『それは「ポン」から始まった』

kodamatsukimi2006-02-07


 紹介ページ http://www.ampress.co.jp/pr_flyer.htm
  (アミューズメント通信社 http://www.ampress.co.jp/index.htm
  ISBN:4990251202

・「NGM」(http://d.hatena.ne.jp/msrkb/20060119)の紹介を見て購入してみました。


・\3,500。530ページ。
 『ゲームマシン』というアーケードゲーム業界専門誌を発行している専門社による、
 まさにゲーム「専門書」。大学授業に教授自筆本を買わされるかんじ。

・しかし読んで面白い本です。
 ゲーマーなら文句なしに読むべしの勢いで一気に読めますよ素晴らしい。
 いやはやよりもっと分厚く読ませるべきだという美味しい本。
 類する本で言うとセガアーケードゲームヒストリー (ISBN:4757707908)の
 時事解説記事を読むに近い。
 それをより幅広く採ったもの。勉強になります。
 ただし、初版校正は岩波にでも頼んで欲しい程に目を当てられないのが玉に瑕。




・内容は「アーケードゲームからみたゲームの歴史」本。
 電源を使わない機械式ピンボールから
 マンハッタン計画に参加したヒギンボーサム博士による
 ミサイル弾道計算コンピューターを使ったピンポンゲーム、
 マサチューセッツ工科大学の鑽孔紙テーププログラムゲームにビルゲイツの陰、
 といったNHK「新電子立国」等のドキュメンタリーに出てくるような
 伝説級、歴史的事実レベルから話が始まるであります。

・「「ポン」から始まった」というタイトルなのに『ポン』が開発されるまで80ページ。
 ちなみに『スト2』が出てくるのは530P中407Pからなので最近の話題は推して知るべし。


・続いてアタリ創始者、この前日本にも来ていた(http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20051202/diec_01.htm)、
 「妖怪」ノーラン・ブッシュネルとアタリの活躍に移ります。
 アタリというと笑いの種にしかならない「ジャガー」「リンクス」を出したメーカーとか
 メガドライブ周りで有名なテンゲンアメリカ本社であるとか
 『謎のゲーム魔境』(ISBN:4860320123)辺りに影響された「アタリショック」メーカー、
 いや実はアタリショックはなかったらしい(http://d.hatena.ne.jp/hally/20040514)、
 などなど今の日本ゲーマーには何だか良く分らない謎メーカーであるわけですが
 この本によると、初期のビデオゲームをまさに創り上げた存在であり
 またその後も紆余曲折あった中小メーカーながら
 アメリアーケードゲーム市場でこだわりのゲームを作っていた
 実に格好良いメーカーであったらしいのです。

・知らなかったです。『ガントレット』『マーブルマッドネス』は分るけれど
 『ミサイルコマンド』『テンペスト』あたりまさに伝説ゲームですから。アタリ伝説。


・日本のゲームメーカーも創世記、もとい創成期黎明期からの歴史が追えます。
 タイトー初代会長からの堅実商売振りとか
 悪名高いアルゼの前身はえらく地味な名前であるなとか
 ミッチェルの出自はそこにあったのかとか
 ナナオとアイレムカプコンの関係であるとか
 デコやADKの華々しい活躍であるとか
 セガ中山隼雄さんの頭髪が気に、いやいや清濁併せ呑む大物振りが凄いとか
 573会長が893と言われる訳であるとか。

・もちろん山内御大「遊びにパテントはない」もしっかり収録。
 偉大すぎる先人達の武勇伝が眩し過ぎ面白素晴らしい。



・後半はゲームを巡る法律周りについて、多くのページが割かれています。
 これがまた読ませる内容、実に興味深い。

・アーケードでの風営法の成立過程の問題に始まり
 「新電子立国」で印象深かったコイル氏事件でセガ大量に賠償金取られるも
 任天堂は手際良く和解、
 テトリス特許、ソビエト社会、パジトノフ博士とBPS、そしてアタリとセガの不良在庫。
 見事出し抜く華麗なる任天堂法務担当者の仕事振りに
 唯一の失点「ゲームジーニー」裁判があるからこそのプロアクションリプレイであるとか、
 ところが日本では『ときメモ』でまったく逆の判断が出ている、
 でも『三国志』は良いのか『無双』ならどうなのだろう、とか
 その駄目な日本最高裁に対し、
 以前話題になったWindows上で走るプレイステーションエミュレーター裁判の経緯における
 リバースエンジニアリング辺りのアメリカ裁判所の格好良さは
 セガに対するそれと随分対処が違うものよ、とか。

・『ときメモ』裁判を受けてもプロアクションリプレイが問題とならないのは
 天下の任天堂が既に負けているからか。しかし日本で同じ判決が出るかも分らないし
 二次著作物を記録できる形態はまた「ゲームージーニー」と違うようにも思える。
 なぜ訴えないのだろう。不思議だ。


・特に、一連の中古販売禁止訴訟において
 アーケードゲーム形態がまったく留意されていなかった、
 という指摘はなるほどです。
 中古ゲームを私的でなく使用して利益を得た場合、風営法でなくて問題となるか。

・この件でセガナムコは表に出た印象がないし任天堂は噛んでいなかったけれど
 中古販売禁止マークはどこも付けていたし。
 著作権を巡る大手メーカーの態度は確かに問題ある。

・これをまとめる最終章での総括文は、まこと名文で実に素晴らしい。 





・というわけで大変面白い本であるのですが
 P411、11行目「先頭」やP469、1行目「GB用『たまごっち』1,000万本」など
 そういう間違いでなく
 感じた欠点を挙げておきますと、
 全体の構成が悪く、話が前後しすぎてかなり見通しが利きづらい。
 これはかなり悪いです。


アメリカのピンボール時代からのメーカーとアタリの動向、日本のメーカー、法律問題、
 これが混ざり合っておりまして、章が変わるたびに話が飛んで行方知れず。
 章自体の区切りも大雑把で
 「米国メーカーの衰退」という章に日本のメーカーについて書かれていたり。
 時代区分ごとに分けたのでしょうけれど
 結果として目次を見てもどこに何が書かれているか分りづらい。
 アメリカメーカーが後半略称で出て来たとき
 そこでは何というメーカーなのかについて説明がまったくなく
 何について書かれているのかわからない、という箇所が多数あります。


・家庭用機の動向は前提知識として切り捨てるか、コラムや脚注という形に留めて
 時代を追ったアーケードゲームの歴史、
 補記として各メーカーの製作作品とその動向、
 分章、アーケードのゲーミング機との別、風営法問題、ゲーム著作権をめぐる問題、
 という3つに並べ替えた方が良いのでは。
 ゲームソフト自体の中身差異についてはあまり筆を及ばされないようですし。

・他には最近のアーケードゲームを語るに外せないプレイヤーデータ記録カードと
 風営法の絡みについて、言及が欲しかった。
 またメダルゲームについても触れている箇所が少なかったので
 解説読みたいところであります。



・最期に重箱の隅。
 これは校正の問題でありますが、文章が変で気になる点見受けられます。

・例えば、P334最期の2行
 「そこで、ナムコアタリゲームズ社の経営権を買い取るための交渉が開始された。」
 から読んでいきます。
 次の文節まで読み終わりました。
 変。凄く変。
 「交渉が開始され」ているのにその結論がどこにも書かないまま話が飛んでいます。

・P324の「挙証責任と説明責任」という段落の最初の一文。
 これも変。もちろんP10「まえがき」の「しかし」で始まる文も変です。

・そして全体に言えることですが
 事実を列記して行く中に突然著者の主張が挿入されているのはかなり違和感あります。
 これらは間違いなく校正の問題。
 良い本であるのにこのような間違いがあると、細かいところほど気になる私とって
 読む気が削がれがち。是非版を改める際に修正して欲しい。
 あと、「あとがき」にある、
 「別にすることにした」業務用TVゲームのメーカー別全タイトルリストは
 「どこに」別にしたのでしょうか。
 訂正してお詫びいたします、のひとはいつお詫びしてくれるのか問題。



・何か、素人が偉そうに文句を付けまくっておりますが
 感想です。書評ではないです。この本がゲーム業界にどのような影響を与えて行くか、
 など私の知ったことではございません。

・ただゲーム好きのゲーマーとして
 TVゲームに無限の可能性があるならば、それは作り手や業界関係者だけでなく
 それを楽しむ私の手にもまた、かかっているであろうと思います。

・そして同時に、そんなことに関係なく、ゲームは面白いから遊ぶのであり
 良いゲームかどうかではなく面白いかどうかであって
 本もまた、それを読んで面白いかどうか、という見方で
 思うところ色々書いてみたりするのが、このサイトでありますよ。