『ベイグラントストーリー』

kodamatsukimi2010-03-30


 ゲームアーカイブス版サイト http://www.jp.playstation.com/software/title/jp0082npjj00282_000000000000000001.html

・今更遊んだ理由。
 『ハムレットシンドローム』(ISBN:9784094511680)という小説を読んだので。
 そして『ハムレット』といえば、もちろんギルデンスターンとローゼンクランツであり
 『ハムレット』は観たことも読む予定もないけれども
 このふたつの名は、ゲーマーにとって言うまでもなく本作のことである。

PS2をひっぱりだしてほこりを吹いて
 2コントローラ側にささりっぱのPS1用メモリカードで遊んだのですが
 PSPでもPS3でも今は\600で遊べるらしい。回顧主義者でなければそちらをどうぞ。



・さっそく中身の感想に行ってみたい。
 本作の面白いところは3つにわけられる。
 ひとつ。劇的な、芝居がかった演出で語られる謎めいた物語を楽しむ編。
 ふたつ。敵を倒すために有効な武器を選んで対処する編。
 みっつ。チェインアビリティをひたすらつなぐ編。


・まず最初のひとつは、RPG的な、AVG的なところである。
 デモンストレーションシーン、説明場面で交わされる意味深な会話が
 主人公が迷宮を探索して出てくる敵を倒すというだけのあらすじに
 おもむきぶかい物語をくっつけている。

・いつもの描き込まれた絵に文芸がかった台詞。
 最初のバルドルバ公爵邸場面で顕著な音楽に沿って伴う演出。
 本作こそもっとも「劇的な」ゲームのひとつといって過言ない、
 素晴らしい出来栄えでありますが
 ゲームとは関係ない。
 主人公が何をしようとお話に影響ない。


・ここで思うのは
 だからそういうところが不要なのではなく、
 『ベイグラントストーリー』は劇的なゲームである、と思えてしまえるほど
 ゲームとは、みためのいろいろが重要なのだということであります。

・こう操作するとこう動く。そして敵の攻撃手段はこうである。
 だからこの場面はこう操作するのが良いのである、
 ゲームの良し悪しというのはそういうものだという観念がある。
 あるいは
 みているだけでなく、その中で自ら自らを操り演じること、
 操ること、それがゲームというものなのだ。という観念がある。
 けれども
 かといって自機のみためや背景設定や舞台の大道具や台詞の書かれた台本が
 ゲームではないということではないのである。

・例えば、東方STGシリーズである。
 ネットでは大人気らしいである。
 けれどゲームだけなら単なるPCで遊べるSTGでしかない。
 なぜあれが、STGが、「STGごとき」が大人気なのか意味不明。理解できない。
 原因を分析すると、キャラクタが良いとか設定が良いとか音楽が良いとか
 ファンの活動が上手く時流に乗ったとかいろいろならべられて
 パチンコ屋さんでなぜいまさら『北斗の拳』とかが人気になって
 『ガンダム無双』に続いて『北斗無双』とかまで出て話題になるのか、
 というのと同じく、
 理由とは、作品だけでなくあるものなのであります。


・つまりゲームは、アクションゲームとしてどうかとかそういうことも重要だが
 みためも大変重要である。
 売れるためには、くうきをよんで時宜に適うふるまいが必要なのである。

・唯、良く出来ていればそれだけで評価される理由がない。
 できのよさ、というのはそのときに他と比べてどうかであり、
 そのときだけの評価でしかない。
 『ベイグラントストーリー』のみため、ゲーム以外の部分は大変立派である。
 10年たって2世代前のゲーム機作品となってからでも素晴らしい。
 そのとき素晴らしく、時を経てとも素晴らしいということは
 そのときの売上はともかく、今遊んで良く、
 ゲームアーカイブスがいつまで続くかわからないけれども当面、言うことなしである。



・ふたつめ。

・『ベイグラントストーリー』は、分類するならSLGであります。
 敵が出てくる。攻撃するか、後ろ向いて逃げるか決める。
 攻撃するならどの武器でどの敵を攻撃するか決める。
 決めるというのは方向入力して武器を振るボタンを押すのでなく、
 RPGでよくみられる、順に用意された選択肢を選んで進行する形式。
 また、先に進むため迷宮の仕掛けを解くAVG的おもむきもある。
 用意されているブロックを
 押したり引いたりして台にして跳んだりよじ登ったりして、先に進むのである。
 なぜ解けるようになっているのか誰が用意したのか、
 そもそもなぜこういうパズルを解くことがゲームなのか、問うのは無駄である。
 ゲームてきな楽しさというのはそういうものなのだ。


RPGてきな楽しさ、アクションゲームてきな楽しさに対し
 SLGてきな楽しさというのはつまり、パズルゲームのそれである。
 より正しく言うなら整理整頓する楽しさである。
 混沌としてごちゃごちゃで滅茶苦茶な状態を、
 自分のわけがわかるように直すところが、SLGの楽しさ。
 問題が示す解を探すことではなく、自分の良いよう並べ替える楽しさにある。

・このゲームは特に何もせずとも会敵の時点で敵の弱点がわかるようになっている。
 具体的には斬、打、貫のどの種に弱いかと魔法で良くある属性のどれが弱点か。
 それに合わせて武器を持ち替えるゲームである。
 そのために武器を組み替えて育てるのが楽しいのである。
 育てるといっても斬、打、貫の3種あるいは長距離のボウガンを用意しておき
 あとは属性値の目ができるだけ良くなるよう組み替えるだけで
 実のところ出来ることは少ない。誰が遊んでも同じよう育てるはずである。

・前述のブロックパズルと同じく、ならば何が楽しいのだろうか。
 効率を優先するなら攻略がひととおりしかないようなゲームが、
 見ているだけで自分の主人公操作でお話の何が変わるわけでもないゲームの、
 何が楽しいのだろうか。

・ゲームは、競う遊びである。操作の上手さとか同じ土俵上でのかけひきとか。
 あるいは物語をせいせいする舞台装置であることもある。
 それは思い入れでいくらでも広がる。
 同じようにSLGも、ルールの中で最合理的解法を追及する過程に
 思い入れをこめて、自分の好きなように並べ替えることをあそぶものなのだ。
 RPGの台本をよりゲーム寄り、論理パズルてきなそれより、
 ひととひととの間にある空気の綾とりでなく
 もう少し表記しやすい数字などの概念に代えて、遊ぶゲームなのである。


・本作は、まずゲームのみためてきなところに魅力高いですが
 中身のSLGとして遊んでも良く出来ている。
 バトルアビリティをこのたび遊びなおすにあたって禁止して最後まで遊んでみましたが
 それほど長くないゲームの中に、充分自由意のまま好きなように
 操っていると思えて、思いいれられるよう要素が用意されている。
 拾ったアイテムと無理のない自然回復での進行だけでの最適効率解法も可。
 一方で無限に湧く雑魚敵を倒しての能力値上昇も許す。
 短い中に多彩で懐深い、ひとつひとつの仕掛けをいじるのが楽しい。
 とても良いSLGである。堪能。



・3つめ。チェインアビリティ。
 細かく正しく言うと、
 攻撃のチェインアビリティと防御のディフェンスアビリティ、
 合わせてバトルアビリティ。
 攻撃を当てた時と受けたとき、タイミング良くボタンを押すと
 追加効果が得られるしくみ。

・『ベイグラントストーリー』は上述の通り、
 このバトルアビリティなしでも最後まで行けるようになっていますが
 私もそれを確認したのは発売10年目にして初である。
 序盤は誰でもバトルアビリティに頼らずSLGとして遊んで進む。
 しかし最後までその魅力を無視するのは
 『タクティクスオウガ』の召喚や弓や
 『ファイナルファンタジータクティクス』のシドや算術禁止よりも
 つらく困難なみちのり。
 他の要素一切を無意味たらしめるほど強力過ぎるのである。


・だいいち操作していても、様々な武器でチェインをつないだり、
 敵の攻撃動作に合わせてブロッキング決めるのはとても楽しいのである。
 そう、チェインアビリティをつなぐのは気持ち良い。
 効果音も気持ち良いし、主人公の画面上動作も非常に快感を刺激する独特の挙動。
 ガチンっと打って、しゃらんっと抜きまた、ガチンっと打つを繰り返すのは
 鍛冶、はしたことないし見たことないが
 もちつきのあれを思い出すと似たような感。
 快感。気持ち良い。リズムゲームのそれにつらなる気持ち良さで演出されている。

・その上に、効果がSLGとしての楽しさを途中で放棄させるほど強力である。
 ひたすらチェインをつなぐ楽しさに浸っていると、気づけば敵が倒れている。
 工房に籠って新しく得た武器をばらして組み替え育て上げ、
 敵の攻撃に備えて魔法耐性を張りつつ雑魚敵相手でも慎重に進み、
 ボス敵とは長時間のかけひきつなわたりを楽しむゲームだったのが、
 いつのまにやらごり押しである。
 チェインが切れたらアイテムで回復。
 攻撃手段はそれで足るから武具を集める必要は自己満足でしかなくなり
 雑魚敵に構うのも面倒になってボス敵のいるところまで一直線。
 はてこれはどういうゲームであったかしら。 



・ひるがえって
 『ベイグラントストーリー』は、このようなゲームである。
 この3つで出来ている。
 みためとふんいきの良い古典的名作調。
 SLGとしては、相反してというべきか見た目たがわずというべきかの質実剛健
 でありながらクリアするならば豪快にボタン連打で可能。

・面白いゲームであります。
 中盤以降のバトルアビリティの強力さは、それまでのしっかりしたSLGを覆い隠して
 まるでそれ以降なくなってしまったかのような印象を抱かせるようにできている。
 ということは
 『ファイナルファンタジータクティクス』の、
 『タクティクスオウガ』のようなみためでありながら5人パーティであり
 いわゆる「『タクティクスオウガ』のようなSLG」のようであり
 「『ファイナルファンタジー』のようなRPG」で良くあるゲームのようでもある、
 という変なところに通じるものがある。
 
・ゲームとは、どうであればより良いのか。
 何がどうであれば正しく素晴らしい傑作であり名作であり
 ゲーム雑誌評価で満点でありネットの個人評価の集合で長いこと絶賛されるのか。
 どうだか存じませんが
 『ベイグラントストーリー』が未だに今も、
 愛でて良く、遊んで楽しく、また面白いことも確かなのである。