『高速カードバトル カードヒーロー』

kodamatsukimi2008-01-16


 公式 http://www.nintendo.co.jp/ds/ychj/index.html ASIN:B000Z1L0NA


・2007年末に発売された本作は
 2001年にGBCで発売された『カードヒーロー』(ASIN:B00005OVBG)のリメイクであります。
 中身ほとんど同じ。
 通信対戦対応くらいしか、ゲームとして変わっているところはございません。
 もちろんカードの種類や遊べるモードなどは増えていますけれども
 それすなわちつまりずばり、既に完成されたゲームだからなんだよ、
 とGBC版のころは思っていたのですが、今回遊んで違う気がしてきました。

・今作のタイトルは頭に「高速カードバトル」が付きます。高速です。
 あっというまに決着が付く、というのは
 このたび追加された「スピードバトルモード」を指すのではなく
 『カードヒーロー』自体、1人で遊ぶのではなく対戦すると
 あっという間に決着が付くゲームなのですよ、という意味なのである。



・カードバトルである。トレーディングカードゲームでございます。
 勝負して得られたポイントで新規カードを購入。
 戦っていてもカードの能力値は成長しない。
 デッキに組み込んで、カード性能の個性を活かして使い分ける、
 操り手の性能が問われるという種のゲームです。

・わかりやすくいうと、RPGのボス敵との戦闘。
 勝利して成長させるのが目的ではないのである。
 準備に準備を重ね、貴重なアイテムを総ざらいし、限界ギリギリでもって勝利を収める。
 胃が痛くなるけれどその分大きな喜び。
 それを繰り返すゲーム。


・カードを組み合わせてデッキを組みます。
 敵と交互に、戦場へカードを配置していく。プレイヤーキャラクターが中央に、
 前衛、後衛のカードが両脇に、それぞれ2枚ずつ計4枚お供につく。
 勝利条件は盤面中央にいる相手プレイヤーキャラクターのHPを先にゼロにすること。

・お供カードは全滅しても良いのです。プレイヤーが倒されなければ勝ちなのです。
 カードはデッキから1ターンに1枚引いてきて、どんどん追加補給できる。
 カードやプレイヤーキャラの特殊技を使ったり、カードを盤面に配置するのには
 ターン経過などで得られるコストが必要。 
 コストをやりくりし、引いて手元にあるカードのどれを戦場へ投入するか判断し
 とにかく先に、相手ボスのHPを削りきること。

・相手のまだ盤面に配置していないカードは見ることができない。
 また、自分のデッキからどのカードを毎ターン1枚引いてこられるかは選べない。
 相手がどのように攻めてくるか、数ターン後に自分の手元戦力はどうなっているか。
 その運に左右される点を、デッキをあらかじめ自分で組んでおけること、
 コンピューター相手ならばその使用デッキはいつも同じ、つまり
 RPGのボス敵の能力値は常におなじなのに
 こちらはそれまでにどれくらいでも強さを高めておける、という点で、
 解決できるところが
 カードゲームのそれは、RPGのボス戦闘と同じであるところなのです。


・ボス戦闘を連続するゲームですから、いきなり始めるとおいつかない。
 のでチュートリアル、はじめてのてびきはとても充実しております。
 GBC版でのモードよりさらに一段噛み砕いて単純なルールのモードを設け
 ストーリーにそって順に遊んでいくことで
 適当な強さの相手、入手カードとその組み合わせによる自分のデッキ充実進行度、
 任天堂インテリジェントシステムズの丁寧極まる仕事振りによりまして
 誰もがこのゲームは素晴らしい、と確信できる出来となっています。
 誰もが素直にストーリーのエンディングはもちろんのこと
 中の人などいないところまでたどり着けることでありましょう。

・んがしかし。このあたりにきて、カードが揃い、
 いよいよデッキを自分の好み重視して好きに組めるようになってくると
 任天堂の調整がいかに絶妙であったかをまざまざと感じることになります。
 今までの、エンディングまでついてる遊んでいたゲームはなんだったんだと思います。
 そこまでが「カードヒーロー」。
 しかしここから始まるのが『高速カードバトル カードヒーロー』であることに。




トレーディングカードゲームは、強いカードを沢山もっているほど強いです。
 その程度をどうするか。
 つまり、上手いひとならば弱いカードでも勝てるようにするべきか、
 上手いひとが強いカードを持っていても負けることもあるようにするべきか。
 そこは実に難しいところです。

・ゲームの上手い下手というのも、他のゲームで言うようなそれともまた違う。
 操作の上手い下手ではないのです。反応が早いとか入力が正確とかではない。
 ターン制です。相手よりあたまがよいかどうか。

・例えば、同じインテリジェントシステムズの『ファミコンウォーズ』シリーズは
 1人用のコンピューター対戦はもちろん、対人対戦も面白いです。
 凄く時間がかかるのが難ではありますが。
 けれど『ファミコンウォーズ』とは、『カードヒーロー』と違い
 彼我の初期戦力差、手持ち駒がまったく同じ条件下である、
 すごく複雑な軍人将棋であるのです。別物なのです。
 その初期戦力を自由に組み換えられたらどうだろうか、
 駒の種類をもっと増やしたら戦術に広がりが持たせられるのではないか、
 戦場を狭くし勝敗条件を絞ってルールを単純化すれば、
 もっと手軽に遊べるのではなかろうか。

・上手い方が強い、だけではない。
 カードの所持数、その組み合わせデッキ構築力、そして手札に引いてくる運。 
 そういうゲームなのです。
 囲碁将棋のようにまったく実力のみ、麻雀カードゲームのように運と技術のゲーム、
 それらとも違って、カード資産によって強さが変わってしまうゲーム。
 下手なひと、経験の浅いひとほどカードも持っていなく、知らない上に弱い。
 けれど下手でも、カードを揃え、運に恵まれれば勝てないこともないこともないもの。
 どれがどうか正しいか、ではなく違う種類で成り立つゲーム。


・1人用、つまりRPGの戦闘と同じなら良いのです。
 こちらだけ一方的に強くなれる。いつか必ず勝てる。
 その面では、『カードヒーロー』のカード収集デッキ増強が
 すなわちイコール、レベルアップによる戦力増強であり、まったく問題ない。
 そういうRPGも過去にたくさんございます。ありました。いろいろ。
 それらと比較してしまうなら、『カードヒーロー』のストーリーモード、
 すなわちチュートリアルの方が、むしろ良くできていて面白いかもしれません。

・しかしその良くできたゲームも同じ仕組みで、対戦用の遊び道具としてならばどうか。
 操作の巧遅が関係なく、RPGの戦闘のようなルールで対戦ができるゲームは
 将棋や麻雀やトランプのようにすぐれた対戦道具となりえるのだろうか。
 『ファミコンウォーズ』のように、戦争SLGとしてだけでなく
 対戦ゲームとして優れたものとなり得るのだろうか。



・対人対戦用トレーディングカードゲームとして
 操作の上手い下手、アクションゲームとしての要素を組み合わせ
 またアーケードでこその長い稼働時間と複数回のバージョンアップで
 その対戦道具としての価値を作りあげているのが『三国志大戦』です。
 『カードヒーロー』は、コンピューターゲームであるだけに
 非電源トレーディングカードゲームのように「エラッタ」で
 途中のルール変更もバランス調整もできない。
 しかしそれでも、『カードヒーロー』は良くできた対戦用ゲームであるといえましょう。

Wi-Fiで対戦してみるとすぐにわかります。
 エンディングを見るまで任天堂がそうあるべきと言われる通りに遊んでいた
 「カードヒーロー」というゲームと
 『高速カードバトル カードヒーロー』が、まったく別ものであるということに。


・盤面の中央に配置されるプレイヤーキャラクターは、バリアーをもっており
 2ダメージまではカットすることができます。
 非力なカードではダメージを与えられないわけなのです。
 プレイヤー自身の攻撃力も2なので、目の前にいる相手敵に攻撃してもノーダメージ。
 それまでは、アイテムカードを付与したり
 敵カードを倒すことによるそのゲーム内のみの能力上昇などによりなんとか工夫して
 3ダメージ以上与えられる状態に持っていて攻撃するのですが
 カードによっては特殊条件下で、いきなり3ダメージの攻撃ができるものもあります。
 またバリアを無効化する特殊攻撃を持つカードもあるのです。

・カードが揃ってきて、そういう攻撃力が高いカードを
 複数枚デッキに組み込めるようになると
 当然、それまでと戦略がまったく変わってきます。
 自陣営の損害など気にせず開幕速攻、相手ボスを即潰す戦略こそが
 実はこのゲーム唯一の正解なのではなかろうか。そう思えてくるのです。
 そして、1人用のコンピューター戦で試してみれば
 おおよそ敵はそれに対抗できません。実はそうだったことが分かってしまうのです。

・これまでのように、得られる様々なカードを試してみながら
 それぞれのカードの長所短所を活かしながら組み合わせて戦っていく
 通常のトレーディングカードゲームのような、腰をすえた戦い方よりも
 高速開幕速攻一気に乙。の方が明らかに強い。
 なるほど高速。なるほどそうか。なるほどこれが「高速」カードバトルなのだ。
 いきなりボスからダメージ奪えるカードだけで組んだような尖ったデッキが
 このゲームの正解であるのだと。


・コンピューター相手、1人用モードならば確かにその通りなのです。
 ここまでだと『カードヒーロー』は
 チュートリアルこそ丁寧だが、最終的なバランスの悪いゲームである、
 といって間違いではないでしょう。
 上に倣って洒落でRPGに例えるならば、本編のできは非常によろしいが短く
 そしてエンディング後のおまけ部分はバランスが崩壊している微妙な作品。7/10点。
 無理して色々多様に容易されたカードを使うこともできます。
 けれど合法速く確実に勝てるカードを使ってはいけない理由はないではないか。
 高速に終わらせられるのに
 弱くて頭の悪いコンピュータの相手をしてあげる時間はないのだ。

・しかしこのゲームにとって、ストーリーモードなどはチュートリアルに過ぎない。
 おまけです余禄です付録です。ついでなのです。練習なのだ。
 対人対戦用ゲームなのです。ネットにつないでいつでも対戦が楽しめる。
 それがメインのゲームモードなのである。
 そうすると変わってきます。


・相手が開幕速攻を使ってくる場合、こちらも同じ開幕狙いで
 後は先攻後攻の運次第のゲームでしかないのか、対抗策はないのか。
 というともちろん違う。そのための多種類のカードです。
 見た目子供向きでも中のひとは京都のひと。どうみても誰よりも大人です。
 若きは開幕攻勢で無理するからこそ、しのがれきられるともろい。

・そこからがこのゲームが始まるのです。
 一手ごとの待ち時間は1分30秒と長めなのに、気にならないほどの濃密な試行錯誤。
 高速です。あっというま。このゲームを始めるとたちまち時間が過ぎていく。
 デッキ構築と引き運。安全に殲滅狙うか一気の攻勢狙うかの戦略。
 それがこのゲーム。
 そしてそこにはもちろん絶対の正解はない。




・回線切断状態になっても続けてコンピュータが代打ちしてくれます。
 降参しましたボタンをつけるべきなのではないか、と
 Wi-Fi対戦には思ったこともあるのですが
 良くも悪くも極力見知らぬ相手とは意思疎通できないようにするのが
 任天堂の指向する正解なのでありましょう。
 フレンド通信ではボイスチャットしながら対戦もできます。
 また、対戦した相手のデッキが記録に残って後で確認できるのも良い工夫。

Wi-Fi対戦は1回勝負。勝負後互いが同意すれば同じ相手と戦えますが
 そうでなければその相手、そのデッキとの対戦は1度だけ。
 コンピュータ相手のように初戦終了後に対策練るというわけにはいきません。
 だからこそこだわりが生きる。開幕狙いもよし。そのカウンターデッキもよし。
 デッキ相性がなるべく際立たないように組んでも良いし、特化しても良い。
 そのどちらが正解でもない。そういうしかたがこのゲームの答えです。


・テレビゲームのトレーディングカードゲームは、対人対戦用のゲームとしてどうか。
 デッキが揃っていないとどうにもならない。そこまで育成しなけらばならない。
 1人用としては成長育成要素として楽しめるそれも、マイナスではありましょう。

・『カルドセプト』はその重厚長大路線を真っ向受け止めてみせるゲームです。 
 『三国志大戦』はアクションゲームとして幅を持たせている。
 『カードヒーロー』は「高速」に決着が付く、という点に
 携帯ゲーム機にふさわしく、見た目子供向け入門用に見せかける姿勢も保持したまま
 まとめ挙げた、そういうゲームであります。
 これが正解か、というとDSでここまでしか変えられなかったのか、とも思いますが
 まずは現時点、任天堂の回答として満足いく作品であるとの感想であります。