正当弾幕STG『東方風神録』

kodamatsukimi2007-09-26



・そういえば『東方見聞録』、ではなくて『東方見文録』というのが昔ありました。
 キワモノとしてその筋では中々有名なゲームでございます。
 けれども、同人ゲーム、会社組織ではなく個人が趣味で製作している形態、でありながら
 シューティングゲーム『東方』シリーズは、それよりはるかに有名です。

・例えば2chのスレッド数は総合だけで3800越え。レス数でなくスレッド数が。
 関連(http://thwiki.info/?%C5%EC%CA%FD%A5%B9%A5%EC%B2%E1%B5%EE%A5%ED%A5%B0)含めるとわけわからん数。
 なので人口に膾炙して説明要らないか、といえばさにあらず。
 これもやはり、その筋では、の話。
 旧式2DSTGというジャンルの中では。ネットの一部地域では。
 所詮マニア向けのSTGでございますれば。


・2DSTG。『スペースインベーダー』みたいなあれ、
 『ゼビウス』『グラディウス』みたいなそれは、面白いのですが
 遊ぶひとしか遊びません。地味だから。古いから。難しいから。
 つまらないから。すなわち、興味がないから。
 一方でまた、そういう興味のないひとに薦められるゲームも、ない。
 遊ぶひとは声高でも数少なくて、ゆえに受け皿もまた広がらない。

・遊べばわかる。しかし、遊んでも、わかったとしても
 2DSTGとは今や、浅いのでなく狭いのでなく、単純すぎるのです。
 1対1の対戦格闘より協力して敵を倒すオンラインアクションゲームの方が
 ゲームとして複雑で、そして新しいから見た目も良く、だから興味深くて
 ゆえに面白い。
 進歩すること。大きくなること、複雑になること、幅広く奥深く多様になること。
 そうなっていないゲームジャンル。


・『東方』シリーズは2D弾幕STG。「21世紀の20世紀延長型」伝統の弾幕STG
 面白い。けれど古い。しかし良いのです。

・廉価で質が高くPCのデスクトップに居座れる手軽さで同時期平行に遊ぶ人数が多く
 エンディングを見るのが難しくない。
 2DSTGとしてお勧めできるのはまずこのシリーズ。
 という、それが『東方』シリーズ最大の価値。そう言えます。


・興味がないから面白く見えない。それを喚起する絶対の方法は知りませんが
 興味があるなら自信を持ってまずこれをお薦めしたい。
 体験版を触ってみていただきたい。http://www16.big.or.jp/~zun/
 同人ゲームである。地味な2DSTGである。しかし面白いのはこれなのです。





・さて最新作『東方風神録』の感想を少し。
 今回は、前2作の『花映塚』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20051022)、
 『文花帖』(http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20060418)と違って
 『紅魔郷』『妖々夢』『永夜抄』につながる形の直球STG
 『グラディウス5』的なオプションコントロールが素敵素敵、
 ではなくて、得点稼ぎまわりがシンプルになり
 『怒首領蜂大往生』調の正統派を思わせるそれ。
 正統派って何。むしろ邪道じゃね。しかし狭い中ではあれなのである。


・特徴は第一に、GRAZE、カスリを廃したこと。エフェクトはあってもBUZZらない。

・旧作を遊びなおしてみますと
 『紅』から『妖』にかけては、カスリの快感を長所として伸ばしています。
 『妖々夢』の弾幕は特に、低速集積型でありながら隙間がこれみよがしで
 さあ画面中隅々回ってカスリまくりたまえとの御託宣。
 縦スクロール弾幕型において、伸張方向とはどちらか。
 自機と敵種類、その攻撃方法に要素を継ぎ足してまとめるときの主題は何か。
 この時点では、自弾撃ち込みではなく、魅せる弾幕美を追求した避ける楽しさ、
 それが主に提示されているものです。


・『妖々夢』が『紅魔郷』に対して欠けるのは、敵に撃ち込む感覚です。
 避けて撃つ。両輪の後者が弱く、避けているだけでも倒せてしまう。
 『妖』から『永』へは、その両立を図るべく、かといって揺り戻しではなく
 『紅』で補助だった自機速切り替えに対応して、敵攻撃が変化する要素の追加で
 画面全体を見て避けているだけではなく、ステージ道中とボス敵対応の両者を見て
 複雑に組み合わさった、自機性能と敵対応の関係を解いて立ち回る仕組みになり
 自機が敵弾を避けていれば良い、に加えて敵要素を把握していなければならない、
 という形式に、変化がなされています。

・基本カスリで稼ぐのは変わらないですが
 それに偏らないよう撃ちこみにも意味を持たせて
 しかしどちらかに片寄らせないと稼げないようにもして偏らせない。


・そういう仕組みなのですが、であるがゆえに試行を重ねなければ正解がわからない。
 カスれる程度、撃ち込める程度によっても微妙に均衡が異なるのです。

・『妖々夢』では、得点を稼ぐためのカスリを
 しなければならない必要性が、敵を倒すために対して弱いため
 生き残るための動きと、稼ぐ場合のそれが、まったく違うものになっています。
 この是非はひとまず置いて
 『永夜抄』では、稼ぐための正解すなわちできるだけ沢山カスること、
 であった前作までに比べて多様であり、ゆえに確かめ難いために
 生き残るための動きから、より上達していくべくある正解への方向もまた
 わかりづらくなってしまっている。

・それが『永夜抄』の『妖々夢』に対して大きく異なる点。
 攻略、正しい選択を追い求める過程が永夜に深い奥深さを持つという魅力。
 避けて撃つことを速く正確に行う、という操作の上達に対し
 カスリは、限界のアタリを見切るという面からそれに答え得る。
 しかし『永夜抄』の攻略は、その延長上に置かれていない。

・そのように解されなかったか、試行が必要である比重が重すぎたか。
 ただ生き残ることだけならシリーズでもっとも易しい、というだけでなく
 中間にもう一段指標が必要だったかもしれません。 




・『風神録』は、敵撃破で出現するアイテムを拾うこと、
 ボス敵はできるだけ早く倒すこと、この2点に特徴が集約されています。

・アイテムは、つねに拾い続ける、間が空かないようつなぎ続けることで
 得点効率が上がる方式。
 これで『永夜抄』の、片寄らせた方が高効率である、という仕組みからくる
 画面上部への張り付きという、見て美しくない偏りをなくし
 『妖々夢』にあった、速攻撃破より時間一杯カスリ続けた方が良い場合をなくすことで
 生き残ることと稼ぐこととの乖離をなくしている。



・スコアを稼ぐための正解と、安全確実にクリアするための正解が
 違っていて良いのか。違っていても良いのか。同じでなければならないのか。

・しかし、前回にも書いたのですが、ゲームとはその2種類、いや
 効率を追求することが唯一1種正しいこと、ではないのです。


・『東方』でならば、美しい弾幕を見て避け楽しむこと。
 そうしようとすることは
 手元だけみての生き残り優先とも、画面全体見ての稼ぎとも違うもの。
 極端に言えばゲームでなくとも良い。
 リプレイや、誰かの遊んでいるのを見ているだけでも良い。
 その場合の正解は何か。
 それは見ていて魅力あるものであること。


・ゲームとしてSTGとして遊ぶとき、より正しく効率良いほうが良い、であるべき。
 それは操作が上手いことが評価されるべき価値であるアクションゲームであるから。
 では正解はどのように設定すべきか。
 奥深く。そのほうが永く遊べる。幅広く。そのほうがより自由に楽しめる。

・ではその段階をどのように誘導すべきか。
 正解はひとつではない。少なくとも高得点と、安全と、見た目の3種類以上。
 高得点、で目標とされる正解である得点、スコアという数値自体も
 この誘導標であるのです。
 短時間クリアなら経過時間、低レベルなら強さ程度表示が必要であるように。

・その「レベルデザイン」を組み替えたのが、『永夜抄』から『風神録』への変化。
 緊急回避のボム攻撃が、1シーンに1回のみ限定制限という調整を含めたその結果が
 得点アイテム回収のみが安全に反するもので
 基本は、避ける前の撃たれる前に撃つ、である、速攻撃破が正しい正当派STG
 敵配置を覚え、速く正確に撃ち、余裕を持ち美しく避けアイテムを回収する。
 それが正しい。何かに片寄らない。偏らない。しない。
 それが『東方風神録』。




・2DSTGは『スペースインベーダー』以来進歩していない。
 まだ行われていないバリエーションを探すことでしか変化していない。
 敵の弾を避けて、弾を撃ち込んで敵を破壊すること。
 それだけ。

・そうなのです。その通り。
 しかしだからといってもちろん、それで面白くなくなってはいるのではないし
 それは既に楽しいものなのです。
 完成されている。あとはより面白くするだけのもの。


・画面が綺麗になること。美しくなること。これは良いことです。
 敵弾が増えること。多彩に動くこと。
 アクションゲームとして背景でしかないそれは、無駄だけれども
 邪魔ではない。邪魔でなく、見ていて綺麗だから良い。
 

・どこまでも1人用である。敵はいつも同じ様である。
 けれど、そういう単純な形式だからこそ
 そこに映った自分をより良く見ることができる。
 それはどれほど正しいだろうか。
 その問いに、正しく答えてくれるのだ。