのは量以上にその内容の上質さです。
 メーカーからもらった資料をただ並べるだけではなく
 一度遊べば誰でも書けるようなヒントを並べるのでなく
 対象となるゲームを解いて、理解して書かれている。


・けれど今回のアルティマニア、究極とはいえません。
 『ミンストレルソング』というゲーム全体を解ききってはいない。
 読んで、どのようなゲームであるのか浮かび上がってこない。
 ひとつひとつの要素解析は掘り込まれていても、パート同士相互のまとまりが不十分。
 バラバラです。

・このゲームを遊ぶ人が、この本に対して何を求めているのか。
 それに明確に答えているのか。そこが欠けているように思います。


・個々の要素を分担して解析し、まとめあげる。
 アルティマニアが、攻略本たちが厚くなっていく以上に
 「やりこみ要素」の為、膨らんでいく超大作ゲームたち。

・まして『サガ』はその世界を攻略すること、解くこと解すること、そのことが目標であるゲーム。
 (参考:http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050522
 それによって作られているはずの資料を読んでも、ゲームの中は見えはしない。
 その世界を一冊の本にすることは
 あらゆること全てのことを知っているだけでなく、解っていなければならない。 


・限られた製作時間の中で、何十万ユーザーの誰よりも上にあることを求められる本。
 それがベントスタッフ攻略本の持つブランドです。

・他でもない、ベントだからこそ期待される。
 けれど今回は、やはり他に隔絶して圧倒的に優れているものの
 残念な内容ではありました。




・以前も攻略本について書きました。
 攻略本の存在意義「サガフロンティアアルティマニアhttp://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040305
 「ゲーム批評vol.57」の後半部分 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040627


・一口に攻略本といいますけれども、その内容は昔のように
 ただクリアするための手順を教えてくれるだけのもの、ではありません。

・まだ買っていないひとには
 ゲーム雑誌などへの記事や広告、パブリシティ全般はすべからく、ゲームの紹介。
 買ったひとには
 詰まることなく投げ出すことなく愛想を尽かさないよう満足してもらう手引き。
 そして遊び終えたひとにも
 価値を広げるため、再度そのソフト、あるいは続編関連作に興味を向かわせる副読本。

・設定資料集もブランド価値を保つためであり
 「何々のすべて」「何々のあるきかた」といった遊び方の提案もやはり、
 そのゲームの価値を維持し、次につなげるために必要なもの。


・それが理解されてきてメーカーも力を入れるようになりました。
 一時の売上が目的の関連商品ではない。
 あるいはゲームそのものの価値をも上下することもあるのです。

・20万本近く売れていながら唯一の攻略本が通信販売専用「電撃ガンパレードマーチ」のみ、
 という例などは、メーカーと出版社が作り上げた見事なブランド戦略といえるでしょう。
 (参照 http://web.archive.org/web/20041029184838/www.dengekionline.com/magazine/dps/gpm/gpm_tuuhan.htm



・来月にようやく第3集(ISBN:4757724063http://www.enterbrain.co.jp/jp/p_catalog/book/2005/4-7577-2406-3.html
 が出る、ゲーム関連書籍中の名著「ゲームの話をしよう 第2集」( ISBN:475770173X)で
 シービーズプロジェクト(http://www.cbsproject.co.jp/)代表、成沢大輔さんは
 『蒼天の白き神の座』の攻略本に関して、以下のように言われています。

 以下引用部分、(成沢)が成沢大輔さん、(永田)が永田泰大さんです。

 (成沢)この本がなければこのゲームの楽しさがわかんなかったかもしれない。
 (永田)あー、把握できなくて。
 (成沢)わからなすぎるんですよね。敷居が高くって。
     だから僕、このゲームを人に勧めるときは、この本をいっしょに勧めるんですよ。
 (永田)……それはどうなんですかね。
     ちょっと話はズレるのかもしれないけど、ゲームとしては――。
 (成沢)僕は、ありだと思います。
  中略
 (成沢)シミュレーションゲームで、答えはあるんだけれどもプロセスは無限にあるようなゲームは、
     本を見ながらのほうがむしろおもしろいんですよ。

・成沢さんは競馬フリーク、『ダービースタリオン』関係でも多数の本を出していることもあって
 上のような意見があるのだと思います。


・『蒼天』(ASIN:B00005OVMQ)は今は無きパンドラボックスhttp://web.archive.org/web/*/http://www.pandorabox.co.jp/index.html
 の作品。他に類を見ない登山シミュレーション。
 ソートができない、編成時個人情報が見れないなど若干の不備はあるものの
 細やかに作り上げられた名作です。

・簡単すぎて攻略本などまるで必要のないゲームですが、まあそれはおいて、
 例えば『ダビスタ』は攻略本を見ながら遊んだ方がよいか。
 これは確かにそうでしょう。
 ゲーム画面の情報表示がどうこうではなく
 もうひとつの情報参照元としてのデータブックが手元にあればより楽しめるゲームです。


・「攻略本」とは何か。
 上の引用で言われる「攻略本」とは、そのゲームの「答え」が載っているものではない。
 『ダビスタ』でいうならば最強馬のつくりかたが必要なのではなく
 そのために参照するデータをゲームの外に補うもの。
 ゲームをより楽しむためのもの。

・攻略とは何か。ゲームを解くこと。「答え」を見つけること。


・けれど、遊び手が「攻略本」求めるものは「答え」なのではないか。

・最強の馬を作ることが目的のゲームであるならば、その作り方がゲームという勝負の答え。
 それを知ること。誰よりも早く誰にでも勝てる方法を知ること。
 攻略本に隠された「ゲームの答え」を、求めているのではないだろうか。


・前々回(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050712)、
 『天外3』について私はこのように書きました。 

 攻略本片手に最短フローチャート通りにイベントをこなしダンジョンを駆け抜け
 装備アイテムもアビリティ習得計画もボス戦の戦術想定すら
 ゲーム上でなく攻略本の上で考え抜いて無駄を省けば
 普通に面白い。充分に面白い。今年遊んだRPGで一番面白い。

 けれどそうすれば、そうすることが許されるのならば、そのようにゲームを見るのならば
 大概のゲームは面白いといえるのではないか。
 いままで駄目なゲームとしてきたゲームは本当に面白くなかったのか。
 いままで面白いと思ってきたゲームは本当に面白かったのか。

・『天外3』は攻略本を見て遊ぶと面白いゲームでした。
 冗長なつくりの悪いところを事前に知って、極力避けるようにする。そうすれば楽しめる。

・面白い。楽しい。確かに楽しい。
 けれど、「それはゲームとしてどうなのか」。


・ゲームの面白さと、遊び手がゲームに求めている面白さは必ずしも一致しない。
 突き抜けて駄目な映画がその駄目なところを笑って楽しめるように
 製作者が意図するところでない遊び方でも、それが遊び手にとって楽しいのならば
 それで良い。
 と、言えるのか。


・言えます。それで良い。
 ゲームは面白ければそれで良い。
 それがゲームでないもの、攻略本を読んでいるときも、それが楽しければそれで良い。

・攻略本がなければ面白くないゲーム、確かに駄目なゲームであるけれども
 見れば面白いのならば、そう、その面白さに嘘も本当もない。

・「答え」を知ることで楽しみが削がれるとも言えない。
 どのような遊び方でも、面白ければそれで価値をもつのだから。
 ゲームに面白いか否かを決めるのは、その結果を受けるのは自分なのだから。



・「攻略本」とは何か。
 ゲームの中にある世界を紹介し、端から端まで案内し、そして全てを解説すること。
 時には、ゲーム自身の評価をも変え得る、ゲームを形作る重要な要素のひとつ。 

・そして、それだけでなく、読んで面白いもの、
 ゲームと同等、それ以上に面白いものであっても何も問題はない。


・「攻略本」を読み楽しむこともまた、ゲームの一部である。

・そのゲームに興味を持たせ
 そのゲームの面白さが解るように道を示し
 その面白さを長く保つように働き掛けて
 さらになお、読んで面白いもの。
 であればこそ、その扱う対象にも興味を持つのだから。 

・それはゲーム自体の面白さを、さらに広げ深めるものである。


・それら全てが「攻略本」には望まれている。
 難しいことではない。原作よりも面白いものを作ればよいのです。


・そしてそういう本、ゲームより楽しい攻略本はたくさんあります。
 良いことです。

・もっともその多くは原作が『天外3』のようであるのですが。
 
 (12:54 2005/07/27 コメントを受けて一部書き改めました)