『トルネコの大冒険3』

 PS2 チュンソフト/マトリックスhttp://www.matrixsoft.co.jp/
 ’02年10月31日発売 ASIN:B00006IUE6
 公式サイト http://www.chunsoft.co.jp/game/torneco3/

・正式タイトルは
 『ドラゴンクエスト・キャラクターズ トルネコの大冒険3 〜不思議のダンジョン〜』
 長い。



・まずこちらをお読みくださいませ。これを前提としての今回の内容となりますので。
 完成されたゲーム「不思議のダンジョン」 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040917


・先月末、ドワンゴの子会社となることが発表されたチュンソフト
 (ゲームウォッチ記事 http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050331/dwango.htm
 やはり『金八先生』が売れなかったのが痛かったのか。
 携帯アプリ屋「ごとき」に……とか言いたくなるところですが
 ケイブなどもそうであり。「マニア受け」は商売と別物です。

・同じことを言うならゲームアーツもそうですが、もうほとんどどうでも良いです。
 と言いつつも『グランディア3』には、ほんの少し期待してしまうのであります。



・初めに「不思議のダンジョン」ファンとして書いておきますと
 本作は『トルネコ1』の次に微妙な作品です。


・シリーズの流れは以下の通り。
 『トルネコの大冒険』 SFC ’93/9/19
 『風来のシレン』   SFC ’95/12/1
 『シレンGB』     GB ’96/11/22
 『トルネコの大冒険2』 PS ’99/9/15
           (GBA ’01/12/20)
 『風来のシレン2』  N64 ’00/9/27
 『風来のシレンGB2』GBC ’01/7/27
 『女剣士アスカ見参!』 DC ’02/2/7
           (WIN ’02/12/20)
 『トルネコの大冒険3』PS2 ’02/10/31
           (GBA ’04/6/24)
 『風来のシレン月影村の怪物〜』(シレンGBのPC移植)
            WIN ’02/12/20

・ローグから作り出されたチュンソフトオリジナルゲーム「不思議のダンジョン」。
 シリーズに共通しているのは、操作性、ロード時間、視認性の良いグラフィックなどの
 ゲームの土台となる部分がしっかりと作られていることです。
 このあたりこそが「チュンソフトブランド」の中心と言えるもの。
 そこをおろそかにするメーカーのなんと多いことよ。


・各作品についてみていきます。
 最初の『トルネコの大冒険』はまだ試行段階。
 ダンジョンは「ちょっと」「ふつう」「もっと」の3種類。システムの確認段階。
 2作目『風来のシレン』からが本格的スタート。
 アイテム合成、ドロボウや肉ダンジョン、ワナダンジョン、「フェイの問題」と
 ここで「不思議のダンジョン」というジャンルが確立された内容。
 そのGB移植が『風来のシレンGB 月影村の怪物』。

・ここまでが初期。まだ荒削りな面が目立ち、初心者が遊ぶには少し辛い面もあり。 


・次3作で本来の実力を発揮します。

・『トルネコの大冒険2』。
 「戦士」「魔法使い」という職業スキル。
 「試練の館」「井戸のダンジョン」のチャレンジステージ。
 これらの遊びのバリエーションは
 『シレン1』で出来上がっていたかに見えたゲームシステムを大きく広げるもの。
 以後に大きくつながっています。

・『風来のシレン2 〜鬼襲来!シレン城!〜』。通称『64シレン』。
 「2」を冠するにふさわしい作品。
 『トルネコ2』での実験を織り込んで幅の広がったシステム。
 3Dとなったグラフィックもそつなく、初心者向けのフォローも押し付けがましくなく。
 印合成が容易にできるなど、難易度の幅も広め。
 今遊んでも充分に面白いです。

・『風来のシレンGB2 〜砂漠の魔城〜』
 「シレン」GBC対応版という側面ではあるものの
 「肉」「ワナ」「壷」「武器」の各ダンジョンと遊び応え十分。
 GBAに移植するなら『トルネコ』よりこちらであるべきだったかも。
 お竜さんのファションにはあえて何も申しますまい。


・そしてDCでセガから発売されたのが「外伝アスカ」。
 正式名称は『不思議のダンジョン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参!』
 過去にも書いているように、従来の様々な要素をまとめ上げ
 それでいて絶妙のバランスを誇るシリーズ最高傑作。
 いまだに私はPC版で週に一度は潜っています。
 ディスクトレイには本作が入れっぱなし。
 ネバーランドカンパニーは本当に凄い。なぜにそれほどに優秀なのかとても謎です。


・そして同じ年にこちらはチュンソフト製としてPS2で発売されたのが『トルネコ3』。
 スタッフインタビューなどで予告されていた通り大幅にシステムを変更してきました。
 ダンジョンから出てもレベルが下がらない。
 「不思議のダンジョン」というゲームを根底からひっくり返す大変更です。


・ちなみに『トルネコ2』『3』のGBAへの移植は、ほとんどそのまま。
 GBAの性能の高さか、もとがもとか。
 もっともあまり携帯向きの内容には思えないのですが。



・「不思議のダンジョン」では、入ったダンジョンから出てくるごとレベルが1に戻ります。
 そういうゲーム。
 経験値の蓄積はない。時間をかければいつかはクリアできるゲームではない。


・ダンジョンに入る、その1回ごと、いかに効率よく物事を運べるか。
 空腹というターン制限に追われつつ
 アイテムを拾って識別して装備して自分を強化したり敵を弱体化無力化したりし
 倒せる敵を倒してレベルを上げ、でなければ逃げて、できるだけ奥深く進む。
 行動はリアルタイムでなくターン方式。1アクションで敵も同じく1アクション。
 次のターンで何をすべきか。次の次のターンのために何をしておくべきか。
 次の次の次の次のターンのその先にある次の段階に向けて今、どの手順を採るべきか。


・このRPGとは言えない、他の一般的RPGとは違う
 蓄積が目に見えて残らないシステムは好き嫌いを呼ぶところです。
 評判の高さに1度手を触れてみたものの
 難しくて最初のテーブルマウンテンもクリアできない、
 同じことの繰り返しで飽きる、
 1度の失敗で全てが元の木阿弥に帰するのは納得いかない、自分には合わない。
 と感じてしまうひとも多い。
 

・完成度を高め、純度を上げるごとに
 振り落とされていくひとがいるのも仕方のないことかもしれません。
 やがて「不思議のダンジョン」も対戦格闘やSTGのようなマニア向けになるのでしょうか。
 

・もうなってますか。



・さて「不思議のダンジョン」というものは、RPGでないのならば
 どのようなゲームなのか。
 一手ごとの選択が重要なゲーム。
 先の先を見通す必要があるゲーム。 

・前回書いたSLG『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』。
 これもそのようなゲームです。
 一方でこのほど最新作が出たばかり、
 同じインテリジェントシステムズの看板作品『ファイアーエムブレム』はSRPG。
 その違いはどのようなものか。
 SLGとSRPGの違いは何か。何がRPGか。「不思議のダンジョン」は何か。


・この2つの違いは2つあります。キャラクターと成長要素。

・『エムブレム』はユニットが駒でなく、それぞれに背景をもったキャラクター。
 個性があり、他とのつながりがあり、そしてひとたび失われば戻ってはこない。

・そして成長要素。
 『ウォーズ』のユニットは資金を使い工場で生産される。いくらでも生み出される。
 『エムブレム』のキャラクターはそれただ1体のみ。
 その代わりに成長していく。そこに物語をつくりだす。

・キャラクターの持つ背景世界にストーリーが生まれ、彼らはそこに役割を演じる。
 成長、戦闘、勝利と友情。
 ステージはひとつで完結せず、つながりあって英雄伝説という歴史をつくる。


・行うべきことは同じです。いかにして目の前のこの戦いに勝利するべきか。
 けれど、キャラクターを失わないため、成長させるために、
 2つの間には違いが生まれます。
 
・いくらでも生産可能、経験を積ませて成長させる必要がない。
 すなわち、ユニットを失うことを恐れる必要がない『ウォーズ』では
 1つのユニットを囮にして見捨てるのも戦術の内。
 安価で生産可能な、例えば歩兵ユニットを大量展開して波状攻撃するのも有効なやりかた。
 『エムブレム』では取れない方法です。

・けれどそれで、『エムブレム』がガチガチに守りを固めた
 比してつまらない戦いとなるわけではない。
 ユニットは敵を倒して成長していく。
 性能を変化向上させて行き、全体の戦力構成を常に流動的なものとする。
 どちらが優位なのか、ひとめに判断できぬ奥深さ。

・また成長はマップ、ステージを超えてストーリーの上に共有化される。
 エンディングまでの全ての戦いが大きな戦略のひとパーツ。 


・『ウォーズ』はユニットが駒であることでの戦術の自由さ。
 次へと引き継がれる要素が何もないゆえの、戦術シミュレーション。
 『エムブレム』はユニットがキャラクターであることでの戦略の奥深さ。
 次の次へと続く要素のつながりが作り出す、戦略シミュレーション。
 (関連;「SRPGの戦術と戦略」 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040728



・「不思議のダンジョン」はSLG、SRPGどちらなのでしょうか。
 戦術が主なのか、戦略が重要なのか。
 ジャンル分けなど便宜上のものでしかありませんが、あえて示すならば
 戦略SLGであるといえるでしょう。


・確かにダンジョンから出れば基本的に継続されるものはない。
 けれど、そのダンジョンをクリアする過程では、長期的戦略的に振舞わなければなりません。
 先を見越してレベル装備所持アイテムを整えておく戦略性。

・一方で戦術面が劣る、つまり力任せに進めるわけでもありません。
 蓄え積み重ねてきた戦力はけれど、活用、戦術を一手誤れば無に帰する。
 最初のフロアの1手目から最期の最期まで全ての局面において、戦力から来る絶対はない。


・成長はそのダンジョン、そのキャンペーンマップでのみ完結するもの。
 SLGのステージマップひとつが、ひとつのダンジョンであり
 その中で戦力の変化は起こり、また単騎であることから成長性が強調されて
 よって戦術と同程度それ以上に戦略性が重視されるSLG。
 それが「不思議のダンジョン」というゲーム。
 RPGでなくSRPGでもなく戦略SLG。




・『トルネコ3』は従来の「不思議のダンジョン」とは違います。
 レベルが下がらないことでどう変わるのか。


・製作者が狙った本作の新たな面白さは感じることができます。

・「不思議のダンジョン」シリーズは
 次を考えたこの1手の積み重ね、となるべく作られたゲーム。
 けれど完全にそうではありません。

・「シレン」は成長する。そのダンジョンの中だけだけれどもレベルアップする。
 様々に制限は科せられているけれども、成長の楽しさも味わえて削がないために
 成長することによって戦術を考えずに、力任せにある程度進んで行くこともできる。 
 それもダンジョン内で完結する戦略性の内であるとして。


・『トルネコ3』はレベルが下がらない、つまりなかなか上がらない。

・となれば、そのダンジョンに始めて到達した時期には
 常に同程度のレベルであるように調整できる。

・さすれば、そのレベルごとの実力、戦略的に積み重ねてきた戦力に左右されることなく
 従来「不思議のダンジョン」で作り上げられてきた戦術パターン、
 SLGとしての戦術活用を重視した面白さをこそ
 前面に出して構成することができるのではないか。


・「井戸のダンジョン」いや、「フェイの問題」「詰めシレン」のように
 状況に即応した思考パズルの面白さを積み重ねて行くゲームに
 成長が蓄積されるRPGという見た目を持つシステムでこそ成立させ得るのではないか。



・これはある程度において成功しているといえるでしょう。
 面白さは感じられます。
 けれど全体を通してみれば明らかに中途半端。
 ただの出来損ないRPGのようになってしまっている。

・戦術の幅がないのです。
 「詰めシレン」ならば回答は1つでもちろん良い。回答は1つ。
 つまりこの「不思議のダンジョン戦術」を掘り下げていくやり方は
 従来の戦略性のなかから生まれる工夫の積み重ねという仕組みとは
 実は違うものなのではないか。


・例えば、新たなダンジョンに踏み込んだとき。
 レベルは、ある程度の戦力は既に確保されている。
 ダンジョンはランダム、それは必ず回収すべきフラグもアイテムもないことを証明する。
 であるならば最良の戦術はひとつ。逃げて戦力を確保、速やかに脱出すること。
 レベルという蓄積ポイントは先に進めばより効率よく稼げるのだから。

 
・1ダンジョンで完結するからこそ、「不思議のダンジョン」は成立していた。
 フロアごとの敵の強さと出現分布、アイテムの取得確率、所持アイテム数、ターン制限。
 それらの想定される戦力でクリアを可とする、理詰めのバランスが作られていた。

・ゲーム全体を通しての戦力戦略バランスを想定し
 各局面ごとに繰り返しにならず飽きないように
 「詰めシレン」を配していくゲームデザインである本作。
 それは実はいままでのひとつのダンジョンを、ひとつのゲームに薄めただけなのではないか。


・「1000回遊べる」のが「不思議のダンジョン」。
 なぜ何度遊んでも楽しめるのか。それは1回ごとが「一度きりの冒険」であるから。
 蓄積がないことは狭く人を選ぶけれども、深く何度でも楽しむことができる。

・『トルネコ3』は「一度きりの冒険」ではなくなり
 「1000回遊べる」ゲームではなくなった。
 それは新しい挑戦であったけれども失敗であった。



・「不思議のダンジョン」はシステムバリエーションを増すことで遊びを広げてきました。
 けれど、その面からの発展は「アスカ」で十全に満たされているように見えます。
 では次はどうしたら良いのだろうか。


チュンソフトは常に新しいゲームを作り続けてきました。
 アドベンチャーゲームから「サウンドノベル」。
 そこからザッピングシステム。そして「ロールプレイドラマ」。
 ローグから「不思議のダンジョン」。『ホームランド』『ネットサル』。

・『金八先生』の「ロールプレイドラマ」も新しいアドベンチャーゲームシステムを感じさせます。
 これで同じ予算をかけてギャルゲーを作っていればそれこそ売上は違っていたでしょうに。
 それができず『かまいたちの夜2』程度になるのが
 チュンソフトの矜持とそして限界であるのかもしれません。
 (参考;ロールプレイドラマ「3年B組金八先生http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20041026


・バリエーションを満たされた「不思議のダンジョン」。
 そこからの新しい挑戦であった『トルネコ3』。
 しかし壁を越えて新しいジャンルを見出すことはできなかった。
 
・けれど、資金工数物量の壁はあっても、ゲームデザインに限界はない。
 素人の戯言などは飛び越えて
 チュンソフトはこれまでのように、これからもそれを示してくれるはずです。