ロールプレイドラマ「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」

 PS2 チュンソフト 6月24日発売 ¥7,140 ASIN:B000219AMQ

 公式サイト http://www.chunsoft.co.jp/game/3b/index.html

 ゲームウォッチレビュー http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20040723/kin.htm


・なぜ発売してすぐに買わなかったか、いくつかの理由を挙げました。
 私にとってみると

 ・前作「かまいたちの夜2」が面白くなかった。
 ・「街」のザッピングシステムを受け継ぐものではない。
 ・「金八先生」であること。テレビドラマを一度も見たことがなく、興味もない。

・遊んでみてどうだったか。
 予想外に面白かった、というのが感想です。
 このひと「時間の砂」でも同じようなことを言っていましたが。

・まず、しっかりと作られています。
 ストーリーは1エピソード、約1ヶ月ごとに1話として区切られていますが
 それぞれの話が、全て測ったように1時間で終わります。
 最初から最終話まで。
 プレイヤーがどのようにプレイするかを把握、コントロールしています。
 けれども、やらされている感じはせず、むしろ自由度は高く感じます。


・シナリオはゲームであること、舞台が中学校であることなどの制限の中で
 かなりの工夫が感じられます。良く考えられています。
 
・中学生に起こる諸種の問題が、簡単に解消するほど現実は単純ではないですが
 ゲーム、エンターテイメントならば、解決する喜びがなければなりません。
 プレイヤーである教師の努力で何とかなるものでなくてはなりません。
 各話とも話の舞台からはずれないように、
 かつゲームとしての面白さを持たせて成立しています。

・しかし、その向いている方向は疑問。
 スタジオジブリのアニメだからと安心して子供づれで映画館に入ったら
 上映されていたのは「海がきこえる」だった、
 というような感じでしょうか。わかりにくい。
 一般層を意識したアニメ絵なのですが、いったいどの層に向けたシナリオなのか、
 すくなくとも私の方には向いていないようでちょっとわかりません。
 何かチュンソフトはこのあたり、外しているような気がします。

・そして、どれが原作ドラマ「金八先生」の面白さなのか、というのはわかりづらい。
 このゲームを遊んだから、ドラマも見てみよう、とは思いませんでした。

・また些事ではありますが、音量調節が欲しかったです。
 背景の音に対して声が小さく聞き取りにくく感じる箇所がありました。


・これは「どろろ」でも感じたのですが
 オープニングアニメを初めとして、完全フルボイスであること、
 様々な演出の全てが、やりすぎとも思えるほど力が入っているように見えます。
 ここまでやらなければならないのか。
 無駄に手間と時間が掛かり過ぎなのでは。
 ここまでしなければ売れないのでしょうか。

・まあ、両方とも売れていないわけですが。


チュンソフトならではの細部にわたる作り込み、プレイアビリティの確保。
 そしてテーマに沿った最期まで飽きさせないシナリオ。
 この時点で「かまいたちの夜2」にあった不満は解消されています。



・次にザッピングシステム、話を演出するシステムについてはどうなのか。
 これがとても面白いです。

・ジャンル名は「ロールプレイドラマ」。
 学校や街に散らばる生徒や先生たちと会話して
 問題を把握し、解決の方法を探し、そして協力者を求めます。
 家庭内の問題があれば親と話をし、行方不明の生徒を探して街を歩き、
 校舎の屋上から街を眺め、教師とは何かを考えます。


・具体的には
 各話ごとにさまざまな問題が提示されます。
 それを1日4ターン、規定の日数内に解決をすることが目的。

・プレイヤーは、1話ごとにいくつか用意された必須イベントが起こる期限を
 2日前、8ターン前に知ることができます。
 わかるのは解決までの期限だけ。
 解決方法は自ら考えなければなりません。

・会話、あるいはタイムテーブル上のイベントごとに
 得られた情報のポイントをカード化したものが得られます。
 推理ゲームの証拠品に当たるもの。キーワード、キーアーティクルです。

・プレイヤーは人々に会い、カードを示して相手から新たな情報を引き出します。
 1ターンにできるのはそれだけ。
 他のカードについて話を聞くにはもう1ターン必要、
 カードに記された以外の話を聞くことは出来ません。 
 人々はターンごと様々な場所にいます。
 今誰がどこにいるかはわかりますが、次のターンにそこにいるかはわかりません。
 その人ごと、どこにいることが多いか、という傾向があります。

・問題は何か、誰に話を聞けばよいか、何について話を聞けばよいのか。
 ターン制限、回数制限のなかで
 どの手順、どの方法が問題の解決にたどり着けるか。
 それを考えます。
 複雑なようですが、できることはカードを人にみせるだけ。
 単純です。


・期限、回数の制限があるため難しそうですが、むしろ難易度は低く感じられます。
 イベントごとの期限制限が適度な長さ用意されていること、
 そして事前に余裕をもって期限を知ることができること。
 そして何より、解決の鍵が明確であることが一番の理由。
 謎解きは複雑ではなく、素直に解釈し選択をすれば、問題は解決します。

・ここに、あまりにゲーム的、つまりゲームとしての単純さに寄りすぎ
 物語のリアリティや深みに欠けている、という意見もありえますが
 あえてゲーム世界のお約束の上で、解決できる、できた喜びを重視し
 その結果の積み重ねを、シナリオ全体で上手く纏め上げる形式である、
 といえるでしょう。



・ザッピングシステムはどのように扱われているか。
 1度クリアした2週目以降、ザッピングプレイとして
 1話の中で複数のシナリオを同時に進めることができます。

「街」に在ったザッピングの面白さとは、
 複数人視点、ひとつの事柄をさまざまな角度からみること、という従来あったものではなく
 それぞれの登場人物が、見えないところで影響しあい、ひとつの事柄でなく、
 それぞれの人物の物語が、ひとつの事柄を作りだしていて、それを操ることができる、
 と言うもの。

・本作のザッピングは
 プレイヤーひとりの視点から、同時に起こる複数の物語を見て、それを操るもの。
 複数の事柄に関与し、それぞれの事柄は影響しあっている、という点を除き
 「街」のザッピングとは違うものです。


「街」のザッピングシステムは大きな可能性を感じさせるものでしたが
 また限界も提示していました。

・それはノベルゲームであること。
 絡み合った物語を操れても、その解きほぐした姿は一本の紐。
 決められた設定、決められた過程、決められた結末の物語。
 それが複数絡み合ったものを解きほぐしているだけで、
 変更しているわけではない、
 物語を作り出しているという錯覚を与えるものであること。

・つまり、話の面白さが主であり、
 解きほぐすゲームとしての面白さは付属的なものでしかない、
 それ自体が新しく物語を生み出すものではない、ということです。


・では、本作のものはどうなのか。
 「街」のように大きな一つの物語、
 様々な人の人生が絡み合い生み出す無限の物語を感じさせるものではありませんが
 物語に対し、主体的に関与し、変更し、操り、
 新しい物語を作りだすことができます。
 出来合いのお話ではなく、プレイヤーの選択が作りだす物語。

・と言いたいところですが、まだ残念ながら
 その可能性をみることができる、という段階です。
 並列して起きる事件の関わりが希薄であると言うこと。
 3年B組のある生徒がこの事件に、一方その頃、別の生徒がこの事件に。
 先生となったプレイヤーがこの両事件、あるいはいくつもの事件を解決。
 しかし、複雑さをさけるためか、あえて事件の関係性は薄めです。


・わかりにくい説明でした。
 アドベンチャーゲームを良く知らないかたには、説明しづらいです。



・まとめです。


・シナリオについて。
 個々のイベントは答えが見える予定調和であり
 全体のシナリオも先の見える安易なものではあります。
 しかし、それを感じさせない工夫があります。
 マンガ的に個性的、キャラクターの立った人物たち。
 実写やCGではなく、アニメ絵で声の演技で一貫した水準を保つ演出。
 ストーリーを単純化し、あえて現実の一側面を丁寧に演出することで
 うわべだけでない、ゲームとしてのリアリティと面白さを作り出しています。

・そしてプレイ時間に象徴されるゲームバランス。
 選択の期限や回数の制限と
 例えば最初の一度は音声を飛ばすことができないという演出、
 そのように考えればプレイ時間一定は必然ですが
 作業性を感じさせない、
 むしろ自由度を感じ、話に引き込ませる作り込みはまさに見事です。   


・システムについて。
 ロールプレイドラマは解決が容易であるのが特徴、詰まることは少ないです。
 シンプル、明確に解答を考えることができるシステムです。

・話をあるタイミングで聞くだけ、という単純化
 何をどのタイミングで誰に聞くべきか、という考えさせる要素。
 課題をクリアする手段を簡単にして難易度を下げ
 そのため自ら考え、解く喜びを得る余裕を作り出している。

・そしてこの「手段の単純化による推理要素の創出」というシステムは
 新しいザッピングシステム、事件を並列して解くという、
 筋書きのない物語を作りだすシステムエンジンに好適である。

・名づけて「ロールプレイドラマ」。
 様々な物語の表現に応用が可能。
 このシステムで是非いろいろなゲームをしてみたい、優れたシステムです。
 この点を持って、「街」以上の、
 サウンドノベル、ひいてはノベルゲームという新たなジャンルを作り出した
 「弟切草」に並ぶ、注目すべき作品といえます。


・中学生と教師という、ゲームになりにくい、
 いままでゲームにでき得なかった題材を、しっかりと面白いゲームに仕上げる。
 アニメ絵という見た目もあって
 手抜きがあっては陳腐で媚びた学園ものゲームになってしまったでしょう。
 ゲーム全体の質をしっかりと確保することで
 「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」は
 新しいジャンルのアドベンチャーゲームとして成立しています。


 
参考;「ゲーム批評 vol.58」米光一成さんによる本作のソフト批評
   「同 vol.59」米光一成さんによる本作監イシイジロウさんへのインタビュー
   公式パーフェクトガイド(ISBN:475772019X) 
           イシイジロウ監督、中村光一プロデューサーインタビュー