2009年1月の読書メモとライトノベルサイト杯とか

kodamatsukimi2009-01-31



・暴満館(http://bmky.net/diary/log/1961.html)で紹介されていた
 メディアマーカーhttp://mediamarker.net/)というのをはじめてみた。
 http://mediamarker.net/u/kodama/

・なかなか見やすく便利で良いですが
 シリーズごとにまとめて管理できると、なお良いのではなかろうか。
 ふとマンガを既刊分全作買ってきたときなど、小説単巻の名作が埋もれてしまう感。
 個々はそれほどでなくとも全巻並べると素晴らしい、という場合もあるし。


・しかし、われながら最近『三国志大戦』に飽き気味ゆえゲームセンターご無沙汰で
 そのぶん時間とお金に多少余裕がといって、これはつかい過ぎである。
 たまたま神保町に行く用事あって三省堂本店が風太郎日記を揃えてあるから悪い。
 ライトノベルも買いすぎだ。ジュンク堂の品ぞろえが良過ぎなのは卑怯だ。


・というわけで今回はそのもとを取るためにネットの催しに投票してみることに。

 2008年下半期ライトノベルサイト杯はてなキーワードリンク)

・「平和の温故知新@はてな」(http://d.hatena.ne.jp/kim-peace/)というサイトが
 半期ごと行っているライトノベルの読者投票企画。
 趣旨は
 「普段からライトノベルを読んでいる方々に、それぞれのお勧めを教えてもらう企画」
 とのこと。
 読み始めたのはここ数年なので普段からライトノベルは読んでいませんが
 大人買いした結果たくさん読んでいるので、せっかくだからこの機会に。
 

何がライトノベル

とらドラ!〈9〉 (電撃文庫)

とらドラ!〈9〉 (電撃文庫)

・何がライトノベルか、という定義は
 SFやファンタジーと同じ結論。そうだと思うものがそうである。
 こちらの企画では一応リストが提示されているのですが
 新規部門 http://ippo.dip.jp/lightnovel/lnsite2008last/vote/books/?type=fresh
 既存部門 http://ippo.dip.jp/lightnovel/lnsite2008last/vote/books/?type=veteran
 一般にライトノベルと見なされている作品がある出版社のレーベルはすべて、
 という形のようです。

・それを踏まえて、私の中での「教義のライトノベル的なもの」とは
 キャラクターノベル。キャラクターの魅力が全体構成の基軸をなすもの。
 として整理しております。


・投票外『とらドラ!』は、高校生の恋愛を主題とする小説ですが
 登場人物の「キャラクター」が立っている。
 現実にあり得ないわけでなく、読者が共感できる程度の行動範囲内で
 個性を極端に表現して、普遍的ながら平凡な話に強い訴求力を持たせている。
 こんなことはあり得ないけれど、不可能ではない理想。
 ラブコメディ―のキャラクター小説。ライトノベルらしさが魅力の作品。
 
・投票外なのになぜこれが頭に来たかというと
 書いている途中で投票が、新規、既存合わせて10作だと気がついたので。
 危なかった。それぞれ10作だと思っていました書いている途中まで。

・本作既刊9巻でまだ未完なので、全2巻の『わたしたちの田村くんISBN:9784840230667
 入り口としておすすめであります。

ジュブナイル

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)


ライトノベルの古いいいかた「ジュブナイル」。
 これも定義は様々ですが、私的な用法では
 普遍的な青春小説、少年少女の大人への成長もの、のうち
 その題材となる青少年を対象とするもの 
 と、広義のライトノベル定義のひとつ、中高生向け小説に含まれる一分野。


・これに含まれるようなのがこれら2作。
 『AURA 魔竜院光牙最後の闘い』は、現代的な中高生の
 あまりありがたくない現実と、自由になるようにみえる内面との齟齬、
 という青春時代の主題そのものを正面から扱う作品。
 作者の見せ方はライトノベル的、つまりキャラクター小説に偏った表現ですが
 処理の仕方はこのジャンルのそれ。
 大人は昔、自分たちも子供であったことを覚えてはいない。
 そんな大人にはなりたくない。
 けれどそれが実現するかは、なってみなければ判らない。ならなければわからない。


・『Gunning for Nosferatus 1 此よりは荒野』の舞台は、ファンタジー調西部劇。
 ようするに『トライガン』とかああいう感じのお話。
 いろいろ情けない主人公の少年が様々な経験を経て成長していくわけですが
 ライトノベル的な、つまりキャラの立った登場人物達が
 ジュブナイル的な、年齢経験相応に当たり前な主人公を
 どのように扱うのか、という面から見ていく構成です。
 この面でキャラクター設定が定型ライトノベルに合わないからかわざとからか
 かなり滑っていると思うのですが、それがまた古さでもあり
 そして本作の魅力でもあります。
 

ライトノベルのコメディ

らじかるエレメンツ 2 (GA文庫)

らじかるエレメンツ 2 (GA文庫)

えむえむっ!〈6〉 (MF文庫J)

えむえむっ!〈6〉 (MF文庫J)

・喜劇。ライトノベルに共通する大変よろしいところは
 キャラクター、つまり登場人物の個性が明確であるため
 この場面で内心どう思うか、そしてどう行動するか、ということが
 読者につかみやすいため、お話の進行が読み取りやすく
 ゆえに読みやすいところにあります。

・さらにその分野が広く周知されることで
 キャラクターはいくつかの型に定型化されさらに個性化が許容されますが
 定型があるからこそ、そこからのズレを楽しむ仕掛けの喜劇、コメディが成立する。


・『らじかるエレメンツ』は勢いの良い学園コメディ。
 展開に荒いところも見られますが、キャラはさほど定型に寄りかからず
 この中では一般的に親しみやすい。
 作者は昨年登場の新人ということもあって今後が楽しみです。


・他に投票外のおすすめとして下2作。
 『生徒会』シリーズは『らじかるエレメンツ』とは逆に
 純ライトノベル的キャラクターによる
 ライトノベルというありかたをネタにしたセルフパロディ
 もっとも煮詰まった部分の面白さ。小説という表現媒体の自由な味わいです。

・『えむえむっ』も、変態のキャラクターによるズレを楽しむコメディ。
 下品なところはなく常識的で、ゆえにその落差がおかしい。
 良心的な職人芸が楽しめる、ライトノベルだからこその一品。

少女小説ライトノベル

コバルト文庫http://cobalt.shueisha.co.jp/)や
 角川ビーンズ文庫http://www.kadokawa.co.jp/beans/)なども
 広くライトノベルに含まれますが
 内容からその多くは区別がつきます。
 これらに読者が求めるのはライトノベルではなく
 少女小説というべきものである、というところから。

少女小説というのはどのうようなか、というと古くは『赤毛のアン』とかの
 美人ではなく頭も良くない元気がとりえの女の子が素敵な男性と結ばれる話、
 というと、とても凄く旧弊なようですが
 いまだにそうです。ところが実際今もそうなのです。
 言い方を変えると、自分の良いところを解ってくれる人との出会い、という理想を
 現実と対比させて楽しむ青春小説であり、ジュブナイルで挙げたそれと変わらない。

・つまり青少年期の正義、その価値を忘れた大人にならない現在、
 という観念にそったもの。であるのは良いのですが
 ライトノベルより少女小説は、ジュブナイルのようにその正義の縛りがきつい。


・『アンゲルゼ』は全4巻。
 以前感想を書いた『流血女神伝』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20080306)の
 作者、須賀しのぶさんの新作。現代舞台のファンタジーもの。
 作者のBlOG記事(2008.9.21)によると本来は5巻構想だったそうで途中打ち切り。
 きれいにまとまってはいますが、未回収の伏線がいろいろと。
 登場人物が見えてき、様々な舞台設定が明らかになって面白くなってきた、
 ところで打ち切り。残念無念。

・作者の傾向として、設定が見えて面白くなってくるのに時間がかかる構成である、
 という欠点もあるのですが
 それ以上に、少女小説の要素、主人公が経験を経て成長していくという構成の上で
 この作品の場合、しっかり成長して大人になってしまうところがまずい。
 周囲の人物に影響を与え、自身の為し得ることを果たして成長していってしまっては
 少女小説失格なのです。
 常に変わらず、その心で周囲を唯照らす太陽のような女性であること。
 それが少女に求められる要件であり、読者である少女もそれを求めている。
 少女でなければ、そうやって閉じて成り立つ少女小説は読まないのだから。 

今後の期待作家

ライタークロイス5 (富士見ファンタジア文庫)

ライタークロイス5 (富士見ファンタジア文庫)

・最近読み始めたのに今後の期待もないものですが
 まだこれという結果を残していないけれど、今後是非注目していきたい方について。
 なお『らじかるエレメンツ』の白鳥士郎さんもやはり同じ意味で注目です。


森田季節さんは、この『プリンセス・ビター・マイ・スウィート』と
 デビュー作の『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(ISBN:9784840124225)の時点では
 丁寧な文ではあるもののさほど個性を感じさせるものではありません。

・注目したのはMF文庫J作家陣による同人誌『みみっく!』(http://hirasakayomi.nobody.jp/doujin.htm)に
 掲載されていた短編『ウタカイ』を読んでから。
 設定もそうですが、文章がとても個性的。
 その後、今月1月23日発売の最新刊『原点回帰ウォーカーズ』(ISBN:9784840126342)も
 『ウタカイ』同様の奇天烈な設定を、独自の文で一気に読ませてくれます。
 京都舞台ということで清涼院流水作品や森見登美彦作品、
 ライトノベルでいうなら西尾維新作品のあくを薄めたような作風。
 今後どうなるかわからない期待が持てます。要注目。


・『ライタークロイス』については以前も感想を書いたのですが
 その後5巻で打ち切りに。面白いのに。面白いのに。
 しかしむしろ作者、川口士さんに注目する作品としては
 『ステレオタイプパワープレイ』(ISBN:9784757519909)を挙げます。
 ライトノベルの定型的な複数のヒロインに囲まれ
 主人公は様々な世界の危機を救う最強の戦士。敵はわかりやすいニヒリスト。
 という富士見ファンタジア文庫ではそのままで通りそうな題材を
 徹底的にシニカルに描く作品。
 あるいはスペースオペラの在り方のように極端なパロディとして描いています。

・これを踏まえて、『ライタークロイス』を眺めると
 一見、技術だけで書いている、書きたくないものを描いているかのように見えますが
 しかし英雄的結果を残しながら、それに揺らいで道を踏み外すことのない主人公、
 という目立たない個性が、共通する軸としてあることが見えてくる。
 作者のライトノベルという分野に提出したいものはなんなのか、
 何が作者にとっての主題なのか。そういう面で次回作に注目したい作家です。

クロスオーバージャンル

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫)

迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

戦場のエミリー―鉄球姫エミリー第四幕 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦場のエミリー―鉄球姫エミリー第四幕 (集英社スーパーダッシュ文庫)

少女小説もそうですが、ライトノベルのキャラクターノベルである、
 というところを他のジャンルで用いた結果として
 ライトノベル的である、あるいはその魅力も持つ、というものもあります。


小川一水作品は、題材そのものは魅力的なハードSFであるのに
 同時にキャラクター小説、登場人物が妙に定型な描かれ方をしているのが特徴です。
 はっきり書いて、このライトノベル的なるところは
 一部の短編を除いて作品に寄与するところなしと思うのですが
 作者の好みなのだろうから仕方ない。
 野尻抱介作品の『クレギオン』シリーズのように割り切って使うなら
 キャラクターノベル要素も機能するとは思うのですが。
 とはいえ、『老ヴォールの惑星』(ISBN:9784150308094)以降、
 小川一水は日本を代表するSF作家と万人認めざるを得ない結果をあげております。
 この『フリーランチの時代』もSFマガジン掲載の短編を集めたものだけあって
 むかつくほどSF。はらだたしいほど良い出来。くやしい。


・『人類は衰退しました』は既に安定した人気と内容を誇る作品ですので
 今回の投票からは外しましたが
 いや数制限を直前まで勘違いしていたからですが
 この一覧から拾うなら外すわけにはいかない作品。

・定型に対するキャラクターのズレが喜劇としてコメディになるのですが
 話の構造そのものの定型からのズレを描くものはパロディと言えます。
 ソープオペラ、ホースオペラ、スペースオペラ
 それぞれ先駆の真面目な意図で作られた定型を
 それがある前提で他の面からみることで、新しい要素を見出す仕組み。
 この作品もそれで、さまざまな既存作品を別の面からパロディとして組み直すことで
 高い効果をあげています。
 表面だけを読み下すのでなく、その素を思い起こしながら読み解く深読みもできる。
 そういう読み方に耐え得る中身も持っています。


・『迷宮街クロニクル』はゲーム小説。
 『ウィザードリィ』を素にしたゲーム的状況下、という特殊舞台でのジュブナイル
 他にも『薔薇のマリア』(ISBN:9784044710019)や
 ベニ―松山『風よ。龍に届いているか』(ISBN:9784789301206)など
 ウィズものはなぜか小説にしても良いものが多いですが、なぜなのだろう。
 RPGという仕組みにおいて、旅の要素を描かなくて良く
 短時間で成長勝利の決着を描くことに無理がないように見えるからだろうか。

・『鉄球姫エミリー』は時代劇。
 キャラクターは個性的ですが、内容は剣豪小説とかその手のそれ。
 前作から大分間が空いて心配しましたが、続巻が3月に出るようでめでたきかな。

・『円環少女』はSFばりに設定が細かいファンタジー
 魔法バトルというファンタジー的な素材を細かい描写で描き出す作り自体が面白い。
 もっとも続巻が楽しみな作品です。

・『ライタークロイス』『迷宮街』『エミリー』『円環少女』については
 以前書いた感想(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20081116)もご覧くださいませ。


・以下、投票コード。あっているかとても不安です。時間が時間が。

【08下期ラノベ投票/新規/9784094510805】『AURA』
【08下期ラノベ投票/新規/9784150309305】『フリーランチの時代』
【08下期ラノベ投票/新規/9784797350623】『迷宮街クロニクル
【08下期ラノベ投票/新規/9784094511031】『Gunning for Nosferatus』
【08下期ラノベ投票/新規/9784840124980】『プリンセス・ビター・マイ・スウィート』


【08下期ラノベ投票/既存/9784086304399】『鉄球姫エミリー
【08下期ラノベ投票/既存/9784797349191】『らじかるエレメンツ』
【08下期ラノベ投票/既存/9784829133514】『ライタークロイス』
【08下期ラノベ投票/既存/9784044267117】『円環少女
【08下期ラノベ投票/既存/9784086012393】『アンゲルゼ』



・さらにその他、1月に読んだライトノベル以外についてメモ。


戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)

戦中派虫けら日記―滅失への青春 (ちくま文庫)

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

山田風太郎日記。
 昭和21年以降は単行本しかないのでお値段的な敷居が高いですが
 上の19年、20年は文庫版があります。
 山田風太郎作品は、荒木飛呂彦の生きる時代に居ると必要性を感じませんが
 60年前に居ることは山田風太郎にしかできません。
 文学とかではない。日記。現在のBLOGで
 頭のいいひとたちが毎日書いているようなことは
 60年前山田風太郎がB29に爆撃されながら全て書いています。
 人間は本当に進歩がない。変わらない。変わることができない。
 それを是非確かめていただきたい。
 20年の『戦中派不戦日記』から読むほうが劇的で入りやすいと思います。


地球の緑の丘 (ハヤカワ文庫SF―未来史2)

地球の緑の丘 (ハヤカワ文庫SF―未来史2)

動乱2100 (ハヤカワ文庫SF―未来史3)

動乱2100 (ハヤカワ文庫SF―未来史3)

ハインラインの未来史。全3作。

「面白かったよ、チャーリー。悪い点もいろいろあったが、素晴らしい、ロマンチックな世紀だったね。
 そして1年ごと素晴らしくなり、さらに興奮させられるものになってきたんだ。
 そう、わしは金持ちになりたかったことはない。
 長生きして、人間が星々に行くまで生きていたかっただけだ。
 神様に味方していただければ、自分も月まで行きたいと思っただけだ。」

・現代を生きるひとの「現実的な夢」は
 月に自らの足で立ち、地球を望むことである。
 なぜか。人はただ生きるために生きているだけではないことを自ら証明するために。

・と、ハインライン信者が気持ち良く酔える作品。
 ハインラインアメリカ的な、と見える正義があります。
 それが正しいのかはともかく、彼にとっては正しいと信じられるものが。
 それはまぶしいほどうらやましい。
 その描く未来は鋼鉄都市くらいにしか実現していないのは
 それが正しかったからか、それとも我々が間違っているからなのか。