戦力育成SLG『俺の屍を越えてゆけ』

kodamatsukimi2005-07-07


・前回(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20050628#p2)取り上げました、
 『俺屍』についてさらにひとくだり。

SLGとは何か

シミュレーションゲーム、略してSLGとは何か。どのようなものかどこが面白いのか。
 文章で書くと
 コンピュター、計算機が、シミュレート、模擬的に作成した世界を
 いろいろ操作する遊び。この数値をいじるとどうなるか。

・例えば
 巨人は気に食わない阪神こそが球界の盟主で全員3割打てる実力があるのだ絶対そうに違いないいい
 と、いくら願っても現実はままならず。
 そうだったらいいなできたらいいなをかなえてくれるのが
 『ダビスタ』の薗部博之さんが作ったことでも知られる『ベストプレープロ野球』。
 選手の数値データを好きなように変更できます。
 (参考; bestplayworld.com http://www.bestplayworld.com/
 
・シミュレートとは模擬実験。仮の世界。現実とは違います。
 昨年度の最終成績を『ベスプレ』に入力しても、試すたびに結果は異なる。

・少し前まで世界最速を誇ったス−パーコンピューター「地球シミュレーター」(http://www.es.jamstec.go.jp/
 であろうともSF世界のちょうちょううるとらさいこうスーパーコンピューターであっても
 明日の天気も完全に予測は出来ません。下駄を投げてもそうかわりません。

・なぜ現実を完全に模擬作成できないのか、といえば
 現実が複雑すぎるからであり
 コンピューターに命令を出しているのが人間様であるからです。

・全世界のあらゆるデータを完全完璧に入力したとしても
 それがどのように関わってどのような結果を生むのかの法則、
 大統一理論とか万物理論であるとかは
 SFやラプラスの悪魔にお任せするよりございません。


・ご家庭に一台、子供さんのお小遣いでも買うことができるお値段の
 テレビゲームマシーン専用ゲームとしては
 では、その複雑怪奇な現実世界をシミュレートするとき
 どのように切り取るのか表現するか。
 どう単純化するかモデル化するのか。
 それがSLGの肝でございます。


・単純であることは必要です。
 理解しやすく分りやすく把握しやすい世界でなければ、あやつる楽しみも見出しにくい。
 その世界の謎、お約束、法則を解き明かす楽しさ。
 世界を我が物に、意のままに、破壊と創造を司る神として世界に君臨する楽しさ。
 解く、攻略する楽しさと操る楽しさは、であればこそ生まれるものです。


プロ野球というエンターテイメントをシミュレートしてゲームにするならば
 『ファミスタ』のようなやりかたもあり、また『ベスプレ』のような仕方もある。
 模擬世界を操って、操作して遊ぶシミューションゲームのありかたは
 万物生成不確定である現実を模すゆえに、また無限に多様でありましょう。 
 

俺屍』はどのようなSLG

・『俺屍』はRPGです。
 けれどそこからストーリー、キャラクター、演出、設定の数々を取り払えば
 数字の上下を操り、いかに最適化するかを攻略するSLG

・奉納点の稼ぎと分配。交神相手の選定と時期。
 現在の戦力、個々人の能力、素質、現状値、収集した装備巻物、寿命らを全て眺めて
 さて最期の鬼を倒すため次の最善手は何か。



・『俺屍』には時間制限がありません。そのようにデザインされたゲーム。
 例えば『ロマンシングサガ2』には期限があります。
 お話をゆっくりでも進めていった先には最期のボスがいて
 そこまでに必要な戦力を育てて集めて置かなければ決してそこを越えることはできない。


・『シムシティ』は都市育成SLG。時間が経過していき都市の人口が増えていきます。
 二次元グラフの横軸を時間、縦軸を人口とすれば
 最初の数年で劇的に人工が拡大、グラフは垂直に立ち上がりますが
 以降数十年縦軸最大値50万人を目前にしてひたすら横ばいの曲線を描きます。

・そのようにデザインされている。
 最初の開拓時代こそが面白く、後半はマンネリを感じる、という感想も出てきます。


・『ダービースタリオン』はどうか。競馬世界SLG
 横軸に同じく時間をとり、例えば縦軸に所持金をとると
 最初の数年は安定せず底のほうをうろうろするも
 やがて安定成長、後はいつまでも上り続ける線。
 縦軸の最大値はいくつか。10億を超えてある程度までいくと無意味。
 最初不安定、後半マンネリ。

・けれど『ダビスタ』はそのようなゲームではない。
 毎年、無限の可能性を秘めた仔馬が生まれてき、夢を乗せて走り、数年で引退していく。
 けれど活躍すればその血を次の世代に伝えることもある。

・数年区切りで繰り返し、血をついで能力が底上げされることもあるけれども
 グラフの縦軸に馬の能力をとるならば決して横軸を経るごとに上昇する線を描かない。
 競走馬育成SLGではあるけれどもそれは数年区切りで常に完結し
 それを上限がないからこそ期限もなく永遠に繰り返す競馬世界SLG
 それが『ダービースタリオン』というSLGのデザイン。


・『ロマンシングサガ2』を同じグラフで考えてみれば
 横軸には、ゲームに費やした時間ではなく、物語の進行を表し
 縦軸には帝国の擁する戦力を表す。
 横軸にはいくつかの部分に分れ
 前節から次節へつながりはあって底上げはされるが、断裂がある。
 戦力はその一区切りの間、短期的には多少の上下はあるものの全体をみれば常に上昇を続ける。

・普通のRPGとの違いは期限があること。
 横軸の限界値一歩前に達したときに
 縦軸はある閾値以上でなければならない。
 一区切りの中の多少の上下で追いつかない範囲にあっては横軸の最大値には到達できない。

・最初からそのことを踏まえて単調に上昇する線の角度を常に修正していかなければならない
 ゲームデザイン。 
 長期的な戦力上昇戦力育成戦略SLG、のようなRPG
 SLGのほうは『エムブレム』などがあたりましょうか。



・『俺屍』はどのようなゲームか。
 良くできています。

・キャラクターは数年で引退し、その能力は次世代に常に受け継がれる。
 素質はあっても成長させなければ能力はなく戦力は低いから
 縦軸は常に不安定に上下するものの、その世界のきまりを理解し、上手に操ることで
 その線は安定させて短期間に上昇させることができる。

・ミスをすれば取り返しが付かないほどではないものの大きく下降し
 ガイドブックにしたがって安全に旅すれば安定して成長し
 冒険して勝利すれば劇的に上昇させ得ることも可能。


・短期的なリスクとリターンからくる快感のコントロールだけではなく
 ゲーム全体を見つめて、戦力の上昇に故意に波を作りその操作を意識させる。
 単調増加を続け、その上昇の角度に強弱をつけることでバランスを取る普通のRPGよりも
 戦力育成という観点から優れて見事なゲームデザインです。
 



・『俺の屍を越えてゆけ』は優れた戦力育成SLGである。
 けれどRPGとしての部分は足を引いているようにも感じます。

・余計な演出など不要。
 売上のために、商売とした成り立たせるために、見た目が、演出が必要であるのかもしれませんが
 『リンダ』や『俺屍』が評価されたのは
 その見た目ではなくリンダのキャラクターでもなく
 ゲームとして面白いかどうかであるはずです。


・『暴れん坊プリンセス』『我が竜を見よ』はゲームとしてどこが面白いのか分らない。
 『リンダ』で『俺屍』で見た目でなく処理速度を優先したのは
 アルファシステムの技術力、企業体力を考えなくとも、正しい判断であると
 ゲームマニアのひとは思うのです。